寄生木は他の落葉樹に寄生する常緑樹で、海外でも親しまれている植物です。街中で見かけることも多いのですが、どのような植物か見たことがない人もいるかもしれません。寄生木がどのような植物か、日本や海外でどのように捉えられているか解説します。
寄生木の読み方は「ヤドリギ」
寄生木は「キセイボク」や「キセイキ」などと読んでしまいそうですが、それは間違いです。正しくは『ヤドリギ』と読みます。
名前の通りの特徴を持っていますが、あまり耳にする機会がなく、どのような木なのか分からない人もいるでしょう。寄生木の由来やどのような木なのか解説します。
他の樹木に寄生するのが名前の由来
寄生木の名前は、他の樹木に寄生し水や栄養を得るという特性が由来です。一方で、葉で光合成をして自分でも栄養の一部を確保できるので、『半寄生植物』と呼ばれます。
寄生木は常緑樹のため、冬になり寄主の落葉樹の葉が枯れると寄生している様子がよくわかるでしょう。公園の木などを探してみると、冬枯れの木の上に緑の丸いボール状になっている姿を見られるはずです。
『ホヤ』『ホヨ』『トビツタ』と呼ばれる場合もあります。寄生して生存しますが、日本の寄生木は寄主となった木の栄養分を吸い尽くして枯らしてしまうことはほぼありません。海外には木を枯らしてしまう寄生木もあるようです。
日本だけでなく世界中に広く分布
寄生木は北海道から九州まで日本全体に分布しています。それは、さまざまな木に生息可能なためです。ブナやミズナラ、サクラなど落葉樹に寄生します。
粘着性のある実が木に付着、そこから根を張って成長します。トリモチとして使われることもあり、粘着性が高いことが特徴です。その特徴を生かし、実は鳥を利用して遠くまで運ばれます。
また、寄生木は日本ばかりでなく、ヨーロッパなどユーラシア大陸の温帯に広く分布している植物です。厳密にはヨーロッパとアジアに生息している寄生木の種類は異なりますが、樹木でこれほど広範囲に生息するものは珍しいといわれています。
寄生木は特別な意味を持つ植物
寄生木は昔から生息していた植物で、特別な意味が込められています。縁起がよいものとされており、万葉集にも登場しているのです。ここでは、日本で寄生木がどのように捉えられてきたのか紹介しましょう。
古来から縁起のよい植物とされる
寄生木は昔から縁起がよい植物と見なされており、神の宿や天狗の巣だと考えられ大切にされてきました。粘着性のある性質を利用して、小鳥を捕まえるトリモチとしても使われていました。
寄生木の枝や葉は、漢方や鎮痛剤に使われることもあります。寄主の木にとっては栄養を取られる厄介者かもしれませんが、人にとっては古くから親しまれてきた植物です。
万葉集にも登場
寄生木は、万葉集で大伴家持が関連する和歌を残しています。「あしひきの 山の木末(こぬれ)の 寄生木取りて 插頭(かざ)しつらくは 千年(ちとせ)寿くとそ」という歌です。
ここでは寄生木は『ホヨ』と読まれています。
当時、大伴家持が赴任していた富山のある地域では、正月に山から寄生木の枝を取ってきて髪に挿していました。長生きのまじないとして、その地域に伝わる珍しい伝統を家持は歌にしたのです。
寄生木とクリスマスの関係
寄生木は日本だけではなく、西洋でも親しまれています。冬でも枯れずにいる様子から、生命力の象徴として考えられていたのです。
クリスマスに飾られることもあり、『寄生木の枝の下にいる女性には誰でもキスをしてよい』とする風習もありました。西洋では寄生木がどのように考えられてきたのか、詳しく紹介しましょう。
クリスマスに寄生木を飾る風習が残る
クリスマスには、寄生木を飾る風習が西洋には残っています。日本の寄生木と異なり、西洋の寄生木は白い実をつけることが大きな違いです。寄生木をリースにして飾っているのを見たことがある人もいるかもしれません。
枯れた樹木の上で緑のままでいる寄生木の様子は、どこか神々しく感じられます。西洋では、冬になっても枯れずに緑でいる常緑植物が数少ないこともその要因でしょう。
不死・復活・再生の象徴
寄生木は『神の宿る木』とされ、ケルト人には不死・復活・再生の象徴として考えられていました。そのため司祭であるドルイドは、寄生木が寄生したオークの木の下で儀式を行ったのです。
寄生木は、北欧神話やキリスト教の逸話の中にも登場します。さまざまな場面で登場する寄生木は、それだけ古くから親しまれていた植物ともいえるでしょう。
『寄生木の下で友人となると幸せになる、敵として出会うと争いをやめる』『雷や何か悪いものから子どもを守る』という言い伝えもあるようです。キリスト教では救世主のシンボルとして扱われます。
花言葉は「私にキスして」
寄生木の花言葉は、『私にキスして』『困難に打ち克つ』です。特に重要な意味を持つのがクリスマスの時期でしょう。
クリスマスのときに、寄生木の下にいる女性はキスを拒めないという風習がありました。もしキスを拒むと翌年は結婚できなくなると言われていたのです。
それが派生して、現在では男女が寄生木の下でキスをすることが婚約の証と考えられるようになりました。機会があれば、告白やプロポーズを寄生木の下でしてみるのも、ロマンチックでよいかもしれません。
構成/編集部