私がアナウンサーとして初めて仕事をしたのは、 2009年4月1日。
テレビ朝日の目の前にある、毛利庭園の桜の木の下だった。
その後すぐに、千鳥ヶ淵へ生まれて初めてロケに行ったのだが、
花見客で混み合う公園の中でカメラの前に立っていると、
たくさんの人が集まってきた。
「あれ、誰?」
「知らなーい」
もちろん、知らないに決まっている。
つい3日前まで、普通の大学生だったのだ。
有名人でもないのに、注目されていることが恥ずかしく、
緊張でガチガチに固まっていると、
ひと回り年上の女性ディレクターにこう言われた。
「見られたくないなら、アナウンサーなんてなるな!」
確かに、おっしゃるとおりだ。
見られたいからアナウンサーになったわけではないが、
見られたくないのならなるべきではない。
まだ出会ってから日も浅く、
怒らせてしまったとかなり落ち込んだのだが、
その後一緒に仕事をしていく中で、
やさしくて面倒見のいい、愛情深い人なのだということがわかった。
フリーランスになった今でも、
初めての現場や大舞台では少し不安になるが、
そんな時は、あの言葉がいつも聞こえてくる。
すべて自分で選んだこと。
好きだから、やりたいから、やっているんだ。
フリーランスになると、怒られることがほとんどなくなる。
いつも褒められ、感謝されるようになる。
本気で言ってくれているのだろうか?
きっとお世辞に違いない、と思うようにする日もある。
怒ってくれるって、本当にありがたい。
ちなみに、当時ディレクターだったその女性は、
この話を全く覚えていないらしい(笑)。
写真は、千鳥ヶ淵の桜。
毎年見に行くようにしている。
Natsumi Uga
テレビ朝日アナウンサーを経て、昨年からフリーとして活動。現在、『池上彰のニュースそうだったのか!!』(テレビ朝日)、自身初の冠番組『川柳居酒屋なつみ』(テレビ朝日)、『テンカイズ』(TBSラジオ)などに出演中。
文/宇賀なつみ
※「宇賀なつみ 素顔のままで」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME6月号に掲載されたものです。