昔は、田んぼや用水路、小川などいたるところで見られたメダカ。網を持って出かけ、メダカをすくって飼ったことのある人もいるのでは。今は、こうした場所の多くが失われ、野生のメダカを目にすることもすっかり少なくなった。そんな郷愁を昇華させてくれる「大人のメダカ趣味」はいかがだろう。
バケツでも飼えて、ビオトープにもぴったり
メダカは、目が上のほうにあることから、漢字で書けば目高。大きな目と、ちょろちょろ泳ぐ姿がかわいらしく、観賞魚として人気がある。観賞魚は水槽で飼うのが一般的だが、メダカは比較的丈夫なので、水をためられる容器なら飼育可能。スイレン鉢や火鉢などにも似合い、水草や水生植物を配したビオトープ(多様な生物の生息空間)の住人として迎えても楽しい。
また、衣装ケースや発泡スチロールの箱や、プラ舟(トロ舟とも呼ぶ。左官職人がコンクリートなどの材料を入れる容器)を水槽代わりに使ってもラフな感じがまたよく、まるで金魚すくいのような風情だ。環境とつがいの相性が良好であれば、いつの間にか卵が産まれるのもおもしろい。
ペット、釣り、肥料から食用まで!?
観賞魚としてのメダカの歴史は古く、哲学者の貝原益軒(かいばらえきけん)の『大和本草(やまとほんぞう)』(1709年)に、「目高」の記述がある。江戸時代はタナゴ釣りが粋な趣味として知られていたが、メダカも釣りの対象魚であったらしい。そのほか、人間の食料や植物の肥料に用いられたり、目が大きいことから「眼病に効く」という迷信が生まれ、薬として丸飲みする風習まであったとか。
最近の観賞魚趣味の世界では、透明度の高い水槽が誕生し、水草と淡水魚を一緒に楽しむアクアリウムが好まれている。つまり、これは主に「横から見る」水槽レイアウトだが、メダカの場合は屋外の水鉢などに入れ「上から見る」のにも向く。石や流木などと組み合わせたりして自分好みの世界観が表現できる。
園長、館長などの生き物のプロも熱中
筆者は動物園や水族館の取材に行く機会が多く、「仕事でさまざまな生物を飼育したプロは、メダカ趣味に回帰する」という現象を確認している。たとえば、愛知県蒲郡市の「竹島水族館」の小林龍二館長は、プライベートではよメダカ愛好家として知られている。元上野動物園園長の小宮輝之さんも自宅ではメダカを愛好しており、筆者宅では小宮さんからもらったメダカが元気に水槽を泳いでいる。
生き物のプロがメダカを愛好するのは、愛らしいという理由以外に、狭い飼育環境でも何代にもわたり飼えること、卵も成魚も透明度が高く観察に向くことなどが生き物ツウ好みだ。
さらに、メダカは突然変異が起きやすく、かけあわせにより多様な品種が作れるという特徴がある。繁殖を重ね、自分だけのオリジナル品種を作るといったディープな趣味もあるほどだ。大学の実験室でも、メダカは実験動物として重宝されているという話。
飼って、見て…時間が無限に溶ける「おうちの友」
ステイホームの時代は、没頭できる趣味をもつ人が強い。さほどお金をかけず、時間が無限に溶けていくメダカ飼育はうってつけである。楽天市場などに店舗をもつ「チャーム」は、生体を含めあらゆる飼育グッズを扱う。「生き物の通販なんて」と抵抗を感じるかもしれないが、死着等のトラブルはあまり聞かず評判は上々。外出自粛派は、こうした通販を利用するのもいいだろう。
【水槽で「横見レイアウト」を組む】
雑貨店で見つけたアクリルボックスを使用。底砂やソイルを敷き、水草と流木をセットして完成。日本画の技法にならって、左に背の高い流木、右に水草を配置したら、水墨画のような風情になった。ちゃぶ台や和室に似合う。ガラスより軽いが、水槽ではないので強度などは要チェック。
【水槽内で滝を流す】
水槽内に水流を作る「アクアテラリウム用分水ポンプ」を使用。機械を流木で隠し、水が流木の間から流れるように固定してから、水槽にセット。せせらぎ音と水の流れを耳と目で楽しめる、動きのある水槽の完成。流木はそのままでは水に沈まず、アクも出るので、不要になった鍋で煮込むとよい(数日間水に浸ける、重りをつけて沈めるなどの方法もある)。無心になって流木を煮込むのも、ちょっとした瞑想のような癒やしの時間になる。
【スイレン鉢で「上見レイアウトを組む】
スイレン鉢や火鉢は陶器製なので、見栄えと質感はよいが重いという難点が。そこで、プラスチック製の鉢をおすすめしたい。底砂を敷き、水草や流木を自由にレイアウトすればOK。日差しよけとして木の板やすだれをかけると、目にも涼やか。
【繁殖させて稚魚をめでる】
飼育環境が良好だと卵が産まれることがあるので、見つけたら別の容器へ。卵は、「日数×水温が250℃」になったらふ化するといわれている。たとえば、25℃の水温なら10日でふ化するということだ(理論上は)。稚魚は針子(はりこ)と呼ばれる通り、針のように小さいのに目だけ目立ってとてもかわいい。
【観察を楽しむ】
さまざまな品種のメダカを混ぜ飼いしたり、個体同士の関係性を見たりと観察のネタが尽きないのもいいところ。えさや底砂の色など、環境に合わせて体色が微妙に変わるのもおもしろい。春から夏にかけてが繁殖期で、オスは全体的に鮮やかになる。また、室内飼いのメダカを屋外飼いにすると体色が変わる(紫外線の影響という説あり)。日差しを浴びてうろこがキラキラするのも実に優美である。
取材・文/木村悦子