トヨタのSUV、クロスオーバーモデルの勢いが止まらない。ここ最近の国内向けだけでも、新型RAV4、シエンタFUNBASE、ライズ、新型ハリアー、そしてヤリスクロスが控えている。
ここでは、今、話題騒然の新型ハリアーと、同プラットフォームGA-Kを使う、ある意味兄弟車の2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞のRAV4を徹底比較したみたい。RAV4の人気ぶりは周知の通りだが、新型ハリアーはなんと、7月16日時点で月販販売目標の3100台に対し、こんな時期にもかかわらず、14.5倍の約4万5000台もの受注があったというのだから驚きを隠せない。
新型ハリアーは、誰もが一目でハリアーと分かる、都会の高級ホテルのエントランスにも似合う、クーペライクな乗用車的スタイリングから(あるいはこれまでのハリアーのキャラクターから)、あくまで都市型のクロスオーバーモデルだと分かるだろう。そう、泥にまみれる姿は似合わない。
一方、5代目となったRAV4はキャラクターを一新。泥まみれが似合う、クロスカントリー志向を強め、ガソリン車のアドベンチャーグレードが象徴するように、世界初のダイナミックトルクベクタリングコントロールを採用するなど、アウトドア、悪路走破性にこだわったオールラウンダーへと舵を切っているのが特徴だ。
そこで、都会派なら新型ハリアー、アウトドア派ならRAV4・・・という、しっかりとしたキャラクター分けとなりそうなのだが、同じGA-Kプラットフォームを使うトヨタのミッドサイズのSUV同士でも、使い勝手面、装備面でけっこうな違いがあることを見逃してはならない。
新型ハリアーの最低地上高は、HVで190mm、ガソリン車で195mm。スタイリッシュさを極めた都市型クロスオーバーモデルとはいえ、悪路にも対応するSUVと言えるだろう。一方、RAV4の最低地上高はHVで190mm、ガソリン車でグレードにより195~200mmとなるから、最低地上高だけを見れば、大きな違いはない。ただし、4WDシステムで上回るのは(より悪路に強い)、RAV4、それもダイナミックトルクベクタリングコントロールを備えたアドベンチャーグレードになる。
新型ハリアーにダイナミックトルクベクタリングコントロールは未採用なのである。もっとも、それ以外の4WD同士になると、メカニズム、、走破性に関して大きく変わらないのも事実である(例えばHV車の電気式4WD)。
装備面では、さすがにより新しい新型ハリアーが優位に立つ。一例を挙げれば、ボイスコントロールで「空を見たい」「夜空を見たい」と発声すると、自動で調光パノラマルーフが瞬時に透過モードになり、ダークガラスのようなパノラマルーフが障子越しのような透過ガラスルーフに一変する。さらにデジタルルームミラーに、トヨタ初の前後録画機能を持たせているあたりは、現時点でRAV4に望めない装備・機能のひとつと言える(デジタルルームミラーのドライブレコーダー機能は、今後、RAV4などに装備される可能性あり)。
また、トヨタ最新の先進運転支援機能=トヨタセーフティセンスやヘルプネット=SOSコールは、新型ハリアー、RAV4のどちらにも標準装備されている。
で、新型ハリアーとRAV4の決定的な違いは、走行性能を別にすれば、パッケージング、ラゲッジスペースの使い勝手ということになりそうだ。新型ハリアーを後ろから見ると分かるのだが、美しすぎるクーペスタイルを完結させるため、ボディのリヤセクションを絞り込んでいる。結果、荷室容量は先代ハリアーの456Lに対して409Lへと減少。RAV4は上下に位置を変えられるデッキボード下位置で580L(すべてVDA方式)だから、新型ハリアーのラゲッジスペースは、リヤボディのスタイリッシュさと引き換えに、かなり容量減となっているのである。具体例を挙げれば、先代ハリアーとRAV4がゴルフバッグ4セットを積み込み可能なのに対して、新型ハリアーは3個までしか積みこめないという。まぁ、ウイズ・コロナ、ソーシャルディスタンスの時代に、1台に4名”密”乗車でゴルフに出かけるのは非現実的だからゴルフバッグ3セットでも問題はないとも言えるのだが、アウトドアでキャンプ・・・といったシチュエーションでは、RAV4のほうがたっぷり荷物を積みこめ、使いやすいはずだ。
