BASE FOOD(以下ベースフード)の成長が目覚ましい。
「1食で1日に必要な1/3の栄養素を取る事ができる食事」として、パスタやパンをオンライン販売しているブランドで、食領域におけるD2Cブランド(※)の先駆けでもある。
※自社で商品を企画、生産し、流通業者を介することなく、自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデル
2017年に「BASE PASTA」を発売し、今では日本だけでなくアメリカにもマーケットを拡大。
昨年は北米を代表するフードテックイベント「スマートキッチンサミット」で、ファイナリストにノミネートされるなど、国内のみに留まらない活躍をしている「ベースフード」。
ベースフードが成功した5つの秘訣
なぜベースフードはたった数年で、ここまでの企業に成長できたのだろうか?
ベースフードの成長を観察し続けてきた私が考える、ベースフード成功の要因は以下の5つである。
1.市場創出 「完全食」という新しいマーケットの創出
2.商品開発 アレンジ幅が広がるシンプルな商品
3.プロモーション 一瞬で価値を伝える広告
4.商品販売 商品を体験できるリアルの場の提供
5.リピート施策 商品以外の価値を提供するコミュニティの構築
1.「完全食」という新しいマーケットの創出
今でこそ「完全食」と称する食品が複数登場してきているが、ベースフードが登場するまで、日本で「完全食(※)」という言葉を知っている人は殆ど存在しなかった。
※各ブランドによって「完全食」の定義は異なるが、ベースフードは「1日に必要な栄養食が含まれた食事」と定義している。
ベースフードの栄養素(調理後)
ベースフードが最初につくった商品は「完全食パスタ」
それまで「全粒粉を使用することで低GI値にする」「こんにゃくで作ることで炭水化物量を減らす」などダイエット向けのパスタが飽和していた「ヘルシーパスタ市場」
ヘルシー食材にフォーカスし、競合が数多存在する「ヘルシーパスタ市場」に参入するのではなく、栄養素にフォーカスし、1日に必要な栄養素を練り込んだパスタを作ることで、競合ゼロの「完全食パスタ市場」を新しく創り上げた。
それがベースフード成功の最も大きなポイントであると考える。
2.アレンジ幅が広がるシンプルな商品
ベースフードの商品はとにかくシンプル。パスタとパンの2種類。しかも味のバリエーションはなく、どちらもプレーンタイプのみ。
これでは消費者は飽きてしまうのでは?と懸念するが、これが逆に人気の秘訣になっている。
Instagramで「#ベースフード」と検索すると、この地味な(失礼!)商品はどこへ。カラフルでバリエーション豊かな料理たちが並んでいる。
パスタを素麺仕様に変えたものもあれば、パンをオープンサンドにしたものもあり、同じ商品から作られた料理だとはとても思えない。
シンプルな商品だからこそ、購入した人の嗜好・ニーズに沿ったものに変えることができる。
こういったアレンジの幅が大きい商品は「アンバサダー施策」に効果的だ。
アレンジの仕方、楽しみ方が人に寄って全く異なってくるからだ。他の人のアレンジ方法を見て「次はこんな食べ方をしてみよう!」と思い、リピート率が上がる。
さらに会社も気付かなかったようなアレンジの仕方、楽しみ方を知るというメリットもある。
自社でお金をかけてスタイリングや撮影を行わずとも、商品の魅力が伝わる生活者視点の写真だって手に入る。
SNSのフォロワー数だけを見て、ブランドターゲットと全く異なるインフルエンサーに商品を渡し、不自然な写真やコメントをアップさせる「アンバサダー施策」をよく見かけるが、真のアンバサダー施策はベースフードから学ぶことができる。
また商品が2種類しかないため、生産コストを抑えることができる、というメリットもある。
「量より質」を重視しているベースフードでは、商品を定期的にリニューアルし、自社メディア「BASE MAGAZINE」にて「カイゼン報告」を行っている。
たとえ商品の種類は少なくても、よりクオリティの高いものをつくるために、技術改良を積み重ねる。これがベースフードが愛される第2の理由だろう。
3.一瞬で価値を伝える広告
冒頭述べた通り、ベースフードが誕生した2017年に「完全食」という言葉を知っている人は殆どいなかった。言葉を知らない人に「完全食」というキーワードをぶつけても、その価値は伝わらない。
だからといって「1日に必要な栄養素が…」と長い説明文を書いても、読む人はいない。
馴染みのない商品の価値をどのように伝えるか?
