「猫は叱られると、ふてくされて横を向く」は大きな誤解
SNSでよく、イタズラが見つかって叱られたわんこが、しょんぼり反省した顔をしているのを見ますよね。ところが、猫を叱っても、反省する姿って、あまり見たことがありません。
むしろ、「フン!」というように目をそらして無視されることが多いような。そういう姿を見ると「さすが猫、プライドが高い」という印象を受けます。
わが家の初代猫・きなこは、うちに来た時まだやんちゃ盛りで、目の前にあるものをなぎ倒しながら歩くような子でした。「叱ってはいけない」とわかっていてもついつい、「もー!」と声を荒げてしまうこともしばしばでした…。
▲「なんでそんなに、ろくでもないことばっかりするの!」と絶賛叱られ中
そもそも猫は「自分にとって快適なことが正義」。そして、不快なことが起こっても、その現象と原因を結び付けて考える思考法を持ち合わせていません。
したがって、「飼い主を怒らせちゃったニャ」などという反省の気持ちになるはずもないのです。では、プイッと目をそらしてふてくされるのは、プライドを傷つけられた怒りのあらわれなのでしょうか。
怒られた猫が目を反らす理由1…恐怖を遮断する
ふだんは忘れがちですが、猫から見ると人間は巨大な生き物。どんなにこちらがちやほやして接していても、潜在的に脅威を感じています。そのため、飼い主に大きな声で叱られてじっと凝視されると、恐怖を感じてその視線を避けようとするのです。
これは、動物行動学では「遮断」と呼ばれ、自分に恐怖という不快な感情を呼び起こす情報を、外界から入力させないようにする手段と考えられています。
怒られた猫が目を反らす理由2…劣位を認め、さらなる敵意を招くのを防ぐ
もうひとつは、自然界では相手を見つめ返すということは、反抗しているしるしであり、「自分は戦う意志がある」ということのあらわれ。つまり、見つめ返す=相手からさらなる攻撃を仕掛けられる、ということなのです。叱られた猫が目をそらすのは、それを避けるための意思表示。「あなたのほうが偉いので、私は反抗などしませんよ」ということをアピールしているというわけ。つまり、ふてくされているのとは真逆なんですね。
これは、地位争いをしている2匹の猫を見るとよくわかります。優位に立っている猫はライバルをしっかりにらんで、決して目をそらしません。それに対して、劣位の猫は相手から慎重に目をそらし、上位の猫の目の近くには決して視線を注ぎません。
この「凝視=威嚇」の法則は、格闘技の試合が両者のにらみ合いから始まることにもつながっています。先に目を反らすことは、弱さのサインであることを両者が認識しているのです。サーカスの調教師たちは、トラやライオンを調教して操る時にも、この“凝視の法則”を駆使しています。
小鳥を狙う時も、視線を避けている
この“視線の法則”を知っていると、さまざまなことの説明がつきます。猫が庭で小鳥を狩るのを見ていると、小鳥が物陰に隠れるタイミングを見計らって、飛び掛かります。周到に計算してタイミングを計っているように見えますが、じつは小鳥が見えている時はその眼が自動的に猫を凝視しているため、猫は相手を襲いにくいのです。
自然界で、野生の猫がライオンやトラに襲われそうになっている時でも、勇気のある猫が一歩も引かず相手をにらみすえていると、ライオンやトラのほうがおどおどと目をそらすことがあるそうです。
もちろん、やさしく話しかけながら見つめるのは「凝視」とは違います。強い言葉で、怒鳴り声とともに見つめるのが「凝視」。猫にストレスを与えずに共に暮らしていけるよう、私たちはその意味を知っておく必要がありますよね。
文/桑原恵美子(PETomorrow編集部)
参考資料/「キャット・ウォッチング~ネコ好きのための動物行動学~」(デズモンド・モリス著・羽田節子訳/平凡社)
構成/inox.
人間の心揺さぶる犬猫情熱記事はPETomorrow!!
https://petomorrow.jp