黒猫、受難の歴史
みなさんは「黒猫」という存在に対して、どういった印象を抱くだろう。
猫と接している時間が長い人にとっては、人馴れしやすくて愛嬌たっぷりな性格が多い猫としてよく認知されているところ。
だけど世界的に見ると黒猫って、不吉な動物として認識されやすい。
黒という体色がそのまま、悪いイメージを背負ってしまっているのだ。つまり、カラスのように敬遠されがちなのである。
歴史を紐解くと、そういう一方的なイメージのせいでずいぶん黒猫たちは苦労を重ねてきた。
そこで今回は、黒猫たちの受難の歴史について振り返っていきたい。
黒猫の歴史を語るうえで欠かせない、魔女狩りの対象だった時代
黒猫の受難を語る際に欠かせないのが、中世ヨーロッパで大流行した魔女狩りの熱狂である。
15世紀から18世紀などにかけて、ヨーロッパ各地で巻き起こった迫害の歴史とされている(かつてはもう少し前の時代の出来事とされていたが、最新の研究で改められた)。
この魔女狩り、別に魔女と疑われたのは女性だけではない。
男性もまた迫害の対象になったし、猫も多数弾圧されている。
もうめちゃくちゃだったのだ。
特に黒猫は、その体の色が夜の闇と似た印象を持っているというだけで、特別な目を向けられていた。
猫自体がこの時代では広く迫害のターゲットとなりやすかったが、黒猫となるともう断罪不可避の状態だったのである。
しかも当時、魔女を描く木版画などでは魔女と猫はよくセットで登場していたし、その中には黒猫も当然含まれていた。
こうして印象操作に踊った人々が、考えられないような方法、書くのもしのびない手段で黒猫を葬ったとある。
なぜ黒猫迫害の歴史が始まったのか?
しかし、そもそもどうして黒猫がそんなひどい目に遭わなければならなかったのだろう。
僕も黒猫と暮らしているが、彼らには邪悪性を感じることは一切ない。人によく懐き、甘え、常にゴキゲンな最高の猫である。
僕が出会った多くの黒猫はみんな、そういう素敵な性質を持っていただけに、この迫害の歴史には正直イマイチピンと来ていない。
が、原因はさまざまあるが、一番はじめに黒猫を敵視したのは恐らく当時の宗教観と考えられる。
ヨーロッパを席捲したキリスト教的思想が、他神教の存在を許さなかった節がある。
そしてたとえば古代からエジプトでは猫は聖なる動物とされていたし、イスラム圏ではムハンマドが猫を大事にしたことから、特別な扱いをされていた。
こういう風潮に対して敏感過ぎたかつてのヨーロッパの宗教家たちが、猫。それも黒猫に対して特別な敵意を煽った可能性はある。
実際、魔女狩りの標的になったのは単純に猫を飼っていただけの人物ということも多かったとの記録もあるし。
人間の、宗教間派閥争いという迷惑な歴史の犠牲者。それが黒猫たちだったというわけだ。
人間は身勝手。ヨーロッパではいつしか黒猫の歴史を無視した扱いも…
各地で黒猫に対して不当な扱いを続けてきた歴史はあるものの、近年ではその黒猫への見方が変化しつつある国もある。
イギリスのある地域では、黒猫は幸運の象徴と認知されるようにもなっているのだ。
また、日本では黒猫は今でこそ欧米的な価値観の流入によって「不吉」という印象も付帯しがちだが、元々は幸運を招くとされていた。
その証拠こそ、招き猫に黒猫バージョンがあるという事実である。不吉の象徴であれば、決して黒猫を使ったりはしない。
また、黒猫を飼うと結核が治るという迷信もあり、黒猫にすがる者が多かったという歴史もある。
そもそも紐解くと、日本の天皇家で最初に飼育されたのも黒猫。
第59代宇多天皇(867~931年)は黒猫を飼っており、かなり大事にしていたのか、日記にその猫についてのノロケまで書いているほどだ。
ヨーロッパでの猫への扱いがかなり身勝手な部分もあるとすると、幸いにも日本は、黒猫に対しては一貫して穏やかな対応を見せていたということが言えるかもしれない。
黒猫の歴史は、その地域の人々の生き方の歴史
残念ながら黒猫に対して、特に未だヨーロッパでも偏見は払しょくされていない。
イタリアでは年間6万もの黒猫が、迷信を信じた人々によって駆除されているという。
日本でも近年、SNSで黒猫は映えないという理由だけで手放されるという悲しいニュースが報じられたばかりである。
黒猫受難の歴史は、実は今も連綿と続いているのかもしれない。
が、いち飼い主として言わせてもらえれば、あんなに素晴らしい性質の猫の魅力に気づかずに排斥するなんて愚の骨頂であると思う。
そして「SNSで映えないからいらない」という人に対しては、命を何だと思っているんだという意見を呈すると共に「あなたの使ってるカメラの性能が低いんですよ」と主張したい。
ちゃんとしたカメラで撮影する黒猫の美しさったらないのだ!
文/松本ミゾレ(PETomorrow編集部)
黒猫、白猫、茶白猫…全員集合! Go To PETomorrow!!