育児に熱心な男性「イクメン」が多い地域とは、いったい、どこなのだろうか?
そんな都道府県別の「イクメン力」を順位付けした「イクメン力全国ランキング」をはじめとした、積水ハウスによる「イクメン白書2020」 調査の結果が発表された。
なお本調査は、全国の小学生以下の子どもを持つ20 代~50 代の男女9,400 人を対象としている。
決定!イクメン力全国ランキング2020
■イクメンTOP3は、佐賀、熊本、福岡の九州勢!
イクメン力が高いイクメン県は、1位「佐賀県」(205 点)、2位「熊本県」(192点)、3位「福岡県」(191点)と、なんと今年は九州勢がTOP3を独占する結果となった。
保守的なイメージがある九州男児だが、TOP3の3県は共通して、夫の家事・育児実践数、妻の評価するイクメン度、夫の育児取得日数で去年より順位が上昇。佐賀県の 20~30代女性の70.0%が「夫はイクメンだと思う」と評価しており、全国平均(46.5%)よりとても高くなるなど、妻の評価が高いことがランキングの上昇につながったのかもしれない。
■佐賀県 山口知事よりコメント
佐賀県が日本一のイクメン県になったこと、本当に嬉しく思います。今、佐賀県では、結婚、出産、子育てのあらゆるステージで支援を行い「佐賀で子育てしたい」と思ってもらえる環境をつくるプロジェクト「子育てし大県さが」に取り組んでいます。男性の育児参画もその一つ。男性の育児参加率がとても低いことに衝撃を受け、妻が妊娠期にある夫婦をメインターゲットに、家事や育児を夫婦で担うという意識を高める取組等を進めてきました。
私自身、妻が第三子出産で入院した際、育休を取得しました。4歳の⾧男と3歳の⾧女の世話に専念した期間は、想定外の出来事の連続で大変でしたが、とても幸せな時間でした。子育ては色々な楽しさを見つけられる貴重な体験です。
「家事・育児はこうするもんだ」という“もんだ症候群”から解放され、「楽しさ」や「幸せ」を感じてほしいです。今回の調査は、コロナ禍で妻の不満が高まっていると言われる中で行われ、そこで、「妻が評価する夫のイクメン度」が1位に輝いたことは本当に素晴らしいことだと思います。
また、特に20~30代で「夫はイクメン」と思う方が多いことも、若い世代を中心に「夫婦で家事・育児をする」という意識が浸透してきていると嬉しく感じました。
これからも、男女がお互いを支え合いながら家庭生活を送ることができる「子育てし大県」を目指していきます。佐賀さいこう!
■「イクメン力全国ランキング」2020 年の傾向
部門別のランキング上位県を見ると、「イクメン力」の中でも各県で得意な部門が異なることが分かる。
夫の育休取得日数では「東京都」が1位と、他県をリードした。東京都はテレワーク制度の推進等も進んでおり、制度面において充実しているのかもしれない。妻が評価するイクメン県には佐賀県、熊本県と総合上位県の顔ぶれがそろった。
夫の家事・育児の個数は、昨年の5.4個から6.0個へと増え、夫のイクメン度も-0.03から-0.01と上向き傾向。共働きが一般化する中で、家事をシェアする夫婦の在り方が見て取れる。家事・育児時間は 11.1時間から12.9時間、育休取得日数は2.4日から4.1日へと、増加している。
■積水ハウスが独自設定した男性の「イクメン力」の基準となる4 つの指標
積水ハウスでは、右図の4 項目を男性のイクメン力の指標として設定した。1つめは配偶者からの評価で、夫が行っている家事・育児の数と、夫がイクメンと思うかどうか(4 段階評価)の2項目。2 つめは夫の育休の取得経験で、取得日数が基準となる。
3つめは、夫の家事・育児を行う時間で、夫の自己申告ではなく配偶者から見た夫の家事・育児時間を基準としている。4つめは夫本人に家事・育児に参加して幸せを感じているかどうかを4段階で聞き、本人の育児幸福感を基準とする。
これら5項目4指標をそれぞれ数値化して47都道府県別にランキングし、1位:47点、47位:1点を付与し、各項目の点数を足し上げることで、都道府県別のイクメン力を算出した。
育休取得の実態
■男性の育休取得率は9.6%→12.8%
男性には自身の育休取得経験、女性には夫の育休の取得経験を聞くと、男性の育休取得率は昨年9.6%から12.8%へと増加傾向を示している[図1]。
育休を取得した男性1,202人(男性本人 621人+女性の夫 581人)が取得した日数は「1週間未満」(60.6%)が最も多いものの、約2割が「1カ月以上」(18.1%)取得しており、昨年(13.1%)より増えている[図2]。
取得率も取得日数も伸びているせいか、取得した育休の満足度を聞くと、81.8%が「満足した」と答えており、昨年(67.5%)より 14ポイントも高くなっている[図3]。
■男性の育休制度に8割が賛成!しかし、実際取得するとなると男女共に減少傾向
