■連載/石野純也のガチレビュー
Apple Watchに、待望の新モデルが登場した。しかも、2020年はバリエーションを拡大。初代Apple Watchの系譜を受け継ぐ正統進化版のSeries 6に加え、価格を抑えたApple Watch SEも登場する。iPhoneではおなじみな“SE”の名称が、Apple Watchにつけられるのは初めてのこと。iPhoneで人気の高いSEを名乗るだけに、実力のほどを知りたいユーザーは多いはずだ。
Apple Watch Series 6は、血中濃度ウェルネスセンサーを搭載し、血液中の酸素の濃度を測定できるようになった。ディスプレイも進化し、手首を下げている時の明るさがアップ。カラーバリエーションが増えたり、留め具のないソロループが登場したりと、Apple Watchのもう1つの顔であるファッションの要素も進化している。
対するApple Watch SEは、2万9800円からと新機種の中ではリーズナブル。watchOS 7からは、子どもや高齢者の見守りに使える「ファミリー共有設定」にも対応する。セルラー版は、Apple Watchをあたかも見守り用携帯電話のように使うことができるのも特徴だ。そんなApple Watch Series 6/SEを、発売に先立って試用することができた。そのレビューをお届けしよう。
9月18日に発売を迎えたApple Watch Series 6(左)とSE(右)
進化したデザイン性、カラバリの豊富さや新バンドにも要注目
Apple Watch Series 6とApple Watch SEは、ともにSeries 4以降の外観を引き継いでいる。Series 4では、2サイズともにディスプレイを拡大。バンドのラグのサイズはそのままに、38mmが40mmに、42mmが44mmへと大型化した。角丸の四角いディスプレイや、本体デザインに関しては、基本的にSeries 4を踏襲している。誤解を恐れず言えば、この点での進化はなく、Series 4以降のApple Watchを持っているユーザーが買い替えても、本人以外はなかなか気づかないはずだ。
Apple Watch Series 6。デザインはSeries 4以降のものを踏襲
一方で、Series 6には新色が加わり、選ぶ楽しみは広がっている。試用したSeries 6はアルミの新色になるブルーで、深みがあるネイビーのような青さが新鮮。ブラックのバンドとの相性もよく、カジュアルからフォーマルまで、幅広い服装にマッチしそうだ。ほかにも、アルミケースにはアップル製品でおなじみの(PRODUCT)REDが加わっている。ステンレススチールにはゴールドが18金のように色味を変えて再登場。ブラックも、ややグレー味が増したグラファイトにリニューアルされている。チタニウムケースのEDITIONもラインナップする。
本体だけでなく、バンドにも新たな仕掛けのものが加わった。留め具のないソロループとブレイデッドソロループが、それだ。どちらも、伸縮性の高い素材でできており、強い力をかけて引っ張ると、ビヨーンとバンド自体が伸びる。留め具や穴が開いていないため、見た目はミニマル。アルミケースにはもちろんのこと、光沢感の強いステンレススチールにも合う質感だ。適切なサイズを選べばフィット感もよく、留め具がないため快適。金属製の素材でできたノートPCなどと一緒に使う時にも、重宝するバンドと言えるだろう。
難点を挙げるとすると、サイズ選びが難しいこと。アップルはサイトに印刷可能なサイズガイドを用意しているほか、ストアの店頭でも同様のガイドを試すことができる。とはいえ、バンドは体に密着するもので、わずかな誤差が着け心地を左右する。きつすぎると着けるのが嫌になってくるし、緩すぎると装着時の安定感が損なわれ、フィットネス関連のデータも正確に測定できない。可能であれば、店頭で試着することをお勧めしたい。
また、レザー素材や金属素材のバンドと比べると、どうしてもスポーティな印象になってしまうことは否めない。ワークアウト中や睡眠の間に使うことを主な用途として想定しているためだが、フォーマル寄りの服装には、やはりレザーや金属素材のバンドがマッチする。とはいえ、Apple Watchのバンドは付け替えが非常に簡単で、TPOの合わせたバンドを選びやすい。常時身に着けるのであれば、複数のバンドを購入してもいい。
血中酸素ウェルネス機能に対応、ディスプレイも明るくなった
機能面での大きな進化は、血中酸素ウェルネス機能に対応したことだろう。裏面のセンサーに赤色のLEDを搭載し、これによって血液中の酸素の濃度が測れるようになった。アプリを起動すると、最初にガイダンスが表示される。手首から少し離してしっかり巻き付けて、15秒間机の上などに腕を乗せて固定すればいい。このガイダンスに従えば、すぐに血中酸素の濃度が測定される。正常値であれば、96から99%の範囲に収まっているはずだ。
血中酸素ウェルネスアプリを起動すると、初回は測定方法が表示される
