夏に食べたいものといえば、冷たいものやさっぱりとしたものでしょう。なかでも『冷やし中華』は、夏バテで食欲が減退していても食べてしまうものです。夏の風物詩ともいえる冷やし中華は、いつどこで生まれたのでしょうか。意外と知らない、冷やし中華の誕生と歴史について解説します。
冷やし中華は日本発祥の麺料理?
冷やし中華は名前に『中華』が付くので、中国生まれの料理だと思う人も多いようです。実は日本生まれの料理で、発祥とされるお店も国内にあります。冷やし中華の発祥について、詳しく見ていきましょう。
元祖は仙台の龍亭説が有力
冷たい喉越しと程よい酸味が特徴的な冷やし中華は、日本で生まれた料理です。その元祖は、宮城県仙台市にある中国料理店『龍亭』が有力だとされています。
龍亭の冷やし中華誕生は、昭和12年の夏にまでさかのぼります。東北といえど夏は暑く、中国料理は熱いイメージがあるため売り上げは低下していたそうです。仙台七夕のお祭りと重なるその時期、観光客を呼び込み売り上げを伸ばす『打開策』として考案されたのが、冷やし中華でした。
当時はキャベツやニンジンなどの野菜をのせたシンプルなものでしたが、少しずつ改良され、さまざまな具材をのせた現在のスタイルへと変化していきました。
こうして、冷やし中華は夏の食べ物として受け入れられ、近年ではさらに『冷たい麺料理』のバリエーションが増えています。なかでも隣にある山形県の『冷やしラーメン』や『ざる中華』などが有名です。
同時期に神保町の揚子江菜館でも提供
同じ時期に、神田・神保町の『揚子江菜館』でも冷やし中華が提供されています。
冷やし中華といえば、玉子や野菜、ハムなどさまざまな具を放射状に盛られたイメージが強いでしょう。この盛り方の元祖は、『揚子江菜館』の『富士山盛り』だといわれています。
同時期に似たようなものが複数生まれることは珍しくなく、どちらを元祖とするかは判断が難しいところです。いずれにしても、冷やし中華の発祥が日本であることに変わりはありません。
西日本では冷麺と呼ぶこともある
西日本の一部の地域では、冷やし中華を『冷麺』と呼ぶことがあります。
冷麺は、もともと朝鮮半島の冷たい麺料理を指すもので、そば粉や小麦粉を原料に作られた弾力ある麺が特徴の『韓国冷麺』もその一つです。西日本ではこのような『冷たい麺料理』を総じて『冷麺』と呼んでいるそうです。
そのため、全く違う特徴を持つ冷やし中華も冷麺と呼ばれており、驚く人もいるかもしれません。
冷やし中華がポピュラーになった経緯
仙台や神保町で考案された麺料理が、ここまで全国的に広がったのはどうしてでしょうか。冷やし中華がポピュラーになった経緯をまとめてみます。
全国への普及は戦後から
昭和12年ごろに日本で生まれた冷やし中華ですが、全国への普及は戦後から始まったとされています。
戦前は物資に乏しかったことから、具材が少なく盛り付けもシンプルなものでした。戦後には物流や野菜の供給も豊かになり、細切りにした具材を放射状に盛り付けるスタイルがすでに確立されていたようです。
家庭向け商品の登場で人気が拡大
全国への普及を後押ししたのは、家庭向け冷やし中華の販売です。1960年、仙台にある製麺会社『だい久製麺』が家庭用の冷やし中華『元祖だい久 冷やし中華』を販売しました。
当時は画期的だった生麺と液状のタレがセットになった商品で、手軽に食べられると消費者の心を掴みます。宮城県下ではブームになるほどの人気ぶりだったようです。
これまで『涼拌麺』や『冷やしそば』『冷やし中華そば』など統一されていなかった呼び名も、発売を機に『冷やし中華』と呼ぶのが主流になりました。
冷やし中華の定義や地域性はある?
現在では日本全国で食べられる冷やし中華ですが、その内容は地域によって差があります。ベースのタレが違ったり、マヨネーズをかけたりする地域もあるようです。
しょうゆと酢ベースのタレが多数派
冷やし中華は、『しょうゆと酢ベースのタレ』がベーシックなものでした。最近はさまざまなタレが使われていて、店舗によってオリジナリティあふれる冷やし中華も登場しています。
とはいえ、元祖ともいえる『しょうゆと酢ベースのタレ』は王道の味です。冷やし中華といえば『甘酸っぱさ』をイメージする人も多く、広く圧倒的な支持を得ています。
マヨネーズをかける地域もある
少数派ではありますが、冷やし中華にマヨネーズをかける人もいます。福島を中心とした東北から北関東、愛知が中心の東海圏、北陸などではマヨネーズをかける人が多いようです。
「マヨネーズをかけるかどうか」で、定期的にネット上で議論を呼んでいるのも、根強い人気があることを思わせる食べ方です。
ゴマダレや中華風などアレンジも豊富
冷やし中華は、タレを変えるだけで手軽に味を変えられます。ベーシックに飽きたら、ゴマダレや酢を入れないしょうゆダレなども試してみましょう。
また、ひと手間加えることでアレンジの幅も広がります。例えば、酢の代わりにレモン汁を使うとフルーティーなタレの完成です。他にもトマトやアボカドなど好みの野菜を添えたり、パクチーなどの薬味を変えることで、味も雰囲気もガラリと変わります。
さまざまなアレンジを試して、自分好みの味を見つけましょう。
構成/編集部