ヘラクレス英雄譚に登場する「ケルベロス」と「オルトロス」
世界中の神話には、神さまや人間以外にも、さまざまな生き物が登場する。
日本では頭が8つもある大蛇が出るし、北欧神話では世界を支えるほど大きな木の頂に、これまたとんでもなく大きな鳥が住んでいるとされている。
中でも著名な神話といえば、ギリシア神話のヘラクレス英雄譚だろう。
このヘラクレス英雄譚には、2頭の犬が登場する。
それがケルベロスとオルトロスだ。
この2頭は兄弟であるが、ケルベロスは頭が3つもあり、オルトロスは双頭。体格も良く、性質は凶暴で残忍と伝えられている。
が、どこまで凶悪に脚色されても、もともとは犬。神話の端々に、彼らの犬らしさや愛らしさがにじみ出ている節がある。
今回はそこにクローズアップしていきたい。
冥王ハーデスの番犬ケルベロスの愛らしい側面
まずは3つの頭を持つケルベロスについて書いていきたい。
彼は冥王ハーデスが支配している冥府の番犬であり、飼い主であるハーデスにはかなり忠実であったとされている。
冥界では厳然たる戒律に従っていた誇らしきケルベロスだが、環境の変化にはいささか弱かった。
あるときヘラクレスが、ハーデスの許可をとってケルベロスを地上に連れ出すことがあった。
ケルベロスは、この慣れない他人との散歩に渋々従ったが、太陽の光を見るやパニックに陥り、大量のよだれを垂らして暴れまわったという。いつもと違う散歩コースには、あまり免疫がなかったようだ。
また、ケルベロスは人を食う場合もあるが、基本的には甘いものを好んだという記述もある。
特に焼き菓子が大好物で、これを食べている間は目の前を誰かが通過しても無視してしまうほどなのだとか。
さらには美しい音楽も好んでおり、いい音色の楽器なんかを演奏されると、そのうちに3つの頭すべてが眠ってしまうこともあるとされていた。
とにかくいつもと違うことに対応ができず、アドリブに弱い冥界の番犬ケルベロス。
なんとも可愛い脚色をされまくっているものである。
凶暴なオルトロスの犬丸出しの性格
一方でオルトロスの場合は、ケルベロスほどアドリブに弱くはない。
なにせ彼の場合は普段から地上で生活していたので、太陽の光も見慣れている。日光浴もし放題で、ケルベロスより毛並みも良さそうだ。
ただし、彼の背中には7体の蛇が生えていたということなので、蛇たちにしてみれば好ましい環境ではなかったのかもしれない。
ケルベロスが番犬なら、オルトロスはさながら牧羊犬であった。
彼はゲリュオンという巨人の管理する牧場に住んでおり、主に牛を守っていたが、あるときその牛を盗みにヘラクレスがやってきた。
そしてこれが、オルトロスが神話の中で登場する、最初で最後の場面となる。
オルトロスは勇敢な犬だったが、致命的にせっかちな性格をしていたそうだ。
だからこのとき、ゲリュオンや他の仲間とヘラクレスを追い回していればよかったものを、彼は侵入者の登場に我慢ならず、単独で突っ込んでしまった。
勇敢な警察犬みたいな行動原理である。これはこれで「THE.犬!」って感じはして心象がよろしいが。
もっとも、その勇敢さが災いして、オルトロスはヘラクレスに倒されてしまった。
飼い主であるゲリュオンを守るための、あえての単独突撃だったのかもしれない。
おわりに
ギリシア神話に登場するケルベロス、オルトロスには現代の犬とも共通する犬の性質といったものがかなりエッセンスとして含まれていることが、お分かりいただけたのではないだろうか。
ケルベロスは愛嬌があり、オルトロスは飼い主に忠実という側面が、それぞれ犬らしさとして強調されている。
動物好きとしてはオルトロスの末路があんまりにも可哀想に思えてしまうが、冥府に行った後はケルベロスと一緒に番犬をすることになったかもしれない。
あの神話では、死んだものは星座になるか冥府に行くか、大体この2つの結末が用意されているので……。
文/松本ミゾレ(PETomorrow編集部)
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