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小・中学校や保育園、幼稚園などで行われる運動会は、子どもたちの成長が感じられる行事です。以前は秋に行われることが多かった運動会ですが、近年では開催時期はまちまちになってきています。春に開催されるケースが増えた理由について探ってみましょう。
運動会の成り立ちと開催時期
1966年に国民の休日として制定された『体育の日』は、当初は10月10日に設定されていました。2000年のハッピーマンデー制度適用に伴って、10月の第2月曜日に変更されたのです。そして20年からは、その名称を『スポーツの日』と改正されました。
『体育の日=秋』であり、体育の代表とも言える運動会を秋の行事と考える人はたくさんいるでしょう。まずは、運動会の歴史から見てみます。
意外と知らない「体育の日」の由来と2020年から「スポーツの日」になったワケ
運動会の始まりは明治
日本人が近代スポーツに触れ始めたのは、明治時代のことです。近代化を目指して政府が設置した学校で、教師として招かれた欧米人によって指導されたことがきっかけです。
東京・築地に創設された海軍兵学寮には、英国海軍顧問団のアーチボルド・ダグラス中佐が赴任していました。中佐は馬術を教えていましたが、1873(明治6)年に陸上種目を競う『競闘遊戯会』を実施したのです。これが、日本における運動会の原型だと言われています。
同時期に、虎ノ門にあった東京大学工学部の前身・工部省工学寮においても、スコットランド人技師の指導でクリケットやベースボールなどが行われたという記録があります。外国人に劣らない体格を求めていた明治政府は、欧米に由来する競技の導入に積極的でした。そして、これらの競技会が運動会の基礎となったのです。
秋開催の定着は東京オリンピック以降
運動会が始まった明治初頭は、その開催時期は地域や学校によってまちまちでした。運動会が秋の行事として根付いていった理由は、農業の閑散期であることが大きな理由だと言われています。
農作業においては、子どもも貴重な労働力でした。そのため、秋の収穫が一段落した時期に運動会を実施する学校が増えたのです。
また、1964年の東京オリンピックが秋に開催されたことも、運動会を秋に行う風潮に拍車をかけました。かつて体育の日だった10月10日は、東京オリンピックの開会式の日でもあります。
年2回開催されていた時代も
1年に1回と思いがちな運動会ですが、かつては年に2回開催されていたこともありました。春と秋でそれぞれ運動会を行っていたのです。
その際、秋に開催される運動会の方が規模的に大きい傾向があったとも言われています。『大運動会』という言い方があるのは、二つの運動会を比較したことに由来します。
1年に1回となった背景には、時代とともに通常授業日数の確保が大切になったことがあります。さらに、1992年に導入された学校週5日制によって、授業以外の行事に多くの時間を割くことがより難しくなるなど、教育過程の変遷が影響しています。
運動会の時期は春と秋どちらが多い?
秋開催が圧倒的に多かった時代を経て、現在では春か秋のどちらかで運動会が行われています。どちらの時期に行うかは、学校や地域によって考え方が異なります。
各学校や地域では、さまざまな要素を検討して時期を選定しているのです。最近では、春と秋のどちらが多いのでしょうか。
平成以降は春開催が増加
開催時期の多くを秋が占めていた時代から、元号が平成に変わった頃を境に、運動会は春に開催されることが多くなりました。主な理由は、行事が集中するのを避け、できるだけ授業時間を確保しようとするためです。
また、中学受験を目指す家庭が増えた都心部で、「秋の開催は見直してほしい」と保護者からの要望が強まったことも要因の一つだという指摘もあります。10月は受験勉強の追い込み時期ととらえる家庭が多くあり、勉強に身を入れさせたい保護者の思いのほか、けがなどが受験に大きく響くことを危惧した意見です。
地域差も大きい
2019年5月25日付の毎日新聞では、『運動会の開催時期』に関する記事を掲載しています。その内容は、小学校の運動会が春と秋どちらに多く行われているのかについて、大同大学の渡辺慎一教授と名城大学の石井仁教授が合同で調査したものです。
同記事では、13~15年の全国の調査結果を見ると、「7月以前の「春」開催が54.3%、8月以降の「秋」開催が45.7%」でした。
ただし、都道府県別では、地域差が大きく現れるとも報じています。北海道・青森・岩手・宮城・秋田・福島・新潟では、春に開催する学校の割合が90%を超えており、反対に群馬・山梨・滋賀・愛媛・宮崎・鹿児島・沖縄では、90%以上が秋開催だったです。
※毎日新聞「「運動会」といえば…「春」それとも「秋」 地域差くっきり」(2019年5月25日付)より引用
秋に運動会を行うメリットとデメリット
春開催・秋開催には、それぞれメリット・デメリットがあります。秋開催からそれらを考えてみましょう。
メリットはクラスの団結力の高まり
文部科学省が制定する学習指導要領において、運動会の目的は『協力・調和・連帯感・団結力などを養う点にある』と定められています。
クラスを編成したての春は、児童・生徒同士の調和や連帯感は未発達です。それは、年齢が低いほどに当てはまります。クラスメイトと一定の時間を過ごし、ある程度の関係性が築かれた秋に運動会を開催する方が、連帯感や団結力をより醸成できるでしょう。
デメリットは台風のリスク
日本は台風の上陸が多い国で、その発生件数は夏から秋にかけて増加します。運動会を秋に予定すると、台風のリスクと常に向き合わなければいけません。延期や中止という可能性も考えておく必要があります。
台風でなくても、日本の秋の天候はとても不安定です。多くの子どもたちは、運動会を楽しみにしているため、悪天候で中止になってしまうことは避けたいものです。
春に運動会が増えた理由
『スポーツの秋』という言葉があるように、運動会は秋がふさわしいと考える人もいます。しかし春という季節を選択するのには、それなりの根拠があるのです。その理由について見てみることにします。
熱中症対策が大きな要因
春に運動会を行うようになった大きな理由として、『熱中症対策』が挙げられます。地球温暖化に伴って、近年の日本の夏の暑さと残暑の厳しさは、身体にとって危険とも言えるレベルです。熱中症の患者数も、年々増加の一途をたどっています。
熱中症に関しては、湿度が高く残暑が厳しい9~10月に比べて、春に運動会を実施することでリスクを低下させられます。児童・生徒の安全は何よりも優先されるべきで、安全な運動会の開催への配慮は不可欠です。
春でも熱中症対策は重要
春開催とはいえ、十分な熱中症対策をとることが重要です。夏場ほどの暑さがなくても、気を抜かないようにしましょう。
熱中症を引き起こす主な条件は三つで、高温・多湿・無風です。春でも、30度を超える気温になることは十分に考えられます。また、高い湿度では、28度で熱中症を引き起こすケースもあるので、万全な対策を心がけましょう。
秋は他のイベントが多い
秋は、『スポーツの秋』以外にも『芸術の秋』『食欲の秋』などと言われます。それだけに、秋にはさまざまなイベントが目白押しです。
学校においても合唱や合奏などの各種発表会をはじめ、文化祭や学芸会などが行われます。そこに運動会が加わることを考えると、秋がいかに忙しい時期か分かるでしょう。
数多くのイベントの合間を縫って開催するよりも、春に運動会をすることで年間行事のバランスを取るという意味合いもあるのです。
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構成/編集部