最近、注目されている免疫力について。免疫力を高めるには、腸内環境を整えることも重要と考えられている。そこで今回、“腸の名医”である消化器病の専門医、医学博士 江田クリニック院長の 江田証先生に話をきいた。
医学博士 江田クリニック院長 日本消化器病学会専門医 日本消化器内視鏡学会専門医 江田 証 先生
http://www.edaclinic.com/
Ⅰ.免疫力が高く感染に強い人は、腸内細菌のバランスがよい
細菌やウイルスなどの病原菌を撃退してくれるのが、体に備わった免疫。免疫システムを担って いるのは免疫細胞だが、腸にはこの免疫細胞の約70%が集まっている。
つまり腸は、免疫のカギ となる臓器なのだ。小腸の粘膜では細胞同士が手をつないだ状態で、病原菌などが体内に入り込まないよ うにバリアし体を守っている。
しかし、腸内環境がよい状態、つまり腸内フローラのバランスがよい状態に保たれていないと、そのバリアが弱まり有害なものが体内に入りこんでしまい、体の不調や病気につながりかねない。
また、腸内フローラの多様性が失われた場合も、腸粘膜のバリア機能が衰え、免疫力が低 下。免疫力が高く感染に強い人や長寿の人は、腸内フローラのバランスがよいと考えられている。
ヨーグルトや納豆などの発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌など の善玉菌が含まれ、整腸効果が期待できる。
また、食物繊維の摂 取も大切。便秘気味の人は特に水溶性の食物繊維を意識して 摂ろう。ただし、過敏性腸症候群(IBS)の場合、発酵食品や食 物繊維を摂るとかえって便秘や下痢の症状を悪化させてしまう場合 も。
IBSの人は、高FODMAP※の食品をとると症状を悪化してしまうこ ともあるので注意が必要だ。
※FODMAP とは「オリゴ糖」「二糖類」「単糖類」「ポリオー ル」を示し、IBSの人ではFODMAPを含む食品を食べすぎると、腹痛や下痢またお腹にガスがたまることがある。
摂りすぎに注意したいのは、肉類。高脂肪、高タンパクに偏っ た食事は、腸内フローラのバランスを崩す原因に。便秘などの症状 があり、食事だけでの改善が難しい場合は、整腸剤やサプリメントを 活用することもおすすめ。
免疫と密接に関係があり、注目されているのがビフィズス菌だ。インフルエンザ感染症の予防法として、ビフィズス菌の一種である Bifidobacterium longum MM-2(以下 ロンガム菌 MM-2)の経口投与により、NK 細胞※1など全身の自然 免疫を活性化させ、インフルエンザウイルスの増殖が抑えられる※2ことが分かってる。
さらに、ロンガム菌MM-2はNK 細胞を活性化させて体全体の免疫力を底上げすることから、MM-2が インフルエンザウイルス以外の感染症に対しても効果を示す可能性が高く、広く感染症を予防するのにも効果的であると考えられている。
ロンガム菌MM-2などの免疫活性化作用が期待できる乳酸菌やビフィズス菌を日常的に摂取すること で、多くの人々の健康増進への貢献が期待できる。
私たちは、誰一人として同じ腸内フローラをもっている人はいない。腸内フローラが違えば、その腸 内フローラに合う食品も異なる。
偏った食事や間違ったダイエットでも腸内フローラは乱れてしまう。自分の腸内環境に合った食事法を手に入れることが大切なのだ。
※1 がん細胞やウイルスを撃退する細胞。生まれながらに備わっているからだの防衛機構である自然免疫に重要な役割を担う
※2 出典: 自然免疫の賦活化を介した B ifi dobacterium longum MM-2 の抗インフルエンザ効果(Medical Science Digest 2015 年 41 巻 4 月号)
Ⅱ.免疫力とは
1.免疫力の仕組み
免疫力は、私たちの体を病気から守る大切な防御機能。呼吸や食べ物を介して、体の中には細菌 やウイルスなどの病原体、さらに花粉などの異物が侵入しようとする。
このウイルスや細菌などの病原体が体外から体内へ侵入するのを防いだり、体内で生じるがん細胞を攻撃して死滅させたりするなど、 幅広い守備範囲で体を病気から防いでくれる。
ところが何らかの原因によって免疫力が低下したり、免疫反応に異常が起きたりすると、感染症にかか りやすくなったり、アレルギーやリウマチ、動脈硬化などさまざまな病気が生じやすくなる。風邪をひく、 よくインフルエンザにかかる、がんが発生するということは、この免疫力が弱まっているためだ。
2.免疫力が下がる原因
