子猫の遊びは、ほぼすべてが「殺しのトレーニング」だった
なぜ「猫パンチ」はあるのに、「犬パンチ」は無いの?
猫パンチをしたり、前足を器用に使ってふすまを開けたり、猫は器用に前足を使うイメージがありますよね。それに比べて犬は、前足を使うシーンを特に見たことがないような…。それもそのはず、犬の前足は、「前後に動かして歩いたり走ったりする」ことに特化して発達しているからです。これに対して猫の前足は、前後だけでなく横方向にも自由に動かせるようにできています。
このような「横方向に動かせる能力」は、ネコ科特有の狩りの仕方によって獲得されたと考えられています。ネコ科の動物の狩りは、獲物に音もなく忍び寄ったり、待ち伏せしたりして、獲物が至近距離に近づいた時に一気に飛び掛かります。そして獲物を殺す時は、首の脊椎を探り当て、牙によって瞬時に切断します。そうしないと、獲物が暴れて反撃されるリスクがあるからです。
まさに「瞬殺」ですが、この瞬殺を可能にしているのが、鋭い爪。爪を立てて相手の首や肩を抱きかかえ、固定することによって動きを封じています。つまり爪と前足の自由な動きが、「瞬殺」を可能にしているのです。
子猫の遊びは、殺しのトレーニング
子猫同士が後ろ足で立って相手に抱きついたり、猫パンチをしたりして遊んでいるのは、このネコ科特有の狩りに必要な運動能力のトレーニング。つまり、「殺し」の練習をしているんです。かわいらしく見えても、ココロは肉食獣なんですね…。
猫は生後3週間くらいから、いっしょに生まれた兄弟たちと取っ組み合いのケンカをはじめます。でもこうした遊びで怪我をすることはほとんどありません。小さいうちは、怪我をさせられるほどの力がないせいですし、少し大きくなると、「攻撃し過ぎると楽しいケンカごっこがすぐに終わってしまう」ことを学ぶためです。
生後4週目くらいに入ると、ケンカごっこはさらに巧妙になり、フルに前足を使うようになります。追いかけて飛びついては前足で抱きついたり、地面に静止しているものを前足で空中にすくいあげたり、動くものを前足で叩いたり…。動く軽いものはすべて獲物に見立てられ、子猫たちの想像力がフル回転するのです。
「猫ジャブ」は、狩りに自信のない猫の行動
見慣れないものを見ると、前脚をチョイチョイ出して様子をうかがう・・・。ボクシングのジャブのようでなんともかわいらしい動作ですよね。また猫によっては、不審なものを見つけた時、力任せにひっぱたくこともあります。これは、野生時代に地面に落ちた鳥の死骸などに遭遇した時の名残り。まず軽く触れて、相手が危害を加えるかどうかを確認しているのです。
危害を加えてこなさそう、と確認できたら、次に鼻を近づけて匂いや温度を確かめます。相手が生き物であることが確認できると、ここでガブリ!と行くわけです。
猫がネズミを襲う時、噛みつかずに前足で叩き、逃げるのを追ってまた叩くことがあります。一見、楽しんでなぶり殺しをしているように見えますが、実は獲物の反撃を恐れて、過剰に反応しているだけであり、狩りに自信のない猫特有の行動なのだとか。野生で狩りをしているハンター猫はめったにしませんが、人間に甘やかされた猫ほど、生き物に出会うとこの“反撃チェック”を入念に繰り返すのだそうです。
文/桑原恵美子(PETomorrow編集部)
参考資料/「ねこの秘密」(山根明弘著・文藝春秋)「ねこの事典」(監修/今泉忠明、成美堂出版)「キャット・ウォッチング~ネコ好きのための動物行動学~Ⅱ」(デズモンド・モリス著・羽田節子訳/平凡社)
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