男性の育休制度について聞くと、男女共に8割以上(男性 84.8%、女性 82.4%)が制度に「賛成」している[図4]。しかし、実際の育休取得となると、「取得したい」と答えた男性は60.3%、「夫に育休を取らせたい」と答えた女性 51.1%と、賛成スコアより少なくなっている[図5]。
■取らない理由は「制度が未整備」「取りにくい雰囲気」など職場環境が大きな要因に
育休を取得しなかった男性3,729人にその理由を聞いた。「職場で育児休業制度が整備されていない」(36.0%)が最も多く、「職場が取得しにくい雰囲気」(27.9%)、「職場で迷惑をかけてしまう」(25.8%)など、職場環境が育休取得を阻む大きな要因となっている[図6]。
■給与面や復帰後の調整、周囲のサポートが充実すれば、もっと取得しやすくなる
全員に職場がどのようになったら男性の育児休業取得が推進されると思うか聞いた。すると、「育児休業中の給料・手当が変わらない」(88.5%)、「育児休業後も業務の調整がつく」(85.8%)、「直属の上⾧が理解してくれている、サポートしてくれている」(84.8%)などが上位にあげられた[図7]。
■働く男性の家事・育児時間は、平日1.5時間、休日3.4時間と女性の半分以下
働いている男女6,882人に仕事がある平日の1日あたりの家事・育児時間を聞いた結果、男性は平均1.46時間、女性は5.14時間となり、女性の家事・育児時間は男性より3.7時間も⾧く3.5倍にも上った。
休日は、男性は3.41時間と平日より1.95時間⾧くなっているが、女性は8.16時間とさらに⾧くなり、男性より4.8時間も⾧く時間を割いている[図8]。令和の時代になっても、家事・育児は、まだまだ女性の負担が大きいようだ。
■本人の育休期間が⾧いほど、男性の家事・育児幸福度は高くなる
全員に、男性は家事や育児を行うことに幸せを感じるかと聞くと、男性は78.4%が「幸せを感じる」と答え、女性は64.1%が「夫は家事・育児に幸せを感じている」と答え、去年とほぼ同じ[図9-1]。
育休取得の有無で見ると、取得した夫の幸福度は80.4%と取得していない夫(69.3%)より11ポイントも高く、育休は幸福をもたらすといえそうだ。1カ月以上取得した夫の幸福度は 90.9%といっそう高く、昨年(76.3%)より15ポイントも高くなっている[図9-2]。
家事・育児に幸せを感じる夫の意識調査
育休を取得する男性も徐々に増え、取得した男性の育休満足度が8 割を超えて高くなった2020年。また、日常の家事・育児に幸せを感じる夫も約8割と少なくなく、積極的に育児に参加する男性の姿もあちこちで見かけるようになった。
そこで今回は、「イクメン力」の基準となる4つの指標にもある“夫本人に家事・育児に参加して幸せを感じているかどうか”について深掘りし、「幸せ」にフォーカスした調査を行った。
■家事・育児に幸せを感じる夫は、家事・育児スキルが高まる傾向
男性には自身の、女性には夫の家事スキルについて聞くと、家事・育児に幸せを感じると答えた幸せを感じる層(6,650人)は 57.6%が男性の家事スキルが「ある」と答えているが、幸せを感じない層(2,750人)は26.9%に留まり30ポイントもの差がある[図10-1]。
男性の育児スキルについても同様の傾向で、家事・育児に幸せを感じる層58.7%:幸せを感じない層 23.3%と 35ポイント差となった[図10-2]。日常の家事・育児に幸せを感じている男性は、家事・育児のスキルがあると見られることが多いようだ。
■家事・育児に幸せを感じる夫は「生産性の向上」「会社への愛着」に倍以上の効果
育休を取得した男性621人に、育休を取ったことでの仕事面の意識の変化を聞いた。家事・育児に幸せを感じる男性の64.0%は「生産性が向上」し、40.4%が「会社への愛着が増した」と答えた[図11]。
どちらも幸せを感じない男性よりスコアが高いことから、家事・育児に感じる幸せが、仕事面にも良い影響をもたらしているといえそうだ。
■男性の育休制度が充実している会社は社会的にも評価の高い企業として認められる
育休を取る男性社員がいることが、企業に対してはどのような効果があるのか調べた。全員に、男性社員の育休取得が進んでいる企業のイメージを聞くと、「企業イメージが良くなる」(89.9%)、「生産性が高い企業だと思う」(83.7%)、「就職したい(自分の子どもに就職してほしい)」(86.7%)と、全ての項目で好評価だった[図12]。
SDGsのジェンダーの平等という視点からも、男性の育休取得は推進すべき課題の一つであり、本人や家族だけでなく、職場や企業にもメリットがあり、社会にも貢献できる、“四方よし”な制度といえそうだ。