私たちの体は免疫の仕組みによってウイルスや細菌などの病原体から体を守っている。しかし現代人の生活では、免疫の仕組みが正しく働かない要因が増えている。
免疫力低下の原因は様々だが、主なものとしては、次のようなものがある。
1.ウイルス・病原菌などの外的要因
2.加齢
3. 睡眠不足などの生活習慣
4.偏った食生活
5.運動不足
6.ストレス
Ⅲ.免疫力を高めるためには
A)腸内環境を整え、腸内細菌を善玉菌優位にする
B)自律神経の乱れを整える
これらAとBがポイントとなる。
A) 腸内環境を整え、腸内細菌を善玉菌優位にする
腸内環境は長い期間をかけて、自身の食習慣や生活習慣によって作られるもの。便通だけではなく、 メンタルヘルスや肌の調子など、身体のさまざまところに影響を与えるとする研究もある。
私たちの腸内には、多種多様な細菌が生息しており、それらはなんと、約1,000種100兆個。主に小腸か ら大腸にかけて生息しており、これらの様々な細菌がバランスをとりながら腸内環境を良い状態にしている。
顕微鏡で腸の中を覗くと、それらはまるで植物が群生している「お花畑([英] flora)」のようにみえること から、『腸内フローラ』と呼ばれるようになった。
腸内細菌には、人体に良い影響を与える善玉菌と悪い影響を与える悪玉菌、どちらでもない日和見菌 があり、生活習慣や食生活の影響を受けてそれぞれ数を増やしたり減らしたりしている。
・善玉菌とは
ビフィズス菌や乳酸菌など。善玉菌がつくる酸により、腸内環境が酸性側に保たれることで悪玉菌 の増殖を防ぎ、さまざまな病気のもとになる物質が発生しないようにする役割を担っている。
・悪玉菌とは
代表的なものはウェルシュ菌やブドウ球菌など。腸内 の環境をアルカリ側にして有害物質を増やす。
・日和見菌とは
腸内で優勢な菌を味方する特徴がある。善玉菌が 多い腸内環境では特に悪さをしないが、悪玉菌が増 えてくると悪玉菌の味方になる。
ただし悪玉菌といっても、消化・吸収を助けたり免疫機能を高めたりと、身体の健康を維持するために 必要な役割も果たしている。つまり腸内環境が“よい”状態とは、多種多様でバランスよく腸内細菌 が存在していること。
腸内細菌が善玉菌優位であれば消化を助けてくれたり、ビタミンやホルモンの一部を作ってくれたりす る共生関係を保ち、そのことにより免疫力が高まることがわかっている。
◆毎日の食生活で『腸内フローラ』を整える
肉類や魚介類、卵、乳製品などに含まれている動物性たんぱく質や脂質の多い食事に偏ってしまうと、 悪玉菌が増える原因になる。
でも、その悪玉菌を増やす食品を摂らない・・・というのは難しく、厳しい制限は食事の楽しみを半減させてしまうことに。腸内に多くの種類の菌が存在する「多様性」 というのも、整った『腸内フローラ』の重要なポイントの1つ。
いろいろな食品を楽しんで食べることは、 腸内細菌の多様性を高めるため『腸内フローラ』にも良い影響をもたらす。
『腸内フローラ』を整える(=腸活)ために大切なのは、善玉菌を増やすものを積極的に摂ることだ。 食生活の面でもバランスのいい食事を摂り、適度に運動することで、肥満防止にも気をつけよう。
◆善玉菌を含むもの×善玉菌のエサとなるものを一緒に摂る
理想的な『腸内フローラ』に整えるには、善玉菌を摂るのが良いといわれている。また、善玉菌の エサとなるものと合わせて摂ることで、より効果を期待できる。
身体に良い善玉菌を含むものをプロ バイオティクス、その善玉菌の栄養源となるものをプレバイオティクス、そして両方を合わせて摂ること をシンバイオティクスと呼ぶ。
善玉菌とエサをセットで摂ることで、より効果的に『腸内フローラ』を 整え、健康を促進するといわれている。
<発酵食品>
乳酸菌やビフィズス菌、酵母菌、麹菌などの善玉菌が含まれています。継続的に食べるとより効果的といわれている。※塩分が多い食品もあるので注意
~ 例 ~ ヨーグルト、ぬか漬け、納豆、キムチ、味噌、チーズ
<整腸剤>
さまざまな種類の乳酸菌やビフィズス菌が凝縮されており、効果的に『腸内フローラ』を整え、便秘や 軟便を改善。
B) 自律神経の乱れを整える
「自律とは、他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動する」神経系統で あり、心臓や血圧、消化管、発汗、ホルモン分泌など自分の意思では調節できない系統。
この自律神経は2系統で調節されている。活動しているときに活発な「交感神経」とリラックスを司る 「副交感神経」があり、身体のリズムを保ってくれている。