ただし、この機能はあくまでウェルネス用であり、これを元に医師の診察を受けたり、何らかの診断に使えるわけではない点には注意が必要だ。Apple Watchは医療用機器ではないためで、あくまで参考値ということになる。日々の数値を把握し、自らの行動の指針とするぶんにはいいが、治療や診断には使えないというわけだ。何とも微妙な位置づけの機能だが、例えばあまりに数値が悪い時には、医療用機器としての認証を取得したパルスオキシメーターを購入するといった判断材料にはなる。
血中酸素ウェルネス機能は、アプリから主体的に利用できるほか、心拍数などと同様、バックグラウンドでも自動で測定される。測定されたデータは、ヘルスケアアプリに格納される。定期的にiPhoneのヘルスケアアプリを開いて、血中酸素濃度が正常値から大きく外れていないかどうかをチェックしてもいいだろう。ちなみに、Apple Watchに搭載されているECG(心電図)は、日本で医療用機器としての認証を取得したと報じられている。ハードウエアではなく、ソフトウエアとして認可されたようだ。ただし、残念ながらSeries 6ではECGを利用することはできなかった。今後の対応に期待したい。
バックグラウンドで測定したデータは、ヘルスケアアプリからチェックできる
ここで紹介した血中酸素ウェルネス機能は、Series 6にのみ搭載されたもの。利用にはソフトウエアだけでなく、先に述べたように背面に搭載されたセンサーが必要になる。Series 5以前のApple Watchはもちろん、Apple Watch SEもこの機能に非対応だ。この機能をどこまで重視するかにもよるが、不要な場合はSEを、使ってみたい場合はSeries 6を選択するといった形で選んでもいいだろう。
ハードウエアとして進化した点で、特にメリットを体感しやすいのが、ディスプレイだ。Series 6に関しては、ディスプレイの常時表示に対応しているが、手首を下げた時の明るさがSeries 5との比較で、25%ほど明るくなっている。斜めから見るとどうしても暗くなるが、正面から見た時の違いは歴然。文字盤によっては、アクティブなのか、非アクティブなのかが分かりづらくなった。常時表示がより自然になったといえるだろう。吊革につかまりながらや、荷物を持ちながら時刻を確認したい時の利便性が、さらに上がった格好だ。
それでも斜めから見ると、非アクティブ時は暗くなっていることが分かる
Apple Watch SEはどのようなユーザーに向いているのか
デザインのバリエーションを広げただけでなく、機能面でも着実に進化したApple Watch Series 6に対し、Apple Watch SEは特徴がやや薄い印象もある。どちらかというと、このモデルはその価格が売りの端末だからだ。とはいえ、見た目だけでは、2万9800円からとは思えないほど。同じアルミケースなら、Series 6とSEを並べて、見分けられる人はほとんどいないはずだ。
ディスプレイはSeries 4以降のApple Watchと同サイズで、チップセットもSeries 5と同じものが搭載されているため、レスポンスは良好。モーションセンサーなど、各種センサーを備えており、転倒検出や緊急SOSといった機能も利用できる。もちろん、防水性能を備えているため、スイミング中にも利用でき、さらにはセルラーモデルも用意されている。
残念ながら常時表示のディスプレイには非対応のため、腕を下げるとディスプレイがブラックアウトする。Series 4までのApple Watchに慣れたユーザーにはいいが、時間を確認するために腕を上げたり、画面をタッチするのはやはり時計としては不自然。この点を考えると、Apple Watch SEはスマートウォッチとして割り切って使う必要がある。
一般的には最低価格の2万9800円が強調されがちだが、どちらかと言うと、Apple Watch SEはセルラーモデルがリーズナブル。セルラーなしとの差額が5000円になっているため、Series 6よりも上位モデルにアップグレードしやすい。おそらくこれは、新機能のファミリー共有設定を使ってもらいたいためだろう。ファミリー共有設定を使うと、Apple Watchを独立した1つの携帯電話として利用でき、家族の見守り用端末として活用できる。子どもや高齢者に持たせておくことを考えると、携帯電話より時計型で腕に巻ける方が安心だ。watchOS 7で新たに用意されたミー文字の文字盤などは、こうしたユーザーに向けたものといえる。
ファミリー共有設定を設定して、子どもや高齢になった親に渡し、独立した携帯電話として利用できる
もちろん、通常の文字盤を表示すれば、外観的にはSeries 6と見分けることは難しい。Apple Watchはある意味ユーザーを選ばないスマートウォッチで、iPhoneを持ってさえいれば利用可能。これまで、Apple Watchの購入に二の足を踏んでいたユーザーが、お試し感覚で使ってみるにも、ちょうどいい価格帯といえる。その意味で、Apple Watch SEは、Apple Watchのすそ野をさらに広げる1台になりそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。