テレワークは夜の付き合いもないため、夜は早く寝ようと思えば寝られる状況なのに、朝、出勤の必要がないため、遅寝遅起きになりがちだ。生活リズムがすでに夜型になっている人もいるだろう。しかし早寝早起きや朝型のメリットはそこかしこでいわれており、早々に戻したいと思っているが、なかなか戻らないという葛藤を抱えているかもしれない。
そこで今回は、朝型・早寝早起きのメリットや、夜型を朝型に素早く戻す方法を、国立精神・神経医療研究センターの精神保健研究所で睡眠・覚醒障害を研究する北村真吾先生に聞いた。
【取材協力】
北村 真吾先生
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
睡眠・覚醒障害研究部 臨床病態生理研究室 室長
専門分野は睡眠科学、時間生物学、生理人類学。
2018年8月に設立した睡眠や体内リズム研究の専門家による「目覚め方改革プロジェクト」のプロジェクトメンバー。
テレワーク中に夜型になってしまうことのデメリット
――テレワーク中、夜型になりやすいのはどうしてですか?
「テレワークで社会的なスケジュールに縛られず、個人個人の体内時計のタイミングで睡眠をとることができるようになるためです。現代的な生活スタイルだと多くの人は元の生活よりも夜型化します。特に朝早く起きる必要がなくなることで、テレワーク前よりも睡眠時間が延び、睡眠負債が少なくなります。さらに、睡眠負債を取り戻すための休日の長寝による“社会的ジェットラグ”、つまり平日と休日の睡眠スケジュールのズレも小さくなります。睡眠負債や社会的ジェットラグは眠気だけでなく、多くの健康リスクと関連するため、自分自身の体内時計に従ったタイミングで睡眠をとることには一定のメリットがあります。
一方、夜型化することはデメリットもあります。例えば、朝からの出勤が必要になった際に、本来起床するのに適していない体内時計のタイミングで起きなければならず、睡眠不足状態になるでしょう。さらにテレワークが終了し、通常のスケジュールに戻るために朝型化させる際には、通常、夜型化したときよりも長い時間がかかってしまいます。これはヒトの体内時計が24時間よりも長く、夜型化しやすいこと、体内時計の調整は朝型化より夜型化の方が起きやすいことによります。また、夜型化が大きいと、家族や友人等の社会的活動の際にもスケジュールのズレが生じ、時差ボケのような状態に陥りがちです」
テレワーク中に朝型を続けることのメリット
――テレワーク中に夜型にならないよう、朝型を続けることのメリットを教えてください。
「自分自身の体内時計に反して無理やり朝型化することはおすすめできませんが、自然に朝型化できて早寝早起きをする場合、いくつかのメリットが考えられます。
まず、日が暮れてからの夜の時間に起きている時間が少なくなるため、人工照明の光を浴びる時間が減少します。夜間の人工照明、特にブルーライトを多く含む白色光は、体内時計を夜型化し、本来なら分泌されるメラトニンというホルモンを抑制するという体内時計を乱す作用を持ちます。また、覚醒度を上げて眠気を減少させることで、その後の睡眠の質を低下させてしまいます。
また、夜型生活では食生活が乱れがちです。夜遅い時刻の食事は肥満や代謝障害につながりやすいことが報告されています。また、朝食を抜くことは肥満や代謝障害、心疾患などのリスクとされています。
朝型化するとこうした『夜の光』や『食習慣の乱れ』による影響を減少させられることが期待されます」
夜型を朝型に戻すためのテクニック
――これまで朝型だった人が、テレワークで夜型になり、朝型に戻したいという場合のテクニックを教えてください。
1.起きる時間を早める
「まず、起きる時間を早めて体内時計を朝型化することを意識してください。朝型に戻したいからといって、焦っていつもより早い時間に寝ようとしないこと。身体がまだ睡眠に適していない状態なので寝付くことがむずかしく、眠れない体験が不眠症などにつながってしまいます」
2.午前中のうちに光を多く浴びる
「体内時計を早めるためには、光の浴び方が重要です。光による体内時計への効果は、目覚める少し前の時間を境に、夜型化する作用と朝型化する作用が入れ替わります。正確には体内時計の時刻によります。
具体的には、目が覚めてから早い時間、例えば午前中のうちにできるだけ多くの光を浴びると朝型化しますが、日が暮れてから夜遅くまでに光を浴びると夜型化につながるので、できるだけ夜の光を浴びないことです。室内光では弱いので早い時間帯の光は屋外で浴びることをおすすめします。早い時間に浴びようとして無理やり早起きすると、夜型化するタイミングにかかってしまい、かえって逆効果になることもあるので、自然な目覚めを目安にしてください。
夜の光は浴びないに越したことはないですが、まったく浴びないことはむずかしいので、できるだけオレンジ色の暖色系の光を暗めに設定することを心がけてください。サングラスなども有効です」
3.朝寝坊・夜更かしを避ける
「睡眠自体には体内時計を変える効果はありませんが、午前中に光を適切に浴び、夜に光を浴びないためには、朝寝坊や夜更かしはよくありません」
4.規則的に3食食べる
「きちんとした食習慣も体内時計を整えるために重要です。体内時計(睡眠)のスケジュールに合わせて、規則的に3食を食べるように心がけましょう」
ちなみに「昼夜逆転までしてしまっていたら、むしろ朝型化するよりも夜型化を進めて元に戻した方がうまくいきやすいです」とのことだ。
朝型生活を習慣化する方法
――朝型に戻した後、継続するために習慣化したい場合、何かコツはありますか?
「私たちの体内時計が夜型化しやすいので、気を抜くとつい夜型化してしまいます。24時間よりも長い体内時計を朝型生活で維持するためには、朝の光を毎日規則的に浴びること、夜の光をできるだけ避けることが重要です。意識しなくても自然とできるように、カーテンを開けておいて朝日を自然に浴びられるようにしておくのもひとつの手段です。
また、夜更かしをしてしまったとしても、目覚める時間はできるだけ維持してください。睡眠が足りなかったという日は、朝寝坊で補うのではなく、いったん起床して、朝の光を浴びてから短めの昼寝をとることで眠気を解消するとよいです。昼寝をとる際には、午後早くの時間帯に20分以内を目安にしましょう」
テレワークで夜型になり、デメリットを感じている場合は朝型に戻す方法にトライしてみるといいかもしれない。アフターコロナで元気に再スタートを切るためにも、朝型を習慣化しておくのもよさそうだ。
取材・文/石原亜香利