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10月にデビューするJR九州のD&S列車「36ぷらす3」、おもてなしの準備を急ぐ現場で行なわれていたこと

2020.08.22

九州の鉄道旅の魅力を語る上で絶対に欠かすことのできないJR九州の観光列車たち。「D&S列車」(デザイン&ストーリー列車)と呼ばれるこの列車たちは、車両というハード面はもちろん、客室乗務員さんによるサービスや沿線地域との連携による地元の方のおもてなしなどソフト面が非常に魅力的だ。

そんなJR九州にこの10月、新しいD&S列車「36ぷらす3」が登場!JR九州にとっては約3年半ぶりとなる新たな観光列車だ。走行するエリアは何と九州全体! 総走行距離は1198キロと、寝台特急を除けば世界最長クラスの走行距離だ。

この距離を5日間かけて走り、各曜日ごとに異なった食事やおもてなしを楽しむことができる。また、販売形態も5日間ではなく、各曜日ごとの発売なので、様々な旅のスタイルが楽しめるのも特徴のひとつだ。なお、寝台列車のように車中泊はできない。

画像提供:JR九州 Design & Illustration by Eiji Mitooka + Don Design Associates

世界で36番目に大きい島である九州。

35の旅のエピソードに乗客の自身が36番目のエピソードを加えて、

「お客さま、地域の皆さま、私たち(JR九州)」の3を足してサンキュー!の輪を広げたいという意味で「36ぷらす3」と名付けられた

車両についてはデビューの日を目指して、現在、787系特急型電車を絶賛改造中だが、車両の改造以外にも「36ぷらす3」の運行開始に向けて各所で着々と準備が進められている。

今回は「36ぷらす3」と同じ通常の787系を使用した訓練列車に同乗してその様子をお届けします。JR九州の「おもてなし」ができるまでを少しだけ見てみよう!

車両は違っても訓練は本気!

今回、取材したのは大分から門司港に向かうルートで実際の運行ルートでは日曜日のコースとなる。午前11時過ぎ、大分駅のホームに見慣れた787系が登場。でも行先の表示は見慣れない「試運転」だ。少しただならぬ雰囲気が列車を包んでいた。

大分駅に訓練列車が入線! ちょっと不思議な雰囲気が漂う。

今回の訓練は、「36ぷらす3」の運行に関わる各所の動きを、実車により確認する大規模なものだ。客室乗務員さんの動き方、サービスの手順の確認のほか、運転士さんも実際の運行ダイヤ同様に運転を行い、車掌さんも途中駅での信号の見え方などを細かく確認していく。

「コース上には通常787系6両編成が入線しない路線や停車しない駅があります。こうした箇所に実際の列車を入線させて確認することがこの訓練の大きな目的でもあります。ドアを開ける停車駅では乗降ドアとホームの隙間、段差を各所計測し、お客さまが安全にご利用できるかを確認していきます」

こう語るのはこの「36ぷらす3」プロジェクトのキーマンであるJR九州の鉄道事業本部営業部営業課 担当課長 堀 篤史さんだ。「曜日ごとに異なる観光列車を個々に作り出すくらい、この列車は大変です」と苦笑いしながらも、ひとつひとつ丁寧に準備を進めているそうだ。

訓練に参加される客室乗務員のみなさん。36ぷらす3に乗務するのは選抜メンバーとなっている

ホーム上では、大分駅で積み込む備品や車内で提供する料理などの積み込みの手順を確認している。今回は実際に食品を積み込むわけではないが、一つ一つの手順を確認していく

デビューまで九州中を駆け回っているJR九州鉄道事業本部営業部営業課 担当課長 堀 篤史さん

訓練といっても「常に見られている意識」で立ち姿まで細部にこだわる

訓練列車、博多を目指して出発!