実は、腸の働きをコントロールしているのは、自律神経。交感神経と副交感神経がそれぞれ優勢になる ことによって、腸の弛緩・収縮が行われるため、自律神経のバランスが乱れると腸の動きも乱れ、便秘に なったり、お腹をこわしてしまう可能性がある。
ヒトは活発に活動している時間が長いと、交感神経が優勢になりやすいうえ、加齢とともに副交感神経 の働きが低下するという研究報告も見られる。
この交感・副交感神経の一方が緊張し続けると、いず れの場合も免疫力が落ちることがわかっている。
つまり、適度な緊張(日中は交感神経優位)とリラ ックス(夜間は副交感神経優位)というメリハリが必要だと考えられる。そのためには、しっかり休息す ること、リフレッシュのために適度な運動をすることなど、十分な睡眠と、疲れ・ストレスの解消が欠かせないのだ。
◆睡眠不足の解消
眠っている間は、副交感神経が優勢になるため、睡眠不足になると自律神経の乱れに直結し、腸の 動きも乱れがちに。
交感神経の影響が強くなると、寝つきが悪くなったり睡眠の質が低下するという悪循環に陥ってしまうことも。睡眠時間を長くとるだけでなく、就寝前からリラックスを意識し、お気に入りの寝具などで心地よく眠れる状態をつくっておくことも効果的だ。
◆疲れ・ストレスの解消
自律神経を乱れさせる原因には、体と心の疲労も大きく関わっている。 スマートフォンの見過ぎによる眼精疲労、働きすぎ、ストレスなどによる精神的な疲労は不眠などにもつながり、自律神経に悪影響を及ぼす。
ストレスを発散する方法を探したり、深呼吸をしたり、全 身の力を抜いてリラックスできる休息時間を意識的につくろう。
ビフィズス菌や乳酸菌のはたらきの可能性
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)には、病原菌と戦う免疫細胞を活性化させるはたらきが ある。
乳酸菌やビフィズス菌によって、感染から体を守り、強く健康な体づくりに役立つ。
1. ビフィズス菌の抗インフルエンザ効果
A 型インフルエンザウイルスに感染させたマウスに、ビフィズス菌の一種である
B ifidobacterium longum MM-2 を継続投与することにより、インフルエンザウイルス感染に伴う生存率および症状スコアの改善など、抗インフルエンザ効果が見られた。
また、肺および脾臓由来の NK 活性が増強し、さらに、NK 細胞の活性化因子である Th-1 サイトカイン (細胞内病原体の感染防御に関与する細胞)の遺伝子発現を誘導した。このように、脾臓および肺 のNK細胞の活性化など、全身の自然免疫の賦活化を介してインフルエンザウイルスの増殖が抑えられ ることがわかった。
*出典:自然免疫の賦活化を介したB ifidobacterium long um MM-2 の抗インフルエンザ効果(Medical Science Digest 2015年 41 巻 4 月号)
2.大腸菌から腸を守る乳酸菌とビフィズス菌
マウスに病原性大腸菌を投与すると腸の内壁にある絨毛が破壊されるが、2 種の乳酸菌(フェーカリス 菌 129 B10 3B, アシドフィルス菌 KS-13)とビフィズス菌 G9-1 を摂取しておくとダメージもなく正常な状態を保つことがわかった。
*出典:本間道ら: 学術映画「腸絨毛と細菌」(制作・アイカム) 1970 ベニス・パドバ国際科学・教育映画祭 医学部門第一位賞(銀牛頭賞)
下の腸年齢チェックシートを使って、気になる自分の腸の状態を把握してケアの参考にしよう!
腸年齢チェックシート
【腸年齢チェック結果】
チェックが 4 個以下 腸年齢≒実年齢
あなたの腸年齢は実年齢と同じくらいか、それより若く、理想的。今の生活を続けるのが望ましい。ただ し、腸内環境はちょっとしたストレスや生活習慣の乱れに影響されるので、油断は禁物。
チェックが 5〜9 個 腸年齢=実年齢+10 歳
あなたの腸年齢はまずまず。これ以上、腸年齢が上がってしまわないように、生活の改善を考えよう。
チェックが 10〜14 個 腸年齢=実年齢+20 歳
あなたの腸は老化が進行し、危険な状態にあり。今すぐ、食事や生活習慣を改善しよう。
チェックが 15 個以上 腸年齢=実年齢+30 歳
あなたの腸年齢はすでに高齢者。今すぐに食習慣の変更や運動を始める必要が。これま での生活習慣を謙虚に反省し、手を付けられるところから変えていこう。
出典元:ビオフェルミン製薬 https://www.biofermin.co.jp/
構成/DIME編集部