外出自粛やリモートワークによって、外で身体を動かす機会は減る一方。気づけば、フルーツのラ・フランス、あるいは、百鬼夜行の餓鬼のようにポッコリと腹だけ出た体型となり、夏なのにピッタリ目のTシャツが着づらくなったという人も少なくないだろう。
今回、株式会社MTGによる、全国30歳~59歳男女1800名を対象にした「筋肉と健康に関する意識調査」の結果と共に、筋肉の専門家である京都大学の森谷敏夫名誉教授が教える、このままあまり体を動かさない生活を続けた場合の危険な健康状態、体型予測についても紹介していきたい。
筋トレ習慣がない人は座り時間が長く、インドア派。出来るだけ動きたくない傾向
近年、健康機運がますます高まっている。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」にも現れており、2018年度のフィットネスクラブ利用者数合計は前年比+1.7%増の2.57億人に。
さらに、総務省の家計調査(2018年)によると、世帯主の世代別に見たスポーツクラブ使用料は、30代後半から50代前半において同支出がやや増加している。
このような社会背景の中、普段から筋トレ習慣がない30代~50代の男女1200名に生活習慣について尋ねたところ、「座り仕事が多い」と答えた人は約半数で、約6割が「インドア派」と回答した。
その上、「仕事でも私生活でもできるだけ動きたくない」と答えた人は4割にものぼり、オン・オフを問わず運動不足が深刻化する傾向にあることがわかった。
筋トレ習慣がない人はそもそも運動が嫌い。どんなに筋トレブームでも、自分が好きなことを優先したい
今もなお運動に消極的な方がいるのはなぜだろうか。今回の調査では、普段から筋トレ習慣がない人のうち、運動やスポーツをすることが「好きではない」「嫌いだ」と答えた人は合わせて約7割と、筋トレ習慣がある人(24.9%)よりも大幅に高いことが分かった。
また、過半数が「筋トレする時間があるなら、もっと好きなことをしたい」と考えており、体を動かすことへの心理的なハードルに加えて、運動や筋トレの優先度が低くならざるを得ない多忙な現代人の実態が伺える。
筋トレ習慣がない人は健康意識が低く、体に不調がない限りライフスタイルを変えたくない
筋トレ習慣がない人たちは、どのような健康意識を持っているのだろうか。「普段から自身の健康に気をつかっている(とても気を使っている+やや気を使っている)」と答えた人は半数以下で、筋トレ習慣がある人(87.2%)よりも極端に低いことが明らかになった。
さらに、過半数が「体に不調がない限りライフスタイルを変えたくない」と考えており 、「今後も筋トレをするつもりはない」と、答えた人は4割にものぼった。
また、調査の結果、普段から筋トレ習慣がない人のうち4人に1人が「糖尿病や癌、サルコペニアなどは年齢的に心配するにはまだ早い」と考え、年代別で見ると、30代が約3割、40代と50代でも約2割の人が、まだ他人事だと思っていることが明らかになった。
さらに、加齢によって筋肉量が減るということを知らない人も2割を超え、筋トレ習慣がある人(3.8%)よりも圧倒的に認知度が低いことがわかった。
将来歩けなくなる!? 30代~50代にあまり運動をしないで過ごすと筋肉が急激に減少
個人差はあるが、人間は30歳前後から徐々に筋肉量が減っていく。一般的に運動をしないと、1年に1%ぐらい全身の筋肉がなくなる。
何も対策をしていなければ、60代では20代のころと比べて身体機能が40%も衰えるという研究結果もある。1日のうち、座っている時間が長ければ長いほど心血管疾患など病気になるリスクが高くなる。
上半身よりも下半身の筋力低下が顕著に起こることから、下記グラフでは筋トレ習慣がある人と、筋トレ習慣がない人における膝を伸ばす力を比較している。
