独自の「完全仮想化ネットワーク」による弊害
石川氏:ただやっぱり、新型コロナウイルス感染の騒動がある。ショップを閉めている状態だし、大手3社のショップも営業時間が短くなっていることを考えると、このタイミングでユーザーはキャリアを乗り換えようという気持ちにはならない。
法林氏:ならないよ。
石川氏:まぁ、厳しいですね。派手にローンチイベントができたら、メディアも紹介して注目を浴びただろうけど、新型コロナウイルス関連のニュースがほとんどというのが現状。楽天のMNOのサービスが始まったことは、CMを見れば知るかもしれないけれど、あのCMもよくわからない。
石野氏:完全仮想化をアピールする内容。
法林氏:一般の人たちには理解できないよね。
石野氏:わからないし、わかったところでユーザーにはメリットがない。「なんなんだ、その技術は」って感じです。
法林氏:「楽天のメリットじゃん」って話だから。
石川氏:そうですよ。
法林氏:ちなみに、さっき言ったOPPO A5 2020は、ヤフオクやメルカリでだいたい2万円前後で出品されているようで、普通に落札されている感じですね。だから、まぁ、そういう需要なんだろうなと。手元にある楽天回線で動きそうなスマホは、メルカリで流すと売るかもしれませんね……って感じですかね。
石川氏:2019年の10月に無料サポータープログラムが始まった段階でも、“楽天から端末を買わないと開通できない”問題は散々言われていた。しかも、OPPO端末でも、家電量販店で売っている端末と楽天で売って売る端末では仕様が微妙に違うという話もあった。その辺、完全仮想化の弊害が出ているというか。アクティベーションの仕組みに変なものを入れていることによって、他社の端末ではつながらないという状態になっていると思います。
石野氏:黒にした状態(開通に必要な情報が書き込まれた状態)でSIMカードを発送すればいいのに。なぜあんな中途半端なアクティベーションシステムにしちゃっているんだろう。
法林氏:それは、本人確認をしない方法で郵送するからじゃないですか? これもひどかったよね。今まで散々業界でやってきたことなのに、まったく無視して送っている。
石川氏:MNOになったことによって、ユーザーが端末とSIMカードを一緒に買ってくれると想定していて、そのためのアクティベーションの仕組みだったんだけど、ユーザーは端末を買わないのでアクティベーションでつまずく。MNOになると、そういう考えになっちゃうんだなと。
法林氏:楽天を利用するユーザーは安く使いたいお客さんだから、端末の出費を抑えたいと思うんだよね。楽天としては安いものを揃えたけれど、みなさん、なかなか買ってくれないなというのは感じましたね。
石川氏:これだけSIMロックフリーだといわれている中で、なぜそんなことをするんだと。時代に逆行してますよね。
法林氏:逆に、もし仮にアクティベーションにああいう仕組みを入れないとすると、完全仮想化ネットワークをはじめとする楽天のシステム自体が別個に必要になってくるだろうから、そこにまたお金がかかるだろうし、厳しいんだと思う。ただ、もくろんでやったことが、うまく結びついていないよね。
石野氏:あと「iOS版のRakuten Linkを用意しておきなよ」って思うんですけどね。
法林氏:たぶん、Rakuten Linkにもベースになったソフトウェアがあると思う。電話周りのソフトは、だいたいAndroid/iOS版両方作るのが当たり前なので、別に作れなくはないと思うけど、それでもやっていない理由は今ひとつわからないね。Appleに「作らないで」と言われたのかもしれないけどね。
石野氏:ただ、iOS版の「+メッセージ」は作れていますもんね。
法林氏:まぁねぇ。
石川氏:あの手のアプリは、たぶんAppleとのネゴシエーションが必要だと思いますね。
法林氏:それがないからできないかもしれない。
石野氏:確かにね。
石川氏:できないし……「Apple Watch」が出たとき、1つの電話番号を2つの端末で使えるシステムをエリクソンとAppleで開発していた。ドコモはまたちょっと違うらしいですけど、エリクソンとAppleの中でいろんなことを開発してきたので、楽天は完全仮想化で独自の仕様で動かしていると、それとのつなぎ込みができないんじゃないかな。
法林氏:ローカルのソフトは作れたとしても、サーバ側のものが別個に必要ってことだね。
石野氏:着信をどちらでするかとかもありますもんね。Rakuten UN-LIMITになってからはならなくなりましたが、無料サポータープログラムのときは、Rakuten Link アプリから発信したのに勝手にVoLTEに切り替わるとか、意外と挙動が複雑でした。あれは電話の深いところから制御していないとできないので、たぶんあの段階ではiOS版Linkは難しかったんだろうなと、なんとなくわかります。
「1日10GB制限」の噂がある中、楽天回線はワンプランを継続できるのか?
