新型コロナウイルス感染拡大を受け、身体の免疫力向上への関心が高まっているが、それと同時に、コロナうつなどにならないように「心の免疫力」を高めていくことが大切だといわれている。心への影響の深刻度は人それぞれであるが、心に多少なりとも影響を感じていることは皆共通と思われる。そこで今回は、産業カウンセラーに、心の免疫力を高めるメソッドを聞いた。
心の免疫力を高める方法1「誰かとコミュニケーションをとる」
今回、回答してもらったのは、日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラーの西田治子さん。企業や自治体でカウンセリング等をしている。心の免疫力を上げて、コロナに打ち勝つ強い精神を持ちたい、と日々感じているビジネスパーソンに向け、心の免疫力の上げ方を尋ねた。
【取材協力】
西田治子さん
山口県下関出身。KDDIで国際電話業務、産業カウンセラーなどを務め、現在は西田カウンセリング&キャリアサポート代表。日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラー・認定スーパーバイザー。日本全国の企業、地方自治体においてカウンセリングやメンタルヘルス、キャリアカウンセリング、傾聴などの研修を実施。著書に「18歳からのキャリアプランニング(共著)」(北大路書房)がある。
日本産業カウンセラー協会
https://www.counselor.or.jp/
西田さんは、心の免疫力を上げる方法の一つとして「コミュニケーション」を挙げ、人間にとって大切だと述べる。例えば、電話やLINEなどのSNSによる会話、SNSやブログ等に自分の思いを発信するなど、家族や友人、仕事上の関係者などと意識してコミュニケーションを取るように勧めている。
●誰かに話して外在化するだけで問題は半分くらい解決する
「自分の思いを誰かに聞いてもらうことは、カウンセリングを受けているのと同じような効果を生じることがあります。私たちには『心にあるモヤモヤ』を誰かに話したい、心から放したいという欲求が、意識しているかしていないかに関わらずあります。みなさんは自分の思っていることを他人に話すだけで気分がスッとした経験はありませんか? 一人で抱え込まないで誰かに話し、外在化するだけで問題が半分くらい解決したと言えるのです」
●カウンセリングで客観視できれば、これからの行動に結びつく
「カウンセリングの目標は『自律・自立』にあります。主語は自分で『自分が考え行動する』に焦点があります。相談に来られる方は、『自分が』というのがなく主語は『他人』になっている場合が多く、自分の言動に『他人がどう思うか?』に焦点がいっています。そうなると妄想、想像の世界になり、悩みはどんどんふくらんでいくのです。
このようなとき、抱えている悩みや思いについて、カウンセリングマインドのある人に専門的な聴き方をされると、自分の話していることをそのまま受け入れてもらえているように感じます。そして相手が鏡となって、自分を映し出してくれているように感じます。すると自分を冷静に客観的に見つめることができるようになり、『自分の問題が何なのか?』『自分は何に悩んでいるのか?』に気がつきます。気がつかない場合もありますが、気がつけば、『これからどうしていくか?』『どうしていけばいいか?』に発展していけるのです。ここまでくると問題はかなり解決していると言えます。
話すことで気持ちがスッとするのが一番ですが、話をすることによって冷静になって自分を客観視できるようになり、これからの行動に結びついていくようになればもっといいですね。自律・自立に向け、成長していっていると言えます。自分の話を聞いてもらうとき、相手は大切で信頼のできる人を選んでください」
心の免疫力を高める方法2「好きで楽しいことをやる」
西田さんは、他にも心の免疫力を高める方法があるという。それは、「自分が好きで、楽しいと思うことをやること」だ。
「ストレスがたまると感染症への抵抗力も弱まると言われています。好きで楽しいことをやってストレス解消をしましょう。好きで楽しいことをやることが、心の健康にとって最高の栄養になるので、音楽を聴いたり、歌を歌ったり、ペットと遊んだり、アロマなどの香りを楽しんだり、お笑いを見たり、おかしいときは大声を出して笑ったり。YouTubeなど活用すれば、手軽に音楽や運動、趣味、犬や猫などの動画で楽しむこともできますね。
『嬉しい・楽しい・ほっこりする』などの『陽性感情』は、心の健康に良い影響を与え、陽性感情が増えると心身ともに免疫力も上がっていくことが期待できます。好きで楽しいことをやっているとき、脳は良い刺激を感じ、血管は拡張し、血流が良くなり、酸素や栄養などが血液によって全身に運ばれていきます。血行もよくなり、身体が温かくなり、身体の免疫力も上がり、抵抗力が強くなることが期待できるのです」
反対に「陰性感情」が増えると、心身ともに免疫力は下がるという。
「『嫌・不安・恐怖・不快』などの『陰性感情』が増えると、心身ともに免疫力は下がります。陰性感情が起きているときは、脳に強い不快ストレスがかかっています。陰性感情が持続すると緊張状態が続き、交感神経が優位となり、血管が収縮して血流も悪くなります。すると酸素も栄養も運ばれにくくなり、体温は低くなり、免疫力が下がって抵抗力も下がっていくのです。
心と身体は一体で切り離すことはできません。体調が悪いときは精神も不調に、精神が不調のときは身体も不調に、と相関関係があります」
心の免疫力を高めるためのビジネスパーソンへのアドバイス
最後に、30~40代のビジネスパーソンに向け、心の免疫力アップのアドバイスをもらった。
「働き盛りの年齢ですね。公私ともにストレスが多いでしょう。ストレスには『快ストレス』と『不快ストレス』があり、問題は『不快ストレス』とどう付き合っていくか、どう対応するか、セルフコントロールができるかにあります。つまり、ストレス対応能力をつけていくことが重要です。
(1)疲れたら休む、(2)腹式呼吸法などを習得し、ストレス耐性をつくっていく、(3)ストレスに対応できないときは、一人で抱え込まないでカウンセリングなどを受ける、(4)問題解決能力をつける、(5)社会的支援を受けるなど、社会人として必要なストレス対応能力を実践しながら身につけていくことが、30~40代ビジネスパーソンには特に必要になります」
今回は、心の免疫力アップのメソッドの例として2つが紹介された。ストレス対応能力を身につけ、意識して、この時期を乗り越えていこう。
取材・文/石原亜香利