急成長を続け、早くも1兆円規模に到達したサブスク市場。家電から自動車、腕時計、飲食、美容まで定額で利用できる時代になった。ライフスタイルだけでなく、消費スタイルまで変えようとしている。
毎月の支出も定額にできる時代がやってくる
サブスクは、音楽や動画配信サービスをきっかけにポピュラーになった。最近では家具、家電、ファッション、飲食、住宅業界などが続々とサブスクを導入。昨年、市場規模が1兆円の大台を突破した。日本サブスクリプションビジネス振興会の執行役員である杉山拓也さん(以下敬称略)は、ヒットの背景にシェアサイクルやシェアリングカーなど、サブスク普及の下地を作ったシェアリングエコノミーのブームがあると分析する。
杉山 「シェアリングブームを機に〝買う消費〟から〝好きな時に好きなだけ利用する消費〟へとライフスタイルは少しずつ変化していきました。これが下地となり、費用体系のひとつの選択肢として、定額型が普及したとみています」
市場に類似サービスが林立することで競争が激化。事業を収益化できず、早々と市場から去るケースも少なくないという。
杉山 「成功するサービスの共通点に、迅速なフィードバックがあります。提供側が顧客と直接やりとりした情報をもとに、サービスの内容を修正し、顧客の不便を早く解消しているのです」
同振興会はサブスクを成功させる3原則を定義。「お得・悩み解決・便利」の頭文字をとり、「ONB(オンブ)」と名づけた。
杉山 「サブスクの場合、お得なだけではユーザーに響きません。ランチのサブスクを提供する『POTLUCK』はメニューをワンコイン化するだけでなく、事前予約制を導入することでランチタイムの行列を解消。さらに都心に提携店を増やすなど、まさにONBでビジネスを軌道に乗せました」
2020年に入っても勢いは衰えず、メンズスキンケアの『バルクオム』のように運営企業がダイレクトに顧客へ商品を届けるBtoDスタイルのビジネスや、大企業の市場参入などがトレンドになっている。そんな中、杉山さんは東急電鉄やJR東日本が実証実験としてサービスを開始した鉄道のサブスクに注目。交通はもちろん、駅ナカのショップやホテルといった自社の資産をまるごと定額化し、利便性を高める動きが活発化すると予測する。
杉山 「直感的に使ってみたくなるサービスとして、趣味嗜好を刺激するニッチなサブスクにも期待しています。すでにロレックスやオメガなどの高級腕時計が定額で利用できる『KARITOKE』などがトレンドに敏感なユーザー層からの間で人気です。これからは〝欲しいけれど置き場に困る〟ロードバイクや楽器などの定額サービスも出てきそうです。給与が一定化しているように、将来的にはサブスクを利用すると支出が一定化する時代がくるかもしれません」
日本サブスクリプションビジネス振興会
杉山拓也さん
大手SIerを経て、アプリマーケティング会社を設立。500以上のアプリマーケティングを支援する。同振興会執行役員。サブスクリプションマガジン編集長。http://subscription-mag.com/
サブスクサービス市場規模の推移
※サービス・健康・教育:スポーツジム、ファッション、美容、飲食店、教育、ソフトウェア、その他のサービス。
※物品購入・レンタル:各種物品や飲食物の定期購入、カーシェア、自動車などの定額利用。
※デジタルコンテンツ:音楽配信、動画配信、電子書籍、デジタルニュースなど。参考:ICT総研調査
サブスク振興会が分析したサブスクの成功事例
TAILORED CAFE
バリスタが抽出するスペシャルティーコーヒーが月額3800円で毎日楽しめる。人数限定で登録初月から1か月間、スペシャルティーコーヒーが無料で飲み放題になるキャンペーンも!
POTLUCK
定額制のテークアウトアプリ。登録されたレストラン数が多く、和洋中をはじめ、多彩なメニューから選ぶことができる。毎日プランなら1食397円、12食プランは1食590円。
subsclife
人気ブランドの家具や、バルミューダなどのキッチン家電を月額数百円から利用可能。リモートワークで需要が伸びているオフィスチェアは、月額1000円以下で使うことができる。
高級腕時計もサブスクの時代へ
月額1万9800円でロレックスやオメガなどの高級腕時計がレンタルできる「KARITOKE」。仕入れが間に合わないほどユーザーが急増している。
子育て世代から圧倒的な支持獲得
月額3340円で子供の成長と月齢に合わせた玩具を隔月で届ける「トイサブ!」。昨年、日本サブスク大賞を受賞。
取材・文/安藤政弘