石川氏:ま、次は6月に5Gを始めるといっているので、それがどういう内容になるかですよね。もうあまり時間がない。
法林氏:台風になったらヤバいかもしれない。敷設してあるポールへさらに5G用のアンテナを付けて、重くなるんだけど大丈夫? みたいなところもあり。もしかしたら、あのアンテナの中へすでに5G対応した周波数のアンテナ素子が入っていたとしたら……。
石川氏:いやいや、それはないでしょう……。
法林氏:ないだろうけど、でも、どうなんだろうね。今の基地局に入っていて、スイッチオンでできたらスゴイと思うけど、そんなことはきっとないだろうな。だから厳しいなと思います。5Gサービス開始までにチェックだね。ただ、SIMをモバイルWi-Fiルーターに挿しても動いたので、Rakuten UN-LIMITのエリアにいる人は、それはそれでアリなのかなと。
石野氏:それで思い出した、10GB制限!(1日のデータ通信が10GBを超えると通信速度が1Mbpsに制限されるという噂。最近では3Mbpsに速度が向上した。
法林氏:そうそう、明らかになっていなかった10GB制限。あれ、ひどいよね。
石野氏:問い合わせたら「ネットワーク状況に応じて制限をかけることがあります」って言っていましたけど、楽天は毎日10GBを使われるとネットワークが混雑するのかという話なのかと。あれ、契約に書いていることと実際にやっていることが違うので、ガイドライン違反のような気がするんですよね。
石川氏:そういうことが、これからどんどん出てくるんじゃないかと思う。使い放題で、月額2980円で、帯域が1つしかないので、ユーザーが増えれば早晩、限界が来るだろうなという気がしている。今後、いきなり「1か月100GBまでですよ」とはいえない。となると、ちょっとした制限が入ってくるんじゃないかなって気がする。
石野氏:完全に三木谷さん(楽天モバイル代表取締役会長兼CEO 三木谷浩史氏)のやらかしじゃないですかね。
石川氏:役員が辞めているのは、そこだと思うんだよね。
法林氏:三木谷さんが通したことに対しての影響は少なからずあったかもね。
石野氏:10GB制限は、ちょっと引っかかるなって感じですね。毎日10GBは使わないけれど、ルーターに挿してがーっと通信しようとすると、例えばデータの重いゲームソフトはダウンロードできない。
石川氏:使い方の提案として、楽天エリア内だったら固定回線的な使い方もアリなんじゃないか、って思っていたけど、制限があると読者へおすすめしにくくなるよね。
法林氏:ひとり暮らしの人がテレワークだといわれて、光回線を引いてなくても楽天モバイルの回線なら対応できるかも……って思っていたけど、残念ながら10GBの制限がね。テレワークで何をするかにもよるけれど、Zoomなんかでしょっちゅうビデオ会議をするとなると、ちょっと厳しいね。
石野氏:怖いのが、10GBで制限するとちゃんとは言っていないこと。状況に応じてなので、今、混雑しているように見えないのに制限しているってことは、今後、三木谷さんの考え方が変わって「いや、ちょっとこれ通信しすぎだろ」とか言い始めたら、その上限が1日5GBとか3GBに減っちゃう可能性もあるわけじゃないですか。使い放題といっているのに、1日10GBぴったりで制限をかけるというのは、ちょっとどうなのかなと。誠実さに欠ける感じがする。
石川氏:いや、絶対そうなるって。だってこれ以上、帯域が増えないんだもん。
法林氏:1.7GHz帯の1波しかないからね。ユーザーが増えてきたらどうなるかってことですよね。
石川氏:タレック氏(楽天モバイルCTOのタレック・アミン氏)が以前、「5Gに逃がす」と言っていましたけど、5Gのスマホがまだ全然売れていない。みんな4Gのスマホを使ってばんばんデータ通信するだろうから、早晩、1.7GHz帯はパンパンになっちゃうんだろうなって気がします。
法林氏:どうするんだろうね。5Gが仮に6月に始まったときに、大手3社みたいに「4Gから5Gに契約を切り替えてください」みたいなことになるのかな。
石川氏:どうなんですかね。でも、プランは1つなので……
石野氏:また端末を買わなきゃいけないですよね。
石川氏:端末を買えば、そのままでいいんじゃないですか?
法林氏:そうなの?
石川氏:プランは1つですよ(笑)
法林氏:「スーパーホーダイ」の引き継ぎができるから、本当は1つじゃないけどね。
石野氏:Rakuten UN-LIMIT発表のときの質疑でも「5Gが始まったら……」ともごもご言っていた。プランがもう2つになるの? って(笑)
法林氏:“Rakuten UN-LIMIT 5G”とかいうつまらない名前になりそうな気がする。
石川氏:そんな感じのプランが用意されるんじゃないですかね。
石野氏:いずれにしても、今0円なので、5G回線だから通信利用料を徴収するなんてできないと思う。
石川氏:世界初の完全仮想化技術で1年間無料を実現したとCMで言っているから、5Gが始まっても無料なんじゃないかな。
法林氏:5G利用料だけは別個にお金を取るとかさ……いや、ないね。大手3社ですら、5G端末の売れ行きは泣きそうな状況なので、楽天モバイルの5G端末はなかなか売れないんじゃないですかね。
石川氏:買わないですよ。厳しいですね。
……続く!
次回は、新型コロナウイルス対策でのテレワークの役割について話し合う予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