なぜ、理系脳に注目が集まっているのか。その理由について、ビッグデータ、データサイエンティスト、理系学生の就職など、時代のキーワードとともに読み解こう。
【理由1】ビッグデータ活用戦国時代に突入
ビッグデータという言葉が注目され始めたのは、2010年代。今やその応用が進み、メディアや情報サービスだけでなく、製造、流通・小売り、金融など多岐にわたる分野でビッグデータが利用されている。
そうした流れの中、データサイエンティストという新しい職種が台頭。「日本のデータサイエンティストには、発祥の米国と異なりビッグデータの処理や分析だけでなく、その材料をもとにビジネス上の問題点や課題を見つけ出し、解決策を提案する能力が求められています」とデータサイエンティスト協会の草野隆史代表理事は指摘する。そのため、同協会では基礎となるデータサイエンス力、データエンジニアリング力に加えて、ビジネス力を必須スキルと定義し、その重要性を啓発している。
実際の現場ではどうか。各種データを活用してコンサルティングを行なう山本尚広さん(株式会社MIT)も、「クライアントの社内データを細かく分解し、さらにビッグデータなどの外部データを考え合わせ、事業に必要な情報を見いだし、どんな新提案をするかが問われています」と語る。
今や、ビッグデータの活用は当たり前。論理的なアプローチによる膨大なデータの分析、世の中の流れを読む力(推理力)など、理系脳の活躍の場が広がっているのだ。
G検定(日本ディープラーニング協会)の受験者数と合格者数
ジェネラリスト向けのG検定受験者(合格者)は増加中。取引先とのやりとりに必要なスキル、あるいは転職のための手段として学ぶ社会人が多い。
多くの受講者が真剣に学ぶ「データサイエンティスト養成講座」。データサイエンティスト協会では、様々なセミナー・講座を用意。
【理由2】理系学生は就職が有利!
従来の理系学生は、教授推薦による研究職への就職が一般的だった。しかし、今は理系脳を持つ人材(理系学生)の価値が高まり、幅広い分野の企業から望まれている。例えば製薬会社。「営業職といえば、かつては商学部、経済学部など文系学部出身が大半を占めていたが、今は薬学部出身が多いですね」と早田雅彦さん(製薬メーカー)。慶應義塾大学理工学部の青木義満教授も「教授推薦を望む学生もいるが、学生自身が主体的に就職活動をして、研究職や大手メーカーだけでなく、インターネット関連会社やマスコミ、サービス・インフラ業界など、様々な分野の企業に就職を決めている」と語る。
今の理系学生の就職先には3つのパターンがある。
(1)研究職や開発職など、専門性を生かす仕事
(2)生産管理、品質管理など、理系の知識や考え方が生かせる仕事
(3)金融、コンサルティング、営業など文系理系の制限がない仕事
このうち、注目したいのは(3)である。理系学生の間では「文系就職」と呼ばれているが、数値やデータ分析に強く、論理的に考えられる理系脳を積極的に採用したいと考える企業は多いという。なぜなら、現在、ほとんどの企業にデータや数値を扱う部署や職種があるためだ。学生時代の実験を通して、仮説・検証の癖がついている点も、有利に働くようだ。
大手IT企業に多い理系出身の経営トップ
●三菱UFJフィナンシャル・グループ 亀澤宏規社長 東京大学大学院 理学系修士課程
●ソースネクスト 松田憲幸社長 大阪府立大学 工学部
●ナビタイムジャパン 大西啓介社長 上智大学大学院 理工学研究科電気電子工学博士後期課程
●C Channel 森川 亮社長 筑波大学第3学群情報学類情報工学専攻
●サイボウズ 青野慶久社長 大阪大学工学部情報システム工学科
●エニグモ 須田将啓社長 慶應義塾大学大学院 理工学研究科計算機科学専攻修士課程
●安楽亭 柳 先社長 早稲田大学 理工学術院
●クックパッド 佐野陽光執行役員 慶應義塾大学 環境情報学部
●スマートニュース 鈴木 健社長 慶應義塾大学 理工学部物理学科
●ビズリーチ 南 壮一郎社長 米タフツ大学 数量経済学部
●グノシー 竹谷祐哉社長 早稲田大学創造理工学部経営システム工学科
ほか多数
取材・文/ひだいますみ