実に80代の筋トレ習慣がある人は、20代の筋トレ習慣がないに匹敵する筋力を示しているが、一方の筋トレ習慣がない人においては30代以降”急速に筋機能が低下”していく。筋肉が弱ると足が上がりにくくなってつまづきやすくなる。つまづいたときにぱっと支える一方が出ない。転倒して、もろくなっている骨がポキンと折れる。そのようなステップをより若くして歩みたいだろう。
人間の筋肉は、自分の現在の生活ができる範囲を上限に残っている。よって、日ごろの生活が不活になれば、その不活な生活に必要な筋肉しか残れなくなる。まだ自分は大丈夫と思っている30代~50代の方は要注意!日常でこのままあまり体を動かさないで過ごすと、筋肉量が減っていく「筋失線」を辿っていく可能性がある。
■森谷敏夫 京都大学名誉教授のコメント
年齢とともに筋肉量は減っていきますが、日常的な運動習慣がない人は、運動習慣がある人と比べると、30~40代以降により筋肉量が減っていきます。
筋肉が弱まると、つまずきやすく歩くことが難しくなったり、寝たきりになるレベルに達する時期が早く来てしまうことが想定されます。運動をしないと、筋肉はミオスタチンという筋肉の成長を妨げるホルモンの放出を受けてどんどん萎縮してきます。
「使わないなのだったら、いらないでしょう」というわけです。悪いことに、このミオスタチンは骨の形成を阻害する働きも持っています。つまり、筋肉が減ってしまうと、筋肉を支える骨もスカスカになってしまうのです。まだ若いから大丈夫と考えている方は油断大敵です。筋失が進むプロセスは30代から既に始まっているかもしれません。
■森谷敏夫 京都大学名誉教授のコメント
あまり運動をしない生活をしていると、すべての臓器(筋肉を含め)が弱体化します。筋肉が萎縮するような状態ではそれを刺激する脳機能も低下、筋肉にエネルギーを供給する心臓循環機能も低下、運動を支える骨格も萎えてしまいます。
つまり、地球にいながら無重力にさらされた宇宙飛行士のように、ほぼすべての機能が一気に老化したような状態になります。
ダーウィンの「進化論」でもおなじみのとおり、人間は2足で立ち歩けるようになり進化を遂げてきましたが、このままでは「歩けなくなる」、「立てなくなる」可能性があります。
このまま動かず筋肉が衰え続けると、「未来の人類の姿は醜い!? 」
筋肉が減り、衰えるとどうなるか?未来の人類の身体は醜い姿になるかもしれない。
■森谷敏夫 京都大学名誉教授のコメント
このまま動かない、歩かない、運動不足な生活を続けた場合、人類の姿は変わってくるかもしれません。身体的な特徴としては以下が挙げられます。
・か細い肩周り、重力に負け
・出っ張り垂れ下がるお腹
・お尻の筋肉(大殿筋)が落ちてほぼフラットに
・体を支えられないくらい細い脚
・首がもっと前に垂れて脊柱が代償的にも大きくS字に湾曲する
筋トレ、運動習慣がない人はこの将来の体形を思い浮かべてください。仕事の合間にちょっと体を動かしたり、家の中でも出来るようなストレッチやトレーニンググッズは多数あります。まずは出来るところから筋肉を使い、筋量を増やすよう意識してみましょう。
森谷敏夫 京都大学名誉教授監修 世界初 「筋肉診断」
自分の筋肉量はどれぐらいあるのか、年齢的に多いのか少ないのか。今の筋肉の状態について考えたことがある方はそう多くはないかと思われる。まず自身の筋肉量について把握し、体を動かし筋肉を鍛えることを意識していくことから始めるのがお勧め。以下の3つのテストで筋肉量を計測し、それぞれの点数を合計するだけで、あなたの筋肉の状態を知ることができる。
<専門家プロフィール 森谷敏夫>
京都大学名誉教授。1950年、兵庫県生まれ。国際電気生理運動学会、国際バイオメカニクス学会、アメリカスポーツ医学会、日本運動生理学会、日本体力医学会など、多数の学会で理事、評議員を歴任。世界で初めて、筋力増大に対する神経的要因の貢献度を評価した。発表した論文は、300本以上。著作多数。EMS*のトレーニング効果について40年以上研究。
*Electrical Muscle Stimulation=筋電気刺激
出典元:株式会社MTG
https://www.mtg.gr.jp/
構成/こじへい