加えて、荷室そのものの使い勝手の考え方にも両車は違いがある。RAV4はこうしたSUVがアウトドアや海山のスポーツで使われることを想定し、後席よりもラゲッジスペースを優先したパッケージを採用している。両車の荷室寸法を実測値で紹介すると、RAV4はラゲッジスペースのフロア開口部地上高695mm、開口幅1130mm、開口高805mm、荷室フロア長1020mm、幅1150~1345mm、最低天井高805mm、床下収納あり、デッキボードの上下位置による容量可変可能。
新型ハリアーはラゲッジスペースのフロア開口部地上高800mm、開口幅1055mm、開口高700mm、荷室フロア長975mm、幅~1240mm、最低天井高700mm、床下収納あり。それぞれの実測数値を比較すれば分かる通り、新型ハリアーはRAV4に対して荷室フロアが高く、開口部が狭く、フロアの長さ、幅、高さともにリードされることになる。もちろん、新型ハリアーのラゲッジスペースが日常的に狭いと感じるシーンはまずないと思えるが、決定的なのは重い荷物の出し入れの容易性で、ラゲッジスペースのフロア地上高がグっと低いRAV4のほうが使いやすいということになる。
後席の居住性に関しては、格段の差はない。身長172cmの筆者の運転姿勢(シート位置)基準でその背後の後席に着座すれば、新型ハリアー(パノラマルーフなし)は頭上に150mm、膝周りに200mm。RAV4は頭上に180mm、膝周りに210mmと、わずかに余裕がある程度。
では、走行性能面で両車はどう違うのか。RAV4は、個人的な推奨グレードとして挙げられるガソリン車、かつシリーズ中、唯一2トーンカラーボディが選べるアドベンチャーグレードであれば、ダイナミックトルクベクタリングコントロールによるオンロード、オフロードでの痛快とも言える曲がりやすさ、エンジンの高回転での気持ち良さ、悪路走破性の高さなどが美点となる。つまり、アドベンチャーグレード=ガソリン車をお薦めしたい(アウトドアでAC100V/1500Wコンセントを使いたいならHVだが)。
逆に、新型ハリアーは、企画、開発の狙い通りの、高級サルーンを思わせる車内の静かさや、モーターのアドオンによる滑らかでスムーズさ極まる走行性能が魅力となるHVを選ぶべきだと思える。AC100V/1500Wのコンセントは、アウトドアで、というより、ビジネスユースで活躍しそうである。
ちなみに、それぞれの推奨グレードの価格は、RAV4のアドベンチャーグレード 4WDが331万円。新型ハリアーのGハイブリッド 2WDが400万円(前後録画機能付きデジタルルームミラー込み。調光機能付きパノラマルーフはZグレードのみにオプション)となる。
結論としては、当たり前だが、都会により似合うのは新型ハリアー。背の高いスタイリッシュな高級サルーンとしてのキャラクターが際立っている。ビジネスユースにもなかなかだ。一方、RAV4はなるほど、アウトドア、悪路にめっぽう強い、ラゲッジスペースにもより余裕あるオールラウンダー。使い方、デザイン、価格などを考慮して、自身に最適な1台を選んでいただきたい。同じSUVのカテゴリーでも、泥が似合う、似合わないというような方向性が大きく異なるため、選びやすいとも言えそうだ。どちらも魅力溢れるSUVであることは言うまでもない。くどいようだが、新型ハリアーはSUVの皮をかぶった都市型の高級で先進装備満載のサルーンそのものである。
ちなみに犬と暮らし、犬とドライブに出かけ、アウトドアを楽しむ機会も多いわが家としては、RAV4のアドベンチャーグレード(あるいは現在、注文を一時停止しているPHV)に惹かれていたりする。
トヨタ・ハリアー
https://toyota.jp/harrier/
トヨタRAV4
https://toyota.jp/rav4/
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。