会議のアイデア出しには雑談が〝特効薬〟
私はこれまで529社の働き方改革を支援してきました。その会社の従業員16万人を調査した結果、1週間の稼働時間の43%が社内会議に費やされていることがわかりました。しかし、会議の満足度は低く、社員の73%が課題を感じています。今回は、雑談を使って会議の量と質を改善する方法を紹介します。
雑談は初対面の顧客と対応する時、距離感を縮める効果があるとイメージされるかもしれません。しかし、通常の会議でも有効活用ができます。本題に入る前に仕事とは関係のない話題で盛り上がったり、笑顔を見せたりすることは参加者の「心理的安全性」を確保するうえで効果的です。「心理的安定性」が確保されると、参加者同士の会話が増え、リモートワークでの孤立化も避けられます。
また雑談で会議時間が短くなる効果も明らかになっています。17社の会議を8000時間以上録画して分析した結果、多くの企業ではアイデア出しと意思決定が同時に行なわれている状態で、アウトプットが出ていないことがわかりました。アイデア出しと意思決定の会議を分け、冒頭2分の雑談を強制した場合、アイデアがたくさん出て、会議が時間どおりに終わる確率は1.6倍に増えたのです。
心理的安定性が確保される効果的な雑談とは
では実際に、どんな内容の雑談をするのが効果的かというと、次のようなことが挙げられます。
【1】ポジティブな時事ニュース
話題のおもしろい動画やテレビ番組など、参加者全員が知っているポジティブな話題を振ると、盛り上がる可能性がアップします。
【2】食べ物の話
近くにおいしいレストランが開店した話など、食べ物の話をされて不快に思う人は少ないもの。誰しも食事はしますから、共通点を見つけやすいことも特徴的です。
【3】見えるものを褒める
雑談が得意な人は、全員の視界に入っているものに対して、本心から感じたことを口に出して褒めます。例えば、おしゃれなボールペンだと褒めたり、変わったばかりの髪形を「似合う」と伝えたりという具合です。雑談で何を話すべきか迷ったら、目に入ってきたモノやコトの話をしましょう。
雑談を交えることで成約率のアップにつながる
こういった雑談は〝アイスブレーク〟ともいわれ、相手の心と頭を柔らかくして、自己開示しやすい空気を作ります。顧客との対応では、自己開示によって信用が高まり、関係構築がしやすくなるのです。雑談によって空気を温めることができれば、顧客から本音の意見や率直な評価を聞くこともできます。相手の悩みや課題を把握できれば、それに対応する提案がしやすくなり、成約率の向上につながるでしょう。
一方、社内では会議でしっかりとアウトプットを出し、しかも時間どおりに終えるため、雑談によって参加者の「心理的安全性」を担保することは効果があります。また、会議だけではなく資料作成においても、雑談によっていいインパクト=効果が出ます。過剰な気遣いは不要な作業を増やし時間を奪います。まずお互いに腹を割った状態を作ったほうが、無駄なことをしなくてすみ、時間を有効に活用できるのです。
雑談力を鍛えることがスキルアップの大きなカギ
ある時、小売業のクライアント企業でトップの成績を残すセールス担当にヒアリングしたところ、雑談力を鍛えていると話してくれました。顧客との距離感を縮めるために、池上彰氏が話すような雑学や豆知識をメモに取り、顧客訪問の冒頭で使うそうです。
「仕事とは関係ない、ちょっとした話をすることで、相手は心の扉を開いてくれます」
満面の笑みでそう語ってくれたことを今でも鮮明に覚えています。笑顔になると自分自身も肩の力が抜けると言っていました。
我が社のクライアント企業の優秀社員は、第一印象をとても大切にします。仕事の機会をつかむためには、第一印象が重要だと理解しているからです。彼らのようなコミュニケーション能力を持つには時間がかかるかもしれません。しかし、笑顔を心がけることは、すぐに始められます。この雑談と笑顔で、オンラインでの商談がうまく進んだケースが続出しています。ぜひ実践してみてください。
12社1954名とともに取り組んだ行動実験の結果、冒頭2分で雑談をすること強制したグループAは、雑談なく会議を進めたグループBに比べて、発言者数が1.8倍に。出されたアイデアや提案の数は2.3倍に増えた。
越川慎司/全員が週休3日のクロスリバー社長。700名全員がリモートワークのキャスター執行役員。これまで529社の働き方改革を支援。新著『ビジネスチャット時短革命~メールは時間泥棒』(インプレス)が好評発売中。