■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
テスラからの第4弾となるEV(電気自動車)「モデル3」は、ミディアムサイズの4ドアセダン。都心では何台か見掛けるようになったが、まだまだ珍しい存在だ。しかし、2019年の生産台数は30万台を越えていて、アメリカを中心として存在感を急速に増してきている。
既存の「モデルS」や「モデルX」などは大きく立派だが「モデル3」は小ぶりだ。全長4694x全幅1849x全高1443mmというボディサイズはトヨタの「プリウス」よりも119mm長く、89mm幅広く、全高は27mm低い。日本仕様には3グレードある。モーターひとつで後輪を駆動する「スタンダードレンジプラス」(税込511万円)、2つのモーターで前輪と後輪を駆動する「ロングレンジAWD」(税込655万2000円)、「ロングレンジAWD」を高性能化した「パフォーマンス」(717万3000円)だ。
機械として優れているか? ★★★★★5.0(★5つが満点)
早速、このパフォーマンスを試乗してみた。テスラは搭載するモーターの出力を公表することがないが、性能は明らかにしている。それによると、停止から100km/hに達するまでの加速時間が、パフォーマンスはなんと3.4秒という俊足ぶりだ。3.4秒がどれだけの速さかといえば、ポルシェ「911」シリーズの中の最も辛口で、最高出力500馬力を発揮する最強のNA(自然吸気)エンジンを搭載する「911GT3」に匹敵するほどだ。
実際、「モデル3」のパフォーマンスは速い。EV特有の静かで滑らかな走り出しに感心している間もなく、速度を上げていく。それこそ、ポルシェ「911GT3」のような高性能エンジン車を加速させる場合には、エンジンの吸排気音や振動などが伴ってスピードを上げていく。その感覚に慣れている僕らはEVの加速感覚に新鮮な驚きを禁じ得ない。
「モデル3」は床下にバッテリーを設置しており、そこからの電力を前後ひとつずつのモーターで前輪と後輪を駆動している。車両重量自体は1840kgと軽くはないのだが、軽快なコーナーリングと高い安定感は重心の低さと4輪駆動によるものだろう。
気になる航続距離は530km。「ロングレンジAWD」では560kmで、「スタンダードプラス」では409km。加速性能は、「ロングレンジAWD」が4.6秒、「スタンダードプラス」が5.6秒。バッテリー搭載量と制御の違いによるものだろう。
タイヤサイズも、パフォーマンスだけが20インチを履くのに対して、他の2つのグレードでは18インチとなる。静かで滑らか、そして速い。航続距離も現実的と「モデル3」のパフォーマンスは大いに魅力的だが、運転支援機能の切り替えでステアリングアシストをON/OFFさせるたびに、ステアリングホイールが一瞬揺すられるように取られるのが気になった。それ以外は、最新EVのパフォーマンスが最大限に発揮されている。
商品として魅力的か? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
「モデル3」の加速性能には驚かされたが、もうひとつ眼を見張ってしまうのがミニマリズムが突き詰められたインテリアデザインと簡単な運転操作だ。画像をご覧の通り、いわゆるスイッチやボタンの類はステアリングホイール上の2つのローターリーダイヤル&プッシュスイッチとウインカー&ワイパーレバー、シフトレバーしか存在していない。
他の操作は、すべてセンターの15インチモニターディスプレイ上のタッチと音声入力で行う。ボルボやBMWなども他のブランドのクルマに較べるとだいぶシンプルだが、ここまでシンプルなものは現在、この「モデル3」以外にはない。
予備知識を持たない人が乗ったら尻込みしてしまうほど、既存のクルマたちとは違っている。しかし、新しいもの、進化したものに興味と関心を抱く人にはたまらなく魅力的だ。馴染むのに時間を要することもなく、むしろ逆だ。シンプルで理にかなっているから、一度操作すれば戸惑うことはない。
例えば、運転支援機能のACCを作動させるにはレバーを一度押すだけでONとなり、もう一度押すとACCとステアリングアシストが作動する。他のブランドのクルマではここまでシンプルな設計にはなっていない。
その運転支援機能の作動具合の表示もとても実際的でわかりやすい。走行中に「モデル3」の前後、左右に現れる現実の道路上の白線、乗用車、トラック、パイロン、人間などをアイコンとして表現する。360度を監視するカメラ、160m先まで把握するレーダー、超音波センサーなどをフルに働かさせている。
機能は似ていても、まだほとんどのクルマが自車と白線を表示する段階に止まっているところを「モデル3」は数段階は先を行っている。非常に優れた運転支援機能であり、これで長距離を走ったらドライバーの負担が確実に減って、疲労が軽減されるだろう。同時に、その分の安全性も向上する。
「モデル3」は最新の動力性能を持ったEVであり、同時に最先端の運転支援機能を有している。それでいて、操作はとても簡単という二重の驚異を実現している。携帯電話に例えると、このクルマだけがスマートフォンで、他のクルマがガラケーに思えてくる。
しかし、それらのクルマたちも、いずれ、この方向に進化してくるはずだろうから、モデル3は現代の自動車の進むべき方向を見事に体現していると言えるだろう。それだけのインパクトと魅力を持ったクルマであることは間違いない。
■関連情報
https://www.tesla.com/ja_jp/model3
文/金子浩久(モータージャーナリスト)