11時30分、訓練列車は一路門司港を目指して日豊本線を北上! それと同時に、車内では客室乗務員さんが忙しそうに車内サービスの手順を確認しながら実行していく。最初の停車駅である別府を出発すると、「36ぷらす3」のウェルカムアナウンスが実施された。

用意されたマニュアルを読んでいくのだが、さすが日常的に観光列車に乗務されている客室乗務員さんだけあって、とてもスムーズで聞きやすい放送だ。

続いて各号車ごとに担当の客室乗務員さんが個別の案内放送を行う。訓練では肉声だが、実際には号車ごとに設置されるマイクにて放送が行われる。ここで気になったのが、ご案内の様子をまめに乗客役の客室乗務員さんがスマートフォンで撮影している点だ。

号車ごと個別に行われるアナウンスの訓練

お互いにすぐに反省点を確認し合う

「客観的にどう見えているのか、や、手順などがスムーズか後で見返す資料にします」とのことで、ご案内放送が終わると放送していた本人も乗客役の同僚に「ご意見お願いします!」とすぐに反省点を共有している姿が印象的だった。

このご案内は客室乗務員さんの訓練ももちろんだが、車掌さんの全体放送、食事の配膳などとのタイミングの「被り」が起きていないかもきめ細かくチェックしている。

続いての停車駅である杵築駅では、本番では地元の方によるおもてなしや物販などが行われる予定で、先ほどの堀さんはホームなどの段差を計測しつつも、地元の方と停車中に実際の段取りなどを打ち合わせ。客室乗務員さんたちは、エレベーターの位置なども確認。乗客からの様々なリクエストに対応できるように確認事項は多岐にわたる。

「ハーモニーランドは駅から歩いていけるのかな。いけないならどうやって行ったらいいのかな」「確認します!」といったやりとりの声が聞こえてきた。

杵築駅に到着すると車掌さんたちも安全運行に関わる箇所を確認していた

ホームと車両のすきまや高さを確認する

続いて地元の方と打ち合わせを行う堀さん

出発時は腕を高々にあげて「OKサイン」を出して出発!

「36ぷらす3」の特徴の一つに、利用者のスタイルに合わせて、様々に楽しめる点がある。車内で各地のこだわりの食事が楽しめる「ランチプラン・ディナープラン」には「個室」「座席」の2タイプ、食事なしで空席があれば通常の特急列車のように利用できる「グリーン座席プラン」といろいろなプランがある。利用する側にとってはありがたいが、サービスする側としてはそれだけサービスが多岐にわたるので大変だ。

車内サービスの訓練。スムーズな配膳の方法を模索していく

乗客役の社員さんからは本番さながらの筆問なども飛び交う

サービスの様子をスマートフォンで撮影して後ほどの検討材料に活用

車内で盛り付けする「個室プラン」

次の停車駅は中津駅。中津駅では「個室プラン」で出される食事の積み込みがある。

今回は実際に積み込みを行わず、動線の確認のみが行われた。「36ぷらす3」の中で、最もグレードの高いサービスとなる個室プランだが、列車はもう中津まで北上しているので、時間にゆとりのあるダイヤ設定となっているこの列車とはいえ、スムーズに出していかないとせっかくの食事を楽しむ時間がどんどん減ってしまう。

さらにこの個室プラン向けの食事は「36ぷらす3」内で九州産の竹を使った特別な容器に詰めるという作業がある。最初から容器に詰められた状態で提供できないのかなと思って堀さんに質問してみると、「36ぷらす3」が周回走行する運用形態のため、容器の回収や食器をストックしておく車内スペースの兼ね合い上、このような形態に落ち着いたとのことだ。

車内には車窓案内などに活用するビデオカメラが設置されていた

中津では駅長さんとゆるキャラ「くろかんくん」が訓練列車をおでむかえ!

んん?床にちょっと気になる表記! 実車が楽しみだ

個室プランの食事の盛り付け訓練。実際にはキッチンスペースで行われる

実際のお食事はどのような感じなのだろう!?

食事の提供が終わると、車内に若干落ち着いた雰囲気が戻ってきた。列車は順調に走行を続け、まもなく門司港に到着する。列車自体は博多まで走行するが、僕らはここで下車となる。

コロナ禍におけるJR九州の対策

36ぷらす3では客室乗務員さんだけでなく、2名乗務する車掌さんについても客室サービスを行う。乗り込むクルーはそれぞれ選抜メンバーが選ばれている。

揺れる車内での安定したサービス提供には大変なポイントも多いが、それでもJR九州の客室乗務員さんはいつもシュッとしている姿が目に留まる。何かポイントがあるのかと、今回訓練に参加された客室乗務員の北川裕子さん(右)と直江宏美さん(左)にお話を伺うと、「常にお客さまに見られているという意識を持つようにしています。

