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SAVE the CRAFT BEER!コロナ禍で苦境に立つクラフトビールの戦略転換

2020.05.26

近年大いに盛り上がってきた日本のクラフトビール界。大手メーカーもクラフトビールメーカーと提携したりコラボしたりして、人気の相乗効果を生み出していた。その右肩上がりのクラフトビールがコロナ禍で冷や水が浴びせられている。

1年以内に日本の醸造所の半数がなくなる?

小規模な醸造所向けに樽のシェアリングサービスや、出荷した樽の追跡管理アプリを提供しているBEST BEER JAPAN(以下BBJ)が独自に行ったアンケート調査の結果が衝撃的だ。

国内のクラフトビール71社に対し、「現状が続く場合、今後破産するおそれはありますか? ある場合、それはいつですか。」という質問に、「90日以内」と答えたのが5.6%、「91日〜180日以内」が12.7%、「181日〜365日以内」が38%。合わせて半数以上が「1年以内に経営が破綻するおそれがある」と答えている。

(提供:Best Beer Japan ピーター・ローゼンバーグ)

一番の痛手は、飲食店向けのビールが売れないことだ。

クラフトビールの醸造所は現在、日本に400ほどあるが、その大多数が従業員10名以下の小さな会社である。家族経営も少なくない。飲食店向けの樽の卸が激減して、貯蔵タンク内のビールが行き場を失っている。最悪廃棄せざるを得ない状況下、醸造所ではさまざまな手を試行中だ。

まず、多くの醸造所がオンラインショップを立ち上げた。しかし、これまで飲食店への卸と、ブルーパブで消費してきた醸造所の多くは、ボトリングの設備や免許を持っていない。そこで急遽、設備を整えたり、瓶詰め工場に委託するなどしているが、これにもお金がかかる。

それでもオンラインショップは必要であるが、BBJ代表のピーター・ローゼンバーグさんは、「クラフトビールのような限られた市場でD2C(Direct to Consumer)が難しいのは、顧客の奪い合いになること」と指摘する。しかも、ボトリングの作業は手間がかかる。ピーターさんの試算によると、ボトリングして出荷するには、樽で出荷する場合の7倍の手間がかかるという。

Best Beer Japan代表のピーター・ローゼンバーグさん。2007年に交換留学生として国際基督教大学へ留学。2010年、UCLA卒業後に再来日。クラフトビールをITで支援しようと2018年に起業。

クラフトビールファンにとっては、これまで現地を訪れることでしか飲めなかった醸造所のビールがオンラインで買える。選択肢の激増ぶりはうれしい驚きだ。だが、醸造所サイドからすれば、今まで店で提供していたビールと同じものを売っているだけでは、膨大なオンラインショップの中に埋もれてしまう。価格競争の波に飲み込まれれば、さらに体力を削ることになる。コロナ前から競争激化が懸念される通販業界である。オンラインショップ新参者の醸造所が、魅力的なサイトと商品をつくり続けるのは容易なことではないだろう。

ストリートに出て新規顧客を得る都市部の醸造所も

醸造所の取り組みをいくつか紹介しよう。

東京豊島区・大塚のNAMACHAんブルーイングは、区内に3店あるクラフトビールと燻製料理の店スモークビアファクトリーでビールを提供してきたが、4月に入って通常の店内営業が難しくなった。

「今まで店内飲食だけでしたが、自粛開始後にまず始めたのが自家製ビールと燻製料理のテイクアウトです。ビールは炭酸対応型ペットボトル、グラウラー、プラカップ、瓶ビールで対応しているため、今までお店に来られなかった方も気軽にビールを購入いただけるようになり、地元での認知度が上がりました」と、店長の米澤さんは語る。

たしかに夕方から開店する飲み屋には、一見さんは入りにくいものがある。昼間、通りに面してテイクアウトしていれば、これまでお店に入ったことのなかった人でも気軽にビールを手に取れる。クラフトビールを知るいい機会になる。

醸造長であり店長でもあるNAMACHAん自らテイクアウトの店頭に立つ。

オンラインショップも始めた。

「瓶ビールと燻製料理をいっしょにお届けできるのがポイントです。燻製料理は食肉製品製造業、乳製品製造業など、各種製造免許を取得し、長期保存できるよう真空パックで販売しています。これにより当店のコンセプトである燻製料理と自家製ビールがご自宅でも楽しんでいただけるようになりました」(米澤店長)

NAMACHAんのイラストを印刷したボトルも好評だ。コロナ以前から、イメージキャラクターを印刷したコースターやTシャツなどのグッズに人気があった。このように名物料理やデザインにファンがついてくると、通販にしても差別化がしやすい。

都市部でもう1店。東京世田谷区・二子玉川のふたこビール醸造所は、3月後半から自粛休業に入った。4月下旬から11時半〜17時に限り、定番ビール4種と定番メニューのハンバーガーとホットドックのテイクアウト販売を始めた。ふたこビール醸造所はブルーパブで、出荷先の多くを店内とイベント出店が占めてきた。その両方が消えた4月の売上は前年比1割にも満たないだろうと、店長の市原さんは話す。

テイクアウト販売は店頭で行っているが、ふたこビール醸造所はビルの2階、やや奥まった場所にあり、通りから目につきやすい場所ではない。訪れるのは常連さんやコアなクラフトファンかと思いきや、案外、通りすがりの人が多いという。

「周辺の飲食店も軒並み休業中で、多摩川付近をランしたり散歩しに来た人が立ち寄れる場所がないんですね。ここでビールが飲めるんですねっと、とても喜ばれています」(市原店長)

ふたこビール醸造所の店舗前のテイクアウト用メニュー。

これまで店内営業だけだった小さな醸造所が、テイクアウトで門戸を広げれば、新たなお客を獲得するチャンスになる。ただそれは、NAMACHAんブルーイングやふたこビール醸造所のような、緊急事態宣言下でもある程度人通りがある都市部のアドバンテージだろう。

では、地方のクラフトビールメーカーはどうしているのか。次回は地方のブルワリーの新しいチャレンジと我々がビールの多様性と日本のクラフトビールを守るためにできることを紹介していく。

■参照/Best Beer Japan
BBJ作成 クラフトビールECサイトマップ

取材・文/佐藤恵菜

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