子育ての最初の試練は、生後間もない赤ちゃんの寝かしつけだろう。連日の夜泣きで、親は睡眠不足となって疲弊、夫婦関係にひびが入ることも稀ではない。
今は小児睡眠コンサルタントとして活躍する森田麻里子さんも、わが子の寝かしつけに苦労した一人だ。ぐずり始めてから寝つくまでに何時間もかかる日が続いて、疲労困憊。その時、森田さんは「何かが間違っているはずだ」と気づき、一念発起する。関連する医学論文を読みあさるなどして、赤ちゃんの睡眠について徹底的に探究・実践したところ「3日で、息子は泣かずに眠るようになった」という。
その後も森田さんは、多くの赤ちゃんに効果のある寝かしつけの方法を追及し、「ねんねトレーニング」(ねんトレ)として結実。その内容は、1冊の書籍『家族そろってぐっすり眠れる 医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)にまとめている。
ねんトレとは、一言でいえば「親のサポートなしに、赤ちゃん一人で寝つくスキルをつけるためのトレーニング」。赤ちゃんの寝室の睡眠環境を整え、寝つきをよくするルーティーン・習慣づけを主体としたメソッドだ。「生後3~5か月」というふうに特定の月齢に特化したものもあれば、月齢を問わず乳児全般に効果的なものもある。
ここでは、本書にある数々のねんトレから、幾つかをピックアップして紹介しよう。
赤ちゃんの体内時計を合わせる
人間には、体内時計にしたがい、朝に目覚めて活動し、夜は眠りに入るという生活リズムが備わっている。
実は、赤ちゃんも生後2か月を過ぎれば、この体内時計が働いており、本来であれば朝起きて夜寝るようになっている。
夜泣きやぐずりは、この体内時計がずれているとか、リズムを刻めていないからだと、森田さんは指摘する。
そこで必要なのが、体内時計の時刻合わせ。方法は簡単で、毎朝だいたい同じ時間に日光を浴びさせることだという。具体的には、朝6~7時に赤ちゃんの寝ている部屋のカーテンを開け、室内に太陽の光を取り入れる。体内時計が十分に働いていない0~2か月の赤ちゃんについては、リビングへ移して(食器やテレビの音などの)生活音が聞こえるようにして自然の目覚めを待ち、あとは日が暮れるまで明るいリビングで過ごさせる。
生後3か月以降は、決まった時間に起こすよう声がけなどを意識して行う。
「〇〇ちゃん、おはよう」などと優しく声をかけ、それでも目が覚めなければ頭をなでたり、手足をさすったり、体を少し刺激します。ただし、ぐっすり眠っていて目を覚ます気配がない場合は、しばらく待ってから起こしてください。(本書31pより)
眠っているところを抱き上げたりして無理やり起こすのはNG。優しく起こすのがポイントだと、森田さん。
赤ちゃんが眠いときの意外なサイン
昼寝のタイミングは、目覚めてからの経過時間(生後3~6か月で2~3時間)が目安になるが、もう1つ参考にしたいのが、眠くなっているときのサインだ。
森田さんは、「眠くなってもあくびをしたり目をこすったりするとは限りません」と述べた上で、8つのサインを挙げている。例えば、「背中を反らせる、手足をばたつかせる」や「ハイテンションなのに、あやすのをやめるとすぐ不機嫌になる」という興奮状態。これは、意外にも眠いことの表れ。こうしたサインを見過ごしてしまうと、ぐずり始めて、寝かしつけに苦労することになる。
手足をばたつかせるのも眠いというサイン(イラストは本書より)
もう1つ、昼寝に関して森田さんが勧めているが「昼のルーティーン」だ。決まった手順を踏んで寝かしつけることで、赤ちゃんにリラックスしてもらいつつ、昼寝のタイミングを教えることができる。このルーティーンで月齢にかかわらず行うのは、布団に寝かせてからの子守唄。歌は1曲を決めて、毎回それを歌うようにする。また、生後3か月が過ぎたら、おもちゃやキッチンなどに「おやすみなさい」といいながら寝室に向かう手順を加える。さらに、絵本に興味を持ち始めたら読み聞かせもするが、こちらは毎日違う絵本でもかまわないそう。
環境を整えて「最高の寝室」にする
赤ちゃんの寝室で見落とされがちなのが、明るさや温度といった室内環境だ。多くの育児書ではすっぽり抜けているため、なかなかそこまで思い至らないが、実は結構重要なポイントなのだという。
一例を挙げると、常夜灯。夜通し点灯しているケースが多いようだが、「実は、これは逆効果」なのだと森田さんは指摘する。
常夜灯や小さなナイトライトも消してください。夜中に授乳やミルク、おむつ替えなどのお世話でライトが必要なときに一時的につけるのはよいのですが、終わったらライトは消しましょう。使うライトは、床置きタイプやコンセントに挿すタイプの薄暗い暖色系ライトがおすすめです。できるだけ赤ちゃんから離れた位置から照らすようにします。(本書76~77pより)
こうするのは、寝室に少しでも明るさがあると、睡眠が浅くなり目覚めやすくなってしまうため。なので、朝まで切れ目なく眠らせるには、夜間は寝室を真っ暗にしておくのが理想。そのため、カーテンも1級遮光タイプとし、隙間からも光が漏れないようにカバーするようアドバイスがされている。こうすれば、日が明けるのが早い真夏でも6時過ぎまで眠れるようになる。
2歳を過ぎて暗闇を怖がるようになるまでは、寝室は「できる限り真っ暗にする」ことを肝に銘じておこう。
本書のねんトレは、上にまとめたものにとどまらず、月齢に応じてさまざまな方法・ルーティーンが紹介されている。説明に沿って実行していけば、数日で改善が見られ、2週間ほどで夜泣きの悩みが解消されるという。ただ、注意したいのは、親がねんトレに不安を感じて、ブレてしまうリスク。「本当に効果があるのだろうか」などと思って中断してしまうと、「赤ちゃんは逆に長く泣く」と森田さんは忠告する。ねんトレは、心の成長に悪影響を与えないことは学術的に判明されているので、安心してやってみるとよいだろう。
森田麻里子さん プロフィール
東京大学医学部卒業。亀田総合病院にて初期研修後、仙台厚生病院南相馬市立総合病院にて勤務。現在は小児睡眠コンサルタント。昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤医師でもある。自身の息子が生後2か月半になったころから毎日6時間寝ぐずりを続ける日々が続いたため睡眠に関する医学研究を徹底的に調査。1本のメソッドにまとめて実践したところ息子が3日で即寝体質に。このとき考案したメソッドをもとに小児睡眠コンサルタントとして活動を開始し現在に至る。ハフポストや日経DUALなどメディア執筆多数。AERA dot.でエビデンスに基づく育児や子どもの医療情報について連載中。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)