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年齢を重ねるほど高まる情熱!神奈川2部で奮闘する41歳の元サッカー日本代表FW永井雄一郎

2020.06.12

 Jリーグ再開の6月27日が近づき、ようやく日本サッカー界も動き始めている。J3より下のカテゴリーに所属するクラブも実戦再開に向け、再スタートを切ったところだ。
 神奈川県厚木市に本拠地を置く同県リーグ2部(J1から数えて8部相当)の「はやぶさイレブン」で今季からプレーする元日本代表FW永井雄一郎も、6月からようやくピッチでボールを蹴れるようになったという。

「新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が出ていた時期は自宅待機をしなければいけなかったので、自宅で体幹強化などをしながら近所の公園に走りに行ってました。歳も歳なんで休むと走れなくなってしまう(苦笑)。『練習再開後にムリしてケガをしてしまったら意味ない』と監督の阿部敏之(鹿島アントラーズや浦和レッズなどでプレーした元選手)さんにも言われていたので、できることは取り組みましたね。
 今月から練習が始まり、2グループ制で1時間ずつ動いています。ウチのチームは学生や社会人が中心で、プロ契約しているのは阿部監督と永里源気、僕の元Jリーガー3人だけ。練習時間も夜なんです。それでも本拠地・厚木市荻野運動公園のトラックを走ったり、茅ケ崎にあるフットサル場などでボールを蹴ったりできている。僕が長くいた浦和レッズとか清水エスパルスのような環境ではないけど、コロナ禍の今、こうやって練習できるだけでも有難いです」と彼はサッカーのある日常への感謝を改めて口にしていた。

切れ味鋭いドリブル突破と得点力でワールドユース準優勝に貢献

 永井雄一郎と言えば、99年ワールドユース(現U-20ワールドカップ=ナイジェリア)準優勝を果たした「黄金世代」の一員として名を馳せた選手である。切れ味鋭いドリブル突破と得点力を武器に、小野伸二(琉球)や高原直泰(沖縄SV)、遠藤保仁(G大阪)らと世界2位に輝いた際の彼の活躍を知る人も多いだろう。小野とは浦和でもともにプレーし、2006年Jリーグ初制覇も一緒に経験している。翌2007年にはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)制覇。その決勝・セパハン戦で先制点をゲットし、大会MVPにも輝くなど、選手として大きな成功をつかんだ。

「僕はハングリーな気持ちを持ち続けて40代までやってきました。原点はやはり浦和時代。高2の時に練習参加してプロの先輩たちのレベルを目の当たりにして打ちのめされ、無力さを嫌と言うほど味わったんです。1学年下の伸二が入ってきた時も天才的にうまかった。18歳で98年フランスワールドカップに出たんだから当然だけど、とにかくケタ外れでした。彼らと同じ土俵で戦おうと思うなら成長するしかない。自分からどんどんアクションを起こしてうまくなろうと貪欲にサッカーと向き合ったんです」

 2009年にはJ1・清水、2012年には当時J2の横浜FCへ移籍。30代半ばを迎えてもトップレベルで戦える状態は維持していた。が、2013年に横浜FCを契約満了になってからは下部リーグを転々とし始める。2014年はナイジェリアでともに戦った黄金世代の盟友・辻本茂輝(現J3・鹿児島コーチ)が監督を務める関西リーグ1部のアルテリーヴォ和歌山に新天地を求めた。
 J3から5部相当の地域リーグへ赴くのは勇気のいることだ。が、18歳まで過ごした三菱養和の1つ上の先輩・西村卓朗氏(現J2・水戸GM)の「いろんなチームを見ておくのは長いサッカー人生ですごく価値のあること」という言葉をバネに飛び込んだ。専用グランドやクラブハウスがある浦和や清水とは異なり、地域リーグは練習場を転々とするのが当たり前。ケア体制も整っておらず、真夏も炎天下の日中に試合をすることも多い。選手も自分と辻本監督以外は全員アマチュア。過酷な環境下で懸命に仕事とサッカーを両立させている仲間を見て、考えさせられることも多かった。結局、FC大阪と奈良クラブ(ともに現在は4部相当のJFL)の壁に阻まれ、JFL昇格を果たせなかったが、原点を見つめ直すいい機会になったという。

