猫にも人間と同じように「同性愛行動」が存在する
男性同士の純粋な恋愛をユーモラスに温かく描いた『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の大ヒットで、LGBT(セクシュアルマイノリティの総称)を扱ったテレビドラマが増えています。
猫の多頭飼いのお宅では、「◎◎と××の仲が良すぎて、おっさんずラブ疑惑!」というジョークもよく耳にしますよね。でも、猫にも人間と同じように、同性しか愛せないタイプは存在するのでしょうか?
この記事提供元:ペットの役立つ情報が満載のWEBマガジン「PETomorrow」
動物の生態学と集団遺伝学の研究者である山根明弘氏は、著書「ねこの秘密」で「猫にも同性愛行動がある」と断言しています。山根氏が、「世界6大猫スポット」として知られる「相島」(福岡県新宮町)で7年間にわたり、猫の行動の調査を実施。発情期の猫同士の行動を観察していると、そのすぐそばで同じような行動をしているオス猫同士をよく目撃したそうです。その記録の中から同性愛行動を洗い出し、データを集計した結果は後に、イギリスのケンブリッジ大学から出版された学術書籍にも論文として掲載されています。
なぜ猫が同性愛行動をするのか(仮説)
同性愛の研究はヨーロッパを中心にかなり進んでいて、動物の同性愛行動についても非常に多くの仮説が提唱されているそうです。以下はその一部。
(1)将来のメスとの接し方や交尾に備えてのトレーニング(子猫の兄弟同士の遊びの中に見られる)
(2)単に、オス猫をメス猫と勘違いしてしまった
(3)メス猫と交尾ができないために、そのストレスのはけ口として行為に及んだ
(4)先天的な好み(生まれつき同性に対して、性的な魅力を感じてしまう)
(5)集団の中で、オス猫の順位を再確認するための行為
こうあげられると、純粋な「同性愛」は(4)だけでは、と思えますが、先天的な好みでなくても同じような行動を起こす要因がこれだけある、というのも驚きですよね。
猫にとっての同性愛行動は、“失恋の後のヤケ酒やカラオケ”と同じ⁉
しかし、多くのノラネコを観察してきた山根氏は、これらの要因に疑問を抱いています。
(2)は、同性愛行動をとるオスネコの多くが、メスとの性体験が豊富な体格のいい大人のオスであり、こうしたオス猫がよく顔を合わせる猫にそんな勘違いをするとは考えにくい、というのです。同じ理由で(1)も考えにくいですよね。また、サルなどでは上下関係を再確認するためのマウントがよく行われますが、ノラネコにはあてはまらないそうです。
山根氏は、自身が目撃した同性愛行動のすべてが発情メスに逃げられた後に起こっていることから、(3)が正解ではないか、と推測しています。つまり人間の男性が、女性に振られたり、想いをうまく伝えることができなかったりして落ち込んだ時、お酒を飲んだり、カラオケやギャンブル、スポーツで気分転換するように、猫も同性愛行動でフラストレーションを発散し、気持ちを建て直して、またメス猫にアタックできるようにしているのでは、というのです。
とはいえ、災難なのはそれに利用される相手のオス猫。山根氏が目撃した例では、一匹の発情期のメス猫を複数のオス猫が狙っている場合、オス猫がライバル猫に同性愛行動を強制的に行う例もあったとか。これにより、ライバル猫は戦意を喪失し、メス猫争奪戦から離脱するのだそうです。つまり、自分の遺伝子を残すために、戦略的に同性愛行動を行っているわけですよね。
生活環境のストレスから、同性愛行動をとることも
でもこれらはあくまでも「同性愛行動」であって、私たちがイメージする「(4)先天的な好み」とは明らかに違うような…。とはいえ、猫に気持ちを聞いてみることはできないので、「同性愛行動」から分析するしかないわけですが。
ちなみに飼い猫の場合、「生活環境になんらかのストレスがあり、それが同性愛行動となってあらわれる」場合も考えられるそう。「おっさんずラブみたいー」とほのぼの眺めているだけでなく、生活環境を見直してみる必要もあるかもしれません。
文/桑原恵美子(PETomorrow編集部)
参考資料/「ねこの秘密」(山根明弘著・文藝春秋)
構成/inox.