また、立っている際、足の前後を少し広く開けることでより安定して立つことができるので、そのようにしています」と答えてくれた。

客室乗務員の北川裕子さん(右)と直江宏美さん(左)

JR九州の列車旅をより魅力的なものにしてくれる客室乗務員さんたちの素敵な笑顔。しかし現在ではマスク姿で少し残念、と思いきや、「実は私たち客室乗務員の研修の中で、『口元を隠しての笑顔の練習』というものがあります。

これはコロナの影響でスタートしたわけではなく、元々からあった研修の一つで、口元だけでなく、目でも笑顔を伝えるという訓練なんです」

なるほど!  確かに目元までにっこりとした笑顔だとより楽しい気持ちが伝わる。マスク着用の乗務というはイレギュラーだが、元々口元が隠れたくらいではみなさんの笑顔の魅力には大きなマイナスにはならなかったのだ。

コロナ禍ということでどうしても気になるのが感染対策。特に36ぷらす3では飲食も伴うということでより注目してしまうが、そこは通常のJR九州の特急列車等のコロナ対策(換気など)に加え、サービス提供時の消毒、マスク着用はもちろん、夏季を除きフェイスシールドを着用してのサービス提供を行うことで安心して乗車できるように対策がなされている。

車内でプロジェクトの中心人物である堀さんが改めてこう話す。

「36ぷらす3はまさに『走る九州』を目指しています。各コースごとに細かな調整が必要で、そういった意味では一度に5本の新たな観光列車が九州に誕生するのと同じです。

本音をいうと準備はかつてないほど大変ですが、それでもよりよいスタートを切るために、スタッフ一丸で訓練にあたっています。ぜひ、この列車で九州の魅力に多くの人に触れていただき、そして改めて、その地域を訪れていただく。そのようなきっかけになるような列車にしていけたらと思います。」

堀さんのおっしゃる通り、全九州規模だけに今回の列車は前代未聞のスケール。とはいえ、JR九州はそもそも、多くのD&S列車や、豪華寝台列車のパイオニア「ななつ星in九州」など前代未聞の列車だらけだ。ということできっと「36ぷらす3」も諸所の問題を華麗にクリアーしてまた私たちに前代未聞の列車旅を提供してくれるはずと筆者は信じている!

少しでも最高のサービスを求めて車内では真剣な議論が繰り広げられていた!

36ぷらす3、どうやって乗るの? 予約は?

最後に「36ぷらす3」の利用方法をおさらいしておこう。まず、前提に曜日ごとに走行区間が異なり、それぞれ楽しめる内容も異なる。そして、「個室」を利用するのか、「座席」を利用するのか、「車内での食事の有無」で旅のスタイルが決まる。

最もハイクラスなのは「個室利用で食事つき」で、一番リーズナブルなのは「座席利用で食事なし」のスタイルだ。「36ぷらす3」の一つの特徴として、「座席利用で食事なし」の場合、通常の特急列車のように空席がある限り直前まで「みどりの窓口」などで特急券を購入し、コースの一部分だけを乗車することもできるという点がある。

例えば大分から小倉まで移動する際、通常であれば特急「ソニック」を利用するのが定番だが、ここに「36ぷらす3」を充てる、なんて使い方もできるわけだ。食事なしといっても、3号車には沿線の品々を取りそろえたカフェテリアがあるので、軽食やドリンクなどを楽しめる。

飲食物の持参もNGではない。注意点としては「36ぷらす3」は全席指定で、グリーン車となっているので、普通席よりは割高になるという点と、観光列車なので「ソニック」のように速達性を求めている列車ではないため、所要時間は多くかかるという2点だ。でも、こだわりの車内や途中停車駅でのおもてなしを楽しむことができるので、移動の選択肢としてはとても魅力的だろう。

今回訓練乗車した日曜日運行の大分→博多コースは個室コースで1万9500円、食事付き座席利用で1万4500円、グリーン席のみで9450円だ。

36ぷらす3のデビュー日は2020年10月15日の予定だが、現在、豪雨災害の影響により博多から鹿児島中央を目指す木曜日コースの出発を見合わせている関係で、実質的には10月16日からスタートとなる見込みだ。

予約やコースの詳細などはこちらから。

JR九州の新しい観光列車は「走る九州」!今からデビューが楽しみだ!

取材・文/村上悠太

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