課題を改善し続けないと生き残れない

 翌2015年から3年間プレーしたJ2・ザスパクサツ群馬は、またも黄金世代のつながりが生きた。当時ヘッドコーチだった盟友・氏家英行から「ウチは何か足りなくてここにいる選手が多いから、36歳の永井君の経験を伝えてほしい」と誘われたのだ。「再びJリーグに戻りたい」と考えていた彼はできる限りの努力をしようと移籍を決断した。
「若手からは『浦和時代はどんな練習をしてましたか?』『ACL制覇の時はどんな感じでした?』といった質問を受けることが多かったけど、その中で一番感じたのは、彼らの自己評価が多すぎること。いろんなことを気にしすぎるし、自分なりの評価も高いのかなと感じます。サッカー選手をジャッジするのは監督やファンの方々であって自分じゃない。いくら自己評価が高くても、試合に出られないなら理由があるはずなのに、『監督に認められない』とか『試合に出してもらえない』とか人のせいにしてしまう。そんなスタンスでは成長しないと感じたし、若い選手にも話しました。生存競争の厳しいこの世界ではつねに自分に矢印を向け、課題を改善し続けないと生き残れない。僕自身も改めてそう痛感させられましたね」

 実際、この時期の群馬からは江坂任(柏)のような成功者も出た。彼は永井と同じ2015年に群馬入りし、1年で当時J1の大宮アルディージャに引き抜かれた。そして2年後には柏で10番を与えられる選手になった。コロナ禍に見舞われた今季J1でも開幕・コンサドーレ札幌戦で2得点をマーク。ブレイクの予感を漂わせている。そういう成功例をぜひ参考にしてほしいと永井は言う。
「僕自身、若い頃はいつも課題ばかり考えていた。点を取ったこともすぐ忘れて、『もっとやらないと』と貪欲に突き進んでいた気がします。江坂を見て、当時の自分を思い出した部分はありましたね。
 年齢を重ねた今、思うのは、『過去の自分との戦い』を強いられる大変さですね。周りからも『20歳くらいの永井だったらもっとドリブルで突破できていた』とか言われますけど、年齢に応じたプレーというのはある。僕は和歌山でも群馬でもFWをやることが多かったけど、昔みたいにグイグイ前へ行くだけじゃなく、ボールを収めたり、周りを動かしたりといろんな役割を担っていたつもりです。そうやってチーム状態や組み合わせによって変化していけるのが本物のいい選手。昔の自分と比較することなく、その時の自分のベストを出していくことが重要なんです」

 その思いは2018年に神奈川県1部のFIFTY CLUB(フィフティクラブ)へ赴き、今季から同2部のはやぶさイレブンに辿り着いてからも変わらない。20年以上の長いプロキャリアを経て、手にした多様なサッカー観、視野の広さ、柔軟性や合理性を武器に、この先もまだピッチに立ち続けたいというのが41歳になった永井の偽らざる本音だ。
「コロナの影響で神奈川県リーグ2部は9月開幕にズレ込む見通しです。1グループ・チームで1回戦総当たり制になると言われているので、その場合はリーグ戦は6試合しかない。そこで1位になれば、残り3グループの最上位チームとトーナメント方式で戦って2位に入れば1部に昇格できます。超短期決戦で1つ1つの試合の重要度が増す分、いい準備をする必要がある。僕自身は2年契約をもらってますけど、結果にこだわってやるしかないと感じています。
 試合数が少ないせいか、今のチームは群馬時代の給料の半分(苦笑)。プロ選手とはいえ、それだけでは生活できません。コロナでJが中断する前は解説の仕事もさせてもらっていたんですが、それも今後はどうなるか分かりません。
 昨年まで在籍していたフィフティクラブの時は小学校高学年と中学年に週1回ペースで教える仕事もあって、子供たちと向き合いましたけど、指導に携わりたい気持ちも強まりました。僕は華やかに見られがちだけど、中学3年の時は東京選抜から落とされるくらいの大したことない選手だった。だからこそ、育成年代の指導の重要性が身に染みています。引退後のことは明確には決まっていませんが、解説や指導のことも視野に入れつつ、今から新たな基盤を築いていけるようにしたいですね」

 J1王者から8部リーグまで幅広い環境でプレーし、浮き沈みを味わってきた永井の経験値は非常に大きい。4~5月にはコロナ禍で苦しむクラブの地元・厚木の飲食店や青果業者を応援するため「ドライブスルー八百屋」「#*厚木エール飯」などの応援活動にも参加。社会とのつながりも強めた。そんな体験も現役を続けるうえでの大きな励みになったという。
「年齢を重ねれば重ねるほどサッカーへの情熱が強くなる」という40代のベテランFWが今、願うのは、サッカーを通して多くの人々に勇気や元気を届けること。それを第一に考え、百戦錬磨の40代のベテランFWは、ガムシャラにゴールへと突き進んでいく。

取材・文/元川悦子

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