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弁護士が解説!オタク文化を満喫するためにも知っておきたい著作権法の話

2020.07.13

ゲームやアニメ、漫画などのいわゆる“オタク文化”を楽しむ上で、著作権法の正しい知識は欠かせない。著作権法の知識は、全オタク必修といっても過言ではないだろう。

エンターテインメント分野の著作権法に詳しい弁護士の井上拓さんによると、厳密には著作権法違反であっても慣習的に権利行使がなされていない“寛容的な利用”と呼ばれるエリアがあり、監督官庁である文化庁もそのようなエリアの存在を公の文書で述べているそうだ。

グレーゾーンが大きく曖昧な部分が多い日本の著作権だが、その中で“この一線を超えてはいけない”という基準ももちろん存在している。

前編では、著作権法の基本ルール、ツイッターのオタ垢運営や二次創作の注意点について、井上さんに解説してもらった。

【取材協力】

井上 拓(いのうえ たく)・・・弁護士・弁理士。東京大学工学部卒、東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録、日比谷パーク法律事務所入所。主な取扱分野は、知的財産権、IT、エンターテインメント、スポーツ等。University of California, Berkeley, School of Law(LL.M. / Certificate of Law & Technology)修了、University of Southern California, School of Law(LL.M. / Certificate of Media & Entertainment Law)修了。エンターテイメント・ロイヤーズ・ネットワーク会員。弁護士知財ネット会員。
法律についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル『井上拓 のフロンティアCH』も運営中。
Twitter:@inotaku

他人の著作物の利用は原則ダメ!でも私的使用や引用などはOK

そもそも著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」を意味する(著作権法第2条1項1号)。

そして作者が自分の著作物について持っている様々な権利の総称が、一般的に“著作権”と呼ばれているものだ。

まずは井上さんに、著作権法の基本ルールについて教えてもらった。

「他人の著作物は勝手に使ってはいけない、というのが原則です。著作物を“使う“というのは、著作物を複製(コピー)したり、改変したり、演奏したり、放送したりすることをいいます。著作権というものは非常に“広く”守られています。プロ・アマ問わず、知名度にも関係なく、全ての著作権者が著作権法によって保護されています。

このように法律によって守られている著作物を他の人が使用したい場合は、

●著作権者の許諾を得る
●例外的に利用可能なものとして著作権法が定めるパターン(権利制限規定)に該当

このいずれかを満たす必要があります」

2つ目の“例外的に利用可能なもの”としては、報道・教育・福祉といった公益目的で利用する場合など様々なパターンが規定されているが、井上さんによると圧倒的によく使われるのは以下の2つだそう。

「ぜひ皆さんに知っておいていただきたいのは、以下の2つの例外です。

●私的使用のための複製
●引用

“私的使用”とは、“自分ひとりだけ”、または“家族などの限定された集まり”の範囲だけで著作物を使用するというもの。なぜ私的使用の場合に著作物の複製が許されるのかというと、“著作権者の権利を害する程度が低い”類型と考えられているからです。

たとえば、

●好きなアニメの画像をダウンロードしてスマホの背景画面に設定する
●好きな声優の画像を印刷して自室の壁に飾る
●家族間のLINEでゲームのスクリーンショットを送り合う

といった行為が考えられます。

最後の例について補足すると、“誰かにシェアする目的でゲームのスクリーショットを撮る行為”はゲームの画面という著作物の“複製”なので原則としては許されません。しかし、シェアの範囲が家族間にとどまるので “私的使用”にあたり、例外的に許されます。それとは別に “そのスクリーンショットを他人に送る行為”が問題なのかも検討しなければなりませんが、結論としては家族間という閉じた範囲であれば問題ありません(詳細は省略しますが、著作権法上の公衆送信権が問題となります)

これが“友人同士”となると、少し微妙なところですね。

友人同士であっても、家族と同じぐらい少人数かつクローズドな集まりであれば、著作権違反には該当しないと思いますが、十人以上の規模になると、著作権法違反となる可能性が高いです」

“不特定多数の目に触れる可能性があること”、“権利を害する程度が高いこと”。このどちらかに当てはまると、“私的使用”の範囲から外れ、著作権侵害となってしまう可能性が高くなるそうだ。

例外的に許されている“私的使用”の中にも、さらに例外があるという。つまり、例外の例外として、違法となってしまうパターンだ。

「主なものは2つです。

1つ目は、いわゆる“違法ダウンロード”。違法にアップされた著作物だと知っていながら、ダウンロードする行為のことを指します。この場合、たとえ私的使用が目的であっても許されません。これまで規制対象は音楽や映像のみでしたが、最近の法改正により、漫画などの静止画も対象となりました。

ところで、著作権者(原作者)に無許可で行う二次創作は、慣行上黙認されることが多いものの、形式的には著作権の侵害にあたります。

なので、二次創作者本人がアップしたとしても、その二次創作漫画は“違法”なものとなり、それを知りながらダウンロードすると “違法ダウンロード”になってしまいます。

しかし、それはおかしいだろうということで、二次創作者が原作者から許諾を得ていないとしても、このような場合は“違法ダウンロード”の規制の対象とはしないとする手当てがなされています。

2つ目は、コピープロテクションを回避して行う複製です。これも、私的使用であっても違法です。複製ができない設定になっているものを特別な装置を使って裏技的に複製できるようにするのはダメだよ、という話です。常識のとおりだと思います。」

