「臭すぎる」「耐えられない」「トラウマになった」など、酷い言われようの発酵食品がある。滋賀県の郷土料理“鮒寿司”だ。
罰ゲームに用いられることもあると聞き、滋賀県出身の筆者はとても悲しい。
たしかにファースト・インパクトは強烈かもしれないが、一度においに慣れてしまえば、鮒寿司ほど美味しい料理はないと思う。
そこで今回は、子どもの頃から鮒寿司を食べてきた筆者が、鮒寿司の奥深い魅力とオススメの食べ方をご紹介する。
奈良時代から珍重されてきた滋養強壮食品“鮒寿司”
鮒寿司は、鮒と炊いた米と塩を長期間漬け込んで発酵させた、“なれ寿司”の一種。主に滋賀県の琵琶湖でとれた二ゴロブナを材料としている。
二ゴロブナを丸ごと発酵させているため、カルシウムや乳酸菌、タンパク質、ビタミンB群などの栄養素が豊富だ(骨は発酵する過程で柔らかくなっている)。
鮒寿司の歴史はとても古く、奈良時代の木簡に「鮒鮨」の名前が確認されている。さらに、平安時代の法令集『延喜式』にも、“近江(滋賀県)から宮中に鮒寿司が貢納されていた”という記述がある。
江戸時代の俳人・与謝蕪村も、「鮒ずしや 彦根の城に 雲かかる」という俳句を残している。
冷蔵庫も電車もトラックもない時代、貴重な栄養源だった魚を長期間美味しく味わえることから、かなり重宝されていたようだ。
滋賀県では、古くから結婚式・出産祝いなどの“ハレの日”の料理として食されてきた鮒寿司。
お祝い事以外にも、病中・妊娠中・肉体疲労時などの滋養強壮食品としても食されてきた。
つまり、“普段はなかなか食べられない、とっておきのご馳走”のような位置づけなのだ。
魚独特の生臭さを含む強烈な発酵臭、その後に続く強烈な旨み
「鮒寿司が苦手」と言う人は、おそらくその“におい”が苦手なのだと思う。最初に嗅ぐにおいのインパクトが凄すぎて、その後に口に含んでも、じっくり味わう心の余裕を持てないのではないだろうか。
しかし魚独特の生臭い発酵臭にさえ慣れてしまえば、他の食品ではなかなか味わえないような、力強く深い旨みを堪能できる。
鮒寿司の味は、強い酸味と程よい塩辛さが特徴。食感は、とても柔らかい。そして噛めば噛むほど、熟成された鮒の旨みがじわじわと口の中に広がっていく。
筆者などは食べ慣れているので口に放り込んだ瞬間に「美味しいなァ」と思うが、初心者の方は“鮒寿司の本当の美味しさ”を実感するまでに、少し時間がかかるかもしれない。
なので、最初は「ウッ」と思ったとしても、めげずに噛み続けてみて欲しい。きっと新たな快楽の境地にたどり着くことができるはずだ。
お湯を注ぐだけで簡単アレンジ!鮒寿司茶漬け、鮒寿司汁がオススメ
鮒寿司は日本酒等のおつまみとしてそのまま食べてもおいしいが、お湯を注ぐだけで完成する簡単アレンジもオススメだ。
一つ目は、ご飯の上にのせてお湯(お茶)を注ぐだけの、“鮒寿司茶漬け”。お好みで、海苔や青ネギ、わさびを加えても。
鮒寿司の強い酸味と塩味がお湯とご飯で中和され、爽やかな食事メニューに変身。
こちらも鮒寿司にお湯を注ぐだけの、即席お吸い物。鮒寿司そのものが旨みたっぷりなので、出汁や調味料は不要だ。
筆者は、夏バテの時や、胃腸が弱っている時などに、時々食べている。
鮒寿司は通信販売で購入するのが手っ取り早い
滋賀県内では、鮒寿司専門店やスーパーなど、いたるところで鮒寿司を購入できる。
県外で鮒寿司を入手したい場合には、やはり通信販売が一番手っ取り早いだろう。
『あゆの店きむら』『鮒味(ふなちか)』『琵琶近江商店』『魚治(うおじ)』など専門店が運営するオンラインショップでは、全国への発送に対応している。その他、楽天市場でも鮒寿司が購入可能だ。
鮒寿司は、作る人(会社)によって味やにおいが微妙に異なる。お気に入りの味にめぐり合うまで、複数のメーカーのものをぜひ試してみてほしい。
参考
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/suisan/18690.html
http://www.funachika.com/?mode=f2
http://muraisuisan.com/history/
https://www.hikoneshi.com/jp/information/articles/2906
文/吉野潤子