自分の肝臓に心からの謝罪を
オレ、呑むとあんまり食べなくなるんで、こういう“ザ・酒肴”みたいなの大好きなんだよ。チコチコッとした、腹には溜まらないけど、ただ酒をおいしくグビグビいくために完成した旨い料理。
そして! そのイイ酒肴に出会うと、最初は呑むつもりじゃなかった量の酒を呑まずにいられなくなっちゃう。
だから本当いうと健康だとか肝臓だとかガンマGTPだとかを考えると、そういう酒肴には出会いたくないんだよ。出会いたくないんだけと、出会っちゃうと幸せなんだよな~。
ほんと、こういう体験を味わえる酒場って、幸せすぎてまぁ天国だよね。
で『神亀』をもう一杯頼んで。
ここらでさすがにオツマミをもう一品くらい頼んだ方がいいかな? って気になりましてね。なにしろ散財してもいい気分ですから。
そこで、酒肴の中の酒肴『自家製いかの塩辛/350円』を注文じゃあああ!
するとご主人が向かい合ってる板場からなんか細かぁ~く包丁を使ってる音がするワケ。「シュコシュコシュコシュコ」と。オレが塩辛を頼んでから聞こえてきた音なんで、塩辛関連のなにかなんだろうけど、塩辛を提供するうえで、なにか包丁をシュコシュコ使うような仕事があるのかなぁ~とちょっと不思議に思ってたんだけど、出てきた塩辛を見て納得とするとともに感涙でした。
塩辛の上に青柚子の皮が細かァ~く針状に切ったものが散らしてある! さっきの包丁の音は、この柚子皮を切ってる音だったのか! それでこの柚子と爽やかな香りと塩辛のネットリと凝縮したアミノ酸のような味わいのハーモニーがまたもう死んじゃう!!
またまたお代わりしたいんだけど、そろそろこれを最後の一杯にしようと『黒龍』を頼んだ。そしたら、
「サービスです、どうそ」
なんつって『あさりの山椒煮』が出てきたんだよ。ちょっとちょっとまたまたザ・酒肴が出できちゃったよ! さっきまでこれが最後の一杯だと思って呑んでた酒もおかげでなくなっちゃって、今度こそ最後の一杯! とまた『黒龍』をお代わりいたしました。すまんな肝臓!
2杯くらいのつもりで入店して、結局7杯も呑んだというか、酒肴の旨さで7杯呑まされちまいました! こういう酒場っていうのが本当に一番いい酒場なんだよな。嗚呼、天国。
文/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。