はじめて宇宙に行った犬と猫、その偉業と末路
動物は人間の生活にとって、欠かすことのできない存在だ。
それはペットとして一緒にいるというだけの意味に留まらない。畜産だって動物なしには成り立たないし、医療技術の発展だって、薬の臨床試験には多くの動物が実験のために活用されている。
これらを「残酷だ」と軽蔑する気持ちは分かるものの、そうは言っても彼らの犠牲がなければ私たちの日常は成り立たない。難しい問題ではあるけど、個人的には仕方ないことと受け入れ、その業を人間が背負う必要があると感じている。
さて、今回は他にも、人間によって翻弄された犬と猫についての話をしたい。
はじめて周回軌道上に乗った犬、ライカ
1950年代から60年代の終わりにかけて、アメリカと旧ソ連は非公式ながら、宇宙開発競争を行ってきた。
人工衛星の打ち上げや、宇宙空間での動物の生命活動の維持についての研究など、この時期、冷戦下にあった両国はとりわけしのぎを削って競い合った。
そんな開発競争の真っ只中であった1957年の11月に、旧ソ連は1頭の犬を宇宙に送り出した。
その名はライカ。後に、はじめて周回軌道上を飛行した宇宙船に乗っていた犬として世界的に知られるようになる犬である。
周回軌道上への到達を意図しない弾丸飛行については、旧ソ連は既に1951年には成功しており、この際には搭乗した犬も無事だった(ただし、後の飛行で死亡している)。
目下の課題は、周回軌道上に到達すること。
ライカが乗り込むことになったのは、スプートニク2号という宇宙船であった。
この船はライカを乗せたまま無事に大気圏を突破し、地球軌道上に至り、悲願であった周回に成功している。しかしながらスプートニク2号には大気圏に再突入する機能はなく、1958年4月の再突入の際にバラバラに崩壊した。
ではライカはどうなったのか。
計画では、ライカは打ち上げから10日後に毒の入った餌をあたえられて安楽死という処置をされるということになっていた。だが、実際は打ち上げから数日のうちに船体の構造的な欠陥から来る高熱によって死んだという説と、打ち上げから数時間以内に、やはり過熱によって死んだという説もある。
宇宙に人類が進出するための貴重な犠牲者……と言えば聞こえは良いが。
はじめて宇宙飛行に成功し、帰還も果たした猫のフェリセット
もう1頭、紹介したい動物がいる。
それが1963年10月に、フランスの観測ロケットに搭乗して宇宙空間に飛び出すことになった猫のフェリセットである。
フェリセットは元々、パリ市街地に住む野良猫だったそうだ。
そんなフェリセットは、他の13頭の猫とともにフランス政府に引き取られ、過酷な耐G訓練を課せられた。さらには頭部には電極がセットされることとなる。
前述のようにフェリセットは観測ロケットに乗せられて宇宙に飛び出した。そして強烈なGにも耐え抜き、無事に地球に帰還することに成功した。
だが、なんとか地球に帰還できたフェリセットの最期は筆舌に尽くしがたい。フェリセットは帰還から3ヵ月後に、脳の解剖調査という名目で安楽死処分となっている。
宇宙空間に飛び出した猫の脳に、どのような変化が生じたのか。これは確かに科学的に考えても絶対に研究せねばならないテーマかもしれない。
が、元々人間に見放されて野良猫暮らしをしていたフェリセットに対しては、結局最後の最後まで、人間の都合が寄り添うことになったわけなので、かなり複雑な思いになる。
おわりに
畜産、技術革新、医療の発展のための犠牲はやむを得ないものだ。とは言え、その詳細な実態というのはなかなか正視に耐えないものが多い。
国同士の威信をかけ、やがて世界中に伝播したかつての宇宙開発競争では、犬や猫だけでなく、猿なども積極的に借り出され、大半は無茶な打ち上げのために死んでいる。
そういった過去があって今日、人間が宇宙に進出することが出来るようになった。
そういう意味では、ライカやフェリセットの功績は非常に素晴らしい。
でも、彼らは志願して宇宙に発ったわけではない。人間の都合によってその命を散らした犠牲者なのである。
人類の発展はいつだってパートナーである犬や猫の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけない。
文/松本ミゾレ(PETomorrow編集部)
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