長雨と日照不足に続き、連日の猛暑、台風などにより野菜の生育に悪影響が出ている。となると、価格高騰も心配だ。貸し農園やベランダ菜園も活況だが、やはり気象条件に左右される。こうなったら、水耕栽培一択では!?
アイテム充実で身近になった水耕栽培
水耕栽培とは、土壌を使わず、生長に必要な養分を溶かした水溶液だけで植物を育てることである。子どものころ、ヒヤシンスやクロッカスを育てた経験がある人もいるのでは。これらは球根の中に養分をたくわえているため、水だけで花が咲く。野菜の場合は、光と養分をコントロールする必要がある。
光は自然の太陽光を利用するほか、すっかり安くなったLEDライトが頼りになる。養分については、水耕栽培用にさまざまな液肥が市販されている。
プラスチックカップとスポンジ(3cm角ぐらいに切って使う)で、手軽にはじめることも可能
栽培環境をカスタムする楽しみ
筆者は、Amazonで販売されていたキットを導入してみた。本体容器、LEDライト、容器とライトをつなぐ支柱、種まき用スポンジ、水に溶かす肥料2種が主な内容。12の穴に種入りスポンジをセットするのが基本形。
発芽が待ちきれず一部の穴をつぶし、大根と人参の葉の再生を同時にはじめた
3月末にスタートし、緊急事態宣言下は野菜栽培を楽しんだ。同時に、土と太陽光によるベランダ菜園も行ったため、水耕栽培のメリットとデメリットがわかった。メリットは、土を使わないので道具が汚れにくい、雑草や虫がほぼゼロ、インテリアとしても楽しめるなど。我が家の環境だとパセリとパクチーは育ちにくいが、三つ葉とシソ、葉レタスはたくさん収穫できた。1回の種まきで2、3回は収穫できる印象だ。
前述のものは種から育てたが、根つきの野菜は根元を水に挿せば、葉がまた育てられることもわかった。これは、再生野菜、リボーンベジタブル(リボベジ)と呼ばれる手法である。調べると、植物には「成長点」というものがあり、この成長点と根があれば植物は再生できるそうだ。成長点は、細胞分裂が活発な茎の最先端などにある。
根つきの水菜や三つ葉は再生を試そう。根をスポンジに挟んで水に浸せばOK
デメリットは、電気代がかかることだが、高額ではない。続けるうちに、液肥を替えたくなったり、水を循環させるポンプが欲しくなったりと、想定外の出費があったことぐらいだろう。スマートプラグも買い増したものだが、ライトのオン、オフをスマホ連動でタイマー制御できるようになり、とっても便利。
SNSで盛り上がる水耕栽培
新型コロナウイルス流行によりおこもり趣味として注目される以前から、ネット世界には水耕栽培にフルコミットする人々がいることがわかった。メロンなどの大物に挑む人、電子工作のように器具を自作する人、化学の目で液肥改良に励む人などなど。さまざまなアイテムを組み合わせるギミック的な楽しみが、知的好奇心を刺激するのだろう。
ブログでの情報発信や、TwitterなどのSNSでの交流も活発で、水耕栽培オフ会やZOOMでのオンラインミーティングなども行われていて楽しそう。これから水耕栽培をはじめたい人や、TwitterやInstagramでの情報収集からはじめるといいだろう。
水耕栽培のプロ直伝「失敗しない方法」
筆者は、Twitterで活動する水耕栽培士かつ栄養士という最強属性の人を発見。その名もズバリ、「水耕栽培」さん。服部栄養専門学校卒の栄養士で、病院の栄養科での勤務経験があるというから頼もしい。水耕栽培士、水耕栽培インストラクターの資格も所有しているそうだ。
ここぞとばかりに、いろいろ聞いてみた。
――初心者でも育てやすい品種を教えてください。
水耕栽培さん:おすすめ順に、バジル、小松菜、クレソン、ルッコラ、葉レタスやサンチュです。
バジルは種からでも育てられますが、挿し芽で増やせます。枝1本あればいくらでも増やせて、ずっと楽しめます。コツは、伸びてきたら上の方を切り、切った枝を挿し芽にすることです。我が家では4本の枝から約60株まで増え、その過程で大量のジェノベーゼソースやピザトーストなどが作れました。
小松菜は種から育てる、買った小松菜の根元を長めに残して切り育てるリボベジ、という2通りの育て方がおすすめです。一度育った小松菜は、下の方の大きく育った葉っぱだけを集める「かきとり収穫」をすることで、数か月に渡ってコンスタントな収穫が期待できます。
クレソンも種からとリボベジの2通りの方法で育てられます。市販のクレソンから挿し芽で増やせ、比較的長く楽しめます。アメリカ疾病予防管理センターにより、「クレソンは野菜の中でもっとも栄養価が高い」と報告されています。独特の辛味があるので、サラダのアクセントやお浸しにするとおいしくいただけます。
ルッコラは種から育てるのがおすすめです。小松菜同様、かきとり収穫で長く楽しめます。ゴマのような独特の香りがあり、ピザやパスタだけでなく、和食にも意外と合います。葉レタスやサンチュも種から育てるのがおすすめです。これもかきとり収穫で長く楽しめます。
――注意点はありますか?
水耕栽培さん:紹介した5種は比較的育てやすい植物ですが、葉レタスやサンチュは気温や日当たりなどの条件で茎がヒョロヒョロと伸びる現象が起きるので、今回紹介した中ではやや難しいかもしれません。
クレソンは、市販のものからの再生で育てるとアブラムシがつくことがあるので、種からの栽培をおすすめします。
――水耕栽培に肥料は絶対必要なのでしょうか?
水耕栽培さん:水だけでは、少量のリポベジが収穫できる程度で終わってしまうので、液体肥料を使います。私のおすすめは、ハイポニカという液体肥料です。2つの液体を薄めて混ぜるタイプです。類似の商品もありますが、なぜかハイポニカがうまく育つ印象です。
――コスパについては、どうお考えですか?
水耕栽培さん:葉レタスやサンチュは、20株ほど育ててうまくかきとり収穫すれば、5回ぐらいサラダボウルを一杯にすることできます。何度も収穫をして栄養価がどう変化するかについて、詳しく調査したデータはないのですが、少しずつえぐみが増していきます。
Amazonなどで売っている栽培装置で育てると、1畳足らずのスペースで108株まで育てられます。もちろん日当たりに差が出るので、育てながら工夫していくことが必要です。
◆取材協力=水耕栽培さん
水耕栽培歴3年。現在は、パイナップルやジャガイモの水耕栽培に挑戦している。
https://twitter.com/SuikouK
取材・文/木村悦子