文化庁も存在を認める“寛容的な利用”!著作権侵害が黙認されている日本

他人の著作物は無断利用できないのが原則だが、実際には著作権者によって無断利用が黙認されているパターンも多いのが日本の現状だ。

これは一体、どういうことなのだろうか?井上さんに解説してもらった。

「日本における著作権の取り扱いは、グレーゾーンが広いという点で特徴的です。

たとえば米国には権利制限規定の中に“フェアユース規定”という包括的な規定があり、著作権法の時代遅れで古い部分をカバーできています。

つまり、時代の流れるスピードに法改正が追いつかなくても、フェアユース規定を用いることで著作物の利用を柔軟に合法化できるのです。

一方日本には“フェアユース規定”がなく、何種類かの具体的なパターンを定めた権利制限規定しかないので、社会常識で考えると違法にすべきではない著作物の利用であっても、著作権法のどのパターンにも当てはまらない場合は、これを合法だと整理することが難しいのです。つまり、著作権法違反の範囲について柔軟に解釈することができません。

しかし、それだと世の中が回っていかないので、形式的には違法(著作権違反)状態ではあるが権利者がその権利を行使せず黙認する、という対応となる例が多いです。

著作権者が違法状態を黙認している現状については、文化庁も『寛容的な利用』という呼称で紹介するなどして認識しているというのが、面白いところではあります。

日本でもフェアユース規定を導入しようという動きがありますが、残念ながら実現には至っていません。オタクの方々にとっては、法律的に不安定な状態が続いています。

もっとも、形式的にみて著作権が侵害されている場合であっても、損害賠償を求めたり差し止めを求めたりするか否かは、著作権者次第です。

著作権侵害には刑事罰もありますが、原則として親告罪(注:被害者が告訴しない限り罪を問われない)ですので、刑事的に責任追及するか否かも著作権者次第です。

なので、著作権者によって黙認されるのが慣行となっているジャンルについてはマナーを守って良識ある行動をとっていれば、民事的にも刑事的にも権利行使される可能性は低いのではないかと思います。もちろん、毎回許諾を得るのがベストではありますが」

二次創作を楽しみたい人が知っておくべき著作権法の知識

大好きな原作をもとに“二次創作”を行うのは、多くのオタクにとって楽しみのひとつだろう。

原作に対する純粋な愛情から作られた二次創作物(四コマ漫画、イラスト、動画など)は、法律上どのような扱いになっているのだろうか?

「厳密にいえば、原著作者に無許諾で行う二次創作は、著作権侵害です(著作権のうちの“翻案権”という勝手に改変されない権利を侵害することになります)。しかし、原作の宣伝になることもあり、著作権者によって黙認されていることが多いです(いわゆる “寛容的な利用”)。

二次創作を行うにあたっては、いちいち許諾を取りにいかなくても、著作権者に許されていることが多く“慣行”になっているといえますので、許諾を事前にとるのがベストではあるものの、許諾を得ることなく二次創作を行ったことに対して著作権者から権利行使される可能性は低いと言えるでしょう」

原作に対するリスペクトと愛情を忘れず、オタク同士のマナーを守りながら謙虚に二次創作を行っていれば、問題はなさそうだ。

とはいえ、二次創作においても超えてはいけない一線があると井上さん。

「二次創作によって大きな利益を得ているかどうかは、黙認で済むか否かの大きな判断要素となります。

二次創作によって対価を得ていようといなかろうと、著作権侵害であることには変わりがありません。しかし二次創作によって高額な利益を得ていたとなると、場合によっては原作者(著作権者)から権利行使されるかもしれません。なぜなら、その利益のうちの少なくとも一部は原作者にも分配されるべきものだからです。

これは、二次創作によって一円でもお金を受け取ったらアウト、という意味ではありません。趣味で作った二次創作物をオタク仲間に売って対価を得ているけれども、売上から経費を引いたら赤字になる、または微々たる利益であれば、それほど心配する必要はないでしょう」

二次創作にも様々なジャンルがあるが、動画全盛期の昨今では、ストップモーション・アニメーションもじわじわと増加中。

好きなキャラクターの人形やぬいぐるみを少しずつ動かしながらカメラでコマ撮りをし、オリジナルのストーリーを制作するというものだ。

自分で購入した人形やぬいぐるみを登場させるアニメーションは、法律上どのような扱いになるのだろう。

「人形やぬいぐるみをめぐる法律関係は、非常に難しいです。

人形やぬいぐるみは大量に同じ形にものが製産されるので、この点からすると工業製品といえます。そうすると、著作権法の適用がなく、代わりに意匠法という法律で保護されます。おもちゃであるファービー人形の著作物性を否定した(著作権法の適用はないとした)裁判例があります。

一方、そうはいっても、美的創作性が高い人形やぬいぐるみについては、(意匠法だけでなく)著作権法でも保護すべきだとも考えられています。たとえば、博多人形について、著作物に該当するとした(著作権法でも保護されるとした)裁判例があります。

このように、人形やぬいぐるみが著作権法で保護されるのか否かはケース・バイ・ケースであり、その判断は非常に難しいところです。

ですので、ここは保守的に、人形やぬいぐるみも著作権法で保護されると考えておくのが現実的な対応としては良いと思います。

人形やぬいぐるみを購入した時点で物の所有権は購入者(持ち主)に移りますが、所有権と著作権は別々に考えなければなりませんので、著作権は著作権者に残ったままです。

ただ、人形の持ち主は、著作権者にとって大切なお客様でもあります。わざわざお金を出して人形を購入してくれた人が趣味の範囲で楽しんでいる訳ですから、それに対して権利行使がなされる可能性は、二次創作者対して権利行使がなされる可能性よりも低く、黙認される可能性が高いと思います。

許諾を事前にとるのがベストではありますが、必要以上にキャラクターを貶めるような内容でなければ、または不当に大きな利益を得ているようでなければ、権利行使される可能性は高くはないでしょう。」

後編では、ツイッターのオタ垢運営で守るべき著作権法、そしてクリエイターが無断利用や盗作の被害に遭った場合の対処法を解説する。

取材・文/吉野潤子

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