希少性を考慮すると、もともとの価値は金より高いプラチナですが、5月28日午前の東京商品取引所での2021年4月物は金が1グラム5,943円、プラチナは1グラム2,873円と、大幅に金価格が上回っています。この逆転現象はいつまで続くのか、割安とみて買いなのでしょうか?
貴金属投資の代表格『金』と『白金(プラチナ)』の値動きの違い
貴金属投資は、実際にある資源に投資しそれ自体に価値があるため、株式のように会社など倒産などにより価値がゼロになることはありません。実際に使われるための実需もあり、運用先の一つとして買われることもあります。個人が売買する際には、金やプラチナの先物価格が参考にされています。実際に工業製品として使う実需の価格確定や価格の上下リスクを回避するため、価格を予約できる先物取引が使われています。また、運用として買う投資家は、実際に使わない大量の金や銀を持つことになると困るため、反対売買によって決済ができる先物取引を使います。このように、先物価格は金やプラチナの取引価格となっているいため、個人が売買するときもこの価格を参考にして取引されます。
■プラチナ価格(東京商品取引所)
■金価格(東京商品取引所)
金、プラチナは東京商品取引所で円建てで取引されています。上記は東京商品取引所での価格になります。ただ、主に、金価格相場を見るときの指標、金に連動する投資信託の参考指標などはNY金です。NY金はドル建てで取引されているため、ドルの為替変動の影響もあります。
金とプラチナは同じ貴金属でジュエリーとして愛されていますが、値動きは大きく異なります。
プラチナ価格は新型ウィルス感染症により世界の株式市場、原油価格が大きく下落したのと同様に、3月で大きく下落し少し値が戻ってきましたが、2020年1月の高値より20%安い価格にあります。
一方、金価格も3月で少し下がったものの、2020年1月の高値を超えて上がっています。
同じ貴金属でなぜこんなに値動きが違うのか?
同じ貴金属でジュエリーとして使われる金とプラチナが、なぜこんなに違う値動きをするのか、それは使用用途などの違いによるものです。
金は、これまで採掘された総量は約18万トンでプール4杯分しかありません。現在年間3,000トンペースで採掘されていますが、地球に残されている金は約5万トン程度で、単純計算でも16年前後で枯渇していまいます。また、大部分は採掘困難となっており、近い将来採掘ができなり、残り16年がさらに短くなる可能性もあります。
ジュエリーとして使われる金はインドや中国で特に好まれ、ジュエリー需要は、インドと中国の景気に左右されます。
一方、ジュエリーとしてだけではなく金には貨幣の代替という目的で保有されることもあります。古くは金自体が貨幣として使用されており、紙幣になっても紙幣は金と交換できる券として発行され(金本位制)、金と交換できる範囲内で発行されていました。その後、世界恐慌により金本位制は廃止されますが、今でも金はお金の代わりになるものとして考えられています。
そして、代替通貨として、新興国では、自国でハイパーインフレが起きるなどで自国通貨が暴落したときのため、保有している金を売却して自国通貨の買いを行う為替介入して、自国通貨の為替を安定させ、危機時になんらかの措置を取ることが可能となります。
また、新興国に限らず、各国中央銀行は、自国通貨以外の外貨準備をしていますが、基軸通貨であるドル建の国債などで準備している部分が大きいですが、米ドルでも安定しているとは限らないことから、外貨準備としての金の保有量が伸びています。
したがって、中央銀行による準備金としての安定的な保有、中国をはじめとする新興国が金の保有を増やしていることから、価格は安定しており、金融危機時にも大きく値下がりせず、逆に普遍的価値のある安全資産として値上がりすることもあります。
プラチナは、ジュエリーとしての需要はありますが、約6割が自動車などの工業分野が占めています。プラチナ価格が自動車生産の増減と結びつきます。新型コロナウィルス感染症により、自動車生産の一時停止、需要の急減などで値下がりしました。
そして、プラチナは、産出国として南アフリカが73%も占めていることから、南アフリカ共和国の政治経済の影響を受けやすくなっています。金が、中国15%・オーストラリア9%・ロシア9%・米国7%・ペルー5%のように産出国に多様性があるのとは大きく異なります。
投資方法は?
プラチナへの個人で投資する方法として、「プラチナ地金」「コイン」「積立」「ETF」などがあります。
■地金・コイン
地金は、延べ棒、バーともいう。買付時に消費税がかかる(売却時には消費税を受け取れる)。
譲渡所得として課税され、50万円の特別控除があり、所有期間が5年超だとさらに税制優遇される。
ただ、盗難リスク、災害リスクがあり、回避するには預けるか、金庫が必要。
<譲渡所得>
・短期
売却価額-(取得価額+譲渡費用)-特別控除50万円
・長期
{売却価額-(取得価額+譲渡費用)-特別控除50万円}×1/2
■積立
積立で買う方式で、積み立ててで一定のg数になると、実物の延べ棒(インゴット)などに交換できる貴金属販売会社もある。
積立により一定金額で購入することにより、ドルコスト平均法による平均買付単価の引き下げができる。価格が下がっているときはたくさん買い、価格が上がっているときは少なく買うことになるため、高値掴みを防げます。
交換するには、交換手数料や消費税がかかる。
売却時は、地金同様譲渡所得として課税される。
■ETF
プラチナ価格に連動するETFに投資する。証券取引所で株式のように売買でき、特定口座、(一般)NISA口座で取引できる。特定口座源泉徴収ありなら、利益に対して一律20.315%の税金が引かれ確定申告不要になる。さらに、(一般)NISA口座での購入なら、利益が非課税になる。
・純プラチナ上場投資信託(1541)
東京商品取引所先物価格の先物価格を現在価格にした理論値
・NEXT FUNDS 日経・東商取白金指数連動型上場投資信託(1682)
東京商品取引所先物価格の取引量の多い限月の価格で算出(期限が遠い先物価格が一番取引量が多い)。近い限月から遠い限月へロールオーバーを繰り返すため(近い限月は価格が低く遠い限月の方が価格が高い傾向にある)、その際に損失が出るため長期投資には向かない。
値下がりしているプラチナは買い?
プラチナは、有史以来の生産量は約5,100トンと金の約17万トンと比べてもその30分の1しか生産されておらず、さらに精錬が金より難しいため精錬コストも高く、希少価値が金よりも高いといえます。本来金よりも希少価値の高いプラチナは、過去金価格を上回っていることも多かったのですが、昨今は金価格が上回っている状態が続いています。
プラチナの希少性が見直される、自動車生産、燃料電池車の増加があれば、プラチナ価格が上昇する要因となります。一方で、燃料電池車に多く使われるプラチナの代替品の実用化、自動車生産の回復が遅れることがあればプラチナ価格の戻りは鈍化するでしょう。
文/大堀貴子
フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。