「イクメン白書」から見えてきた今どきのイクメン像……子ども支援政策や男性の家庭参加の専門・治部れんげさんに聞く
今回の調査結果で興味深かったのは、佐賀、熊本、福岡という九州三県がトップ3位を独占したことです。これまで「九州男児は保守的」とされてきたイメージを覆す画期的な内容だと思いました。
もしかしたら「九州男児」に対するイメージ自体が特定地域と性役割の強さを結び付ける「ジェンダーバイアス」なのかもしれません。
私は数年前、熊本県庁の企画で地元大学生向けにワークライフ・バランスに関する講演をしました。そこに参加した大学生100数十名の7~8割が「将来、家庭を持った後も共働きを続けたい」と言ったのです。大学生は男女共に、子どもを持ったり家を買ったりしたら、男性ひとりで家計を支えるのは難しい、という現実的な見通しを持っていました。
そのため、共働き、家事育児分担を当然と考えていたのです。若い世代の意識は大きく変化しています。昨年の本調査を関西の大学で紹介したところ男子学生達から「そんなことができると思わなかった」「僕も育休を取りたい」という感想が寄せられました。
また、都内の女子大で積水ハウスの男性育休について話したところ「うれしくて泣きそうになった」という声がありました。男女共に育休を取れる会社、社会は次世代の大きな希望になるのです。
これからいかに男性育休を日本で広めていくか。本調査の「イクメン力」を5項目に分けて各項目3位まで順位を算出した部分が参考になります。14の異なる都道府県がランキング入りしていることから、要素分解すると得意なことが各県で違うことが分かるからです。
この結果を踏まえ、各県が得意分野を掘り下げて調査・情報共有することを提案したいです。例えば東京都は、男性の育休日数を増やす方法、佐賀・熊本県は妻からの夫に対する評価が上がるポイント、鳥取県は夫の家事育児時間を増やす方法、高知県は夫が家事育児で幸せを感じる背景などについて強みがあるようです。
特に「1カ月以上」の男性育休をいかに増やせるか、今後のカギになるでしょう。本調査によれば男性育休の不満第 1位が「期間が短すぎる」です。当面は「1カ月」を目標に取得を推進することが、社会を変える現実的な方法になるでしょう。
OECDとEU加盟国を対象としたユニセフの調査“Are the world’s richest countries family friendly? :Policy in the OECD and EU”(Chzhen ほか, 2019)によれば、日本の法律は、男性に対して最も手厚い育休制度を保障しています。
これは、男性が使える有給の育児休業が⾧いことを意味します。つまり、日本には充実した制度があり、課題は「職場の雰囲気」や「人員不足」ということです。
本調査から、男性育休に賛成する人が8割もいるのに、実際の取得に賛成する人は男性6割、女性5割というギャップがあることが分かります。制度と実情の乖離(かいり)という課題を持つ日本では、企業や雇用主が男性に育休取得を後押しすることが効果的です。また、女性も「家事育児は自分の仕事」という思い込みから自由になり、配偶者に任せるようにしたいものです。
●治部れんげ(じぶ・れんげ)
1997年一橋大学法学部卒。日経 BP 社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。メディア・経営・教育とジェンダーやダイバーシティについて執筆。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京大学大学院情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議 WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員(第5期)。豊島区男女共同参画推進会議会⾧。朝日新聞論壇委員。公益財団法人ジョイセフ理事。UN Women 日本事務所による広告のバイアスをなくす「アンステレオタイプアライアンス日本支部」アドバイザー。
著書に『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)等。2児の母。
<「イクメン白書2020」 調査概要>
実施時期:2020年7月14日(火)~7月22 日(水)
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国47都道府県の小学生以下の子どもがいる20代~50代の男女9,400人
人口動態に基づきウエイトバック集計
※構成比(%)は小数点第2 位以下を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合がある。
出典元:積水ハウス株式会社
構成/こじへい