二人に一人が、がんにかかる時代だが、治療法も日進月歩で発展している。その大半は、革命的な大変化というより、既存の治療法が精緻化したり、新たな機器・薬剤のおかげで生存率が向上したりといった細かい改善の積み重ねだ。また、「がんに効果あり」と信じられてきた代替療法が、「実は効果なし」と判明するなど、エビデンスも蓄積している。
では、現在はどんな治療法が、もっとも効果が高いのだろうか? 3人のがん専門家による話題のベストセラー『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』(ダイヤモンド社)より、その一端を紹介したい。
最も効果が高い3つの治療法
がんの治療法には「3大治療」と呼ばれるものがあり、それは手術、放射線治療、抗がん剤治療を指す。
同時にこれらは「標準治療」といって、「もしがんと診断されたら、まずは標準治療を受けることが最善」と著者らは言い切るほど、重要で効果が認められた治療法でもある。
「標準治療」と聞くと、もっと良い「上級治療」がありそうな感じがするが、実はこれ、英語の「スタンダードセラピー」の不正確な日本語訳で、本来は「『全員が行うべきすぐれたもの』というニュアンス」があるという。つまり、標準治療が、最も勧められる最上の治療法となる。
また、「標準治療」はすべて、国の健康保険が適用される。そのため、自費での支払いが抑えられていて、どんなに高額な治療を受けても、月の支払いが10~20万円(収入によって変化)を超えないようになっている。
こうした治療法の予後が芳しくなかった時代を知っている世代には、標準治療に疑念を抱く向きもあるかもしれない。しかし、例えば放射線治療では、ガンマナイフに代表されるようにテクノロジーの進歩が生存率を高めるなど、一昔前とは一線を画す治療法になっている。
ただ、著者らは「単純に新しい方法であればあるほど、治療成績がよいわけではありません」と述べてもいる。例えば、子宮頸がんの手術では、従来の(周辺組織まで大きく切除する)拡大手術のほうが、より新しい腹腔鏡手術・ロボット支援手術よりも、再発せずに生存している割合が高いという。ただ新しいで決めずに、主治医の意見をよく聞くことが大切と言う。
「先進医療」はどうなのか?
がん保険の特約でよく見かける「先進医療」という言葉。「標準治療の一歩先行く治療法?」と思いきや、正確にはそうではないという。
先進医療とは、海外や国内の基礎研究、臨床研究で効果がある程度認められているものの、国が承認して保険適用にするほど信頼性の高いデータが得られていない治療法のことで、国が定める条件を満たした特殊な臨床研究です。(本書88pより)
つまり、標準治療の一歩手前で、今後確かな効果が実証されれば、それは標準治療となり、そうでなければ先進医療でもなくなる。先進医療は、毎年約100種類も指定を受けるが、晴れて保険適用となるのは6%程度にすぎない狭き門。陽子線治療や重粒子治療などが、これにあたる。
何か理由があって先進医療を受けたいというなら、まずは主治医に相談する。自分のがんが、先進医療の対象であるかを確かめる必要があるからだ。また、指定の医療機関で受ける必要があるが、これは厚労省のサイトで調べることができる。
「自由診療」は要注意
がん治療を行うクリニックの中には、公的保険が適用されず患者が自費でまかなう「自由診療」を標榜しているところがある。そうしたクリニックは、ウェブサイトや書籍で「がんが消える」などと、目を引く宣伝をしていることが多い。
本書は、自由診療については「医師がやっているのに根拠が乏しい」と手厳しい。また、「もし科学的根拠があるならば、標準治療として保険適用になっているはず」と指摘する。
一例として、多くのクリニックで実施されているビタミンC療法が挙げられている。
実際のがん患者さんに、ビタミンCを投与するグループと、プラセボ(偽薬)を投与するグループにランダムに割り付けるランダム化比較試験も複数行われました。5つのランダム化比較試験、322人の患者さんの結果をまとめたメタアナリシスの結果、ビタミンC療法の有効性は証明されませんでした。(本書95pより)
それどころか、「腎不全や溶血の副作用も報告されている」とも。米国では、この療法を行う施設は違法とされているほどで、「医師が勧めるのだから大丈夫」と短慮しないよう注意を促す。
がんに効果の認められている食事法はあるか
「〇〇を食べたらがんが治った」といった情報が数多く流布しているが、果たしてそれらは本当なのか?
本書の、がんと食事に対する見解は明快だー「一度がんになってしまった人が食生活を変えても、がんを治すことはできないと考えられています」。例えば、がん細胞は糖質を栄養素にしているため、糖質を制限すれば効果があるのではないか、という考え。今はやりの糖質制限で、がんを克服しようというのは魅力的だが、実はしっかりとした科学的根拠はないという。特に、極端に糖質を制限するケトジェニック・ダイエットは、心臓の不整脈や腎結石症などデメリットばかりが多く、注意が必要だ。
ただし、現在健康な人が食生活を変えることでがんに罹るリスクは下げられるし、がんの治療がひととおり終わった患者も、食事の工夫によって死亡率を下げることはできると記されている。後者については、「健康的な食事」をすることで(そうしない人に比べ)、死亡率は21%も低いというデータがある。ここでいう「健康的な食事」とは、「果物、野菜、全粒穀物のような精製されていない炭水化物、豆類、ナッツを多く摂取し、赤い肉や加工肉を控えめにした食事」を指す。
さまざまなメディア、特にインターネット上には、がんに関する膨大な情報があるが、その質はといえば玉石混交。そんな時代だから、一生懸命に調べていれば大丈夫と言うわけではないと言う、過去の研究では意外にも教育レベルや収入が高い人ほど、怪しい治療法にだまされやすいという。昨今のがん治療は情報戦の様相だが、ニセ情報に惑わされず、本書にあるような信頼のおける内容を見極めたい。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)