一瞬で商品の機能性を理解してもらうためにはどうすればいいか?
その答えがこの広告である。
当時、ヘルシーフードの代名詞であった「サラダチキン」と比較し、それよりも安くて栄養価の高いという事実を、たった1枚の絵で伝えている。
手軽に栄養バランスのとれるサラダチキンに関心の持っている人と、ベースフードの親和性は高い。
馴染みの無い「完全食」というキーワードを使うのではなく、ターゲットの興味を引く「たんぱく質」をフックに広告をクリックさせ、そこから商品の詳細を伝えていく。
見事な導線をつくりだしている。
認知度の低い言葉(この場合だと「完全食」のようなワード)を「パワーワード」として、「どうだ!すごい商品ができたぞ!」と言わんばかりに押し付けてくる企業を時々見るが、これは生活者目線に立って考えると効果は薄い。
知らない言葉を一方的に消費者にぶつけるのではなく、先ずはターゲットが求めている効果を分かりやすく伝える。その上で、少しずつ自社の魅力を伝えていくことが大事なのである。
4.商品を体験できるリアルの場の提供
ブランドが認知度を高めるためには、広告やSNSなどのデジタル上だけで行っていても不十分である。とにかく消費者の目に触れる場所へ行き、実際に商品を試してもらわなければならない。
ベースフードのような店舗を持っていないD2Cブランドであれば尚更だ。
ベースフードはブランド初期の段階から、健康系イベントや暗闇ボクササイズジム「B-monster」で商品を配布するなど、ブランドターゲットである健康志向の人々が集まる場所に出向いては、無料で商品を配りまくっていた。
さらには、都内のハンバーガーショップ「Burger Mania(バーガーマニア)」とコラボし、ターゲット層に近いビジネスパーソンが集まる大手町にフードトラックを出店。
「BASE BREADを使ったハンバーガーを1つ注文したら、さらにもう1つBASE BREADをプレゼント」などのイベントも開催していた。
スタートアップにも関わらず無料でどんどん配布している姿を見て「大丈夫だろうか…」と心配していたが(何様!)、商品の魅力を人々に知ってもらうためには先ずは試してもらわなければ始まらない。
店を持っていないからこそ、ターゲットが集まる場所に赴き、先ずは商品を体験してもらうことに注力していた。
このような地道なPRにより、その人気は徐々に増し、先日ついに全国展開するカフェ「プロント」とのコラボが発表された。
自社で店舗を持つことなく、リアルの場で商品を提供できる場(しかも全国規模)を創り上げることに成功したのも、ブランド初期の地道な活動で認知度・人気を手に入れられたからこそであろう。
5.同じ分野に関心を持つ人達が集えるコミュニティの構築
ベースフードでは、定期購入者のみが参加できるコミュニティ「BASE FOOD LAB」を運営している。
コミュニティでは、会員(研究員と呼ばれている)がベースフードのオススメアレンジ法を紹介したり、家でできる運動方法を紹介したりと、「健康」に関心を持つ人達同士の交流が行われている。
また、会員だけが参加できる試食会やランチ会なども定期的に開催されている。(気になる人は、定期購入を申し込み、コミュニティに参加してみて欲しい。)
あらゆる商品が簡単に安く手に入れられることができる今の時代、単に商品を販売するだけでなく、そこでしか得られない「体験」を提供することが重要である。
そして、今社会人からオンラインサロンが人気なことからも分かるように、学生時代と比較し交流の幅がグッ狭くなってしまう社会人にとって、会社の人以外に、似たようなことに興味・関心を得られるコミュニティの場はとても貴重である。
食や健康に関心がある人達が集うこのコミュニティに属していたいからベースフードを購入し続ける。そんな人も一定数存在するのではないだろうか。
さらに、ユニークなコミュニティの取組みとして挙げられるのが「BASE FOOD CAMP」
20食の食事をベースフードに置き換える「キャンプ」を1カ月間皆で行う。何を食べたか、身体にどんな変化が起きたかを、各自「#BASEFOODCAMP」というハッシュタグを付けて Twitterでつぶやく。すると、管理栄養士が食事内容に関するアドバイスや叱咤激励をしてくれるという取組みだ。
オンラインのみの交流だが、仲間と管理栄養士と共に目標達成するために頑張る1カ月間は、ブランドへの絆を深めることになるだろう。
このように、商品だけでなく「同じ分野に関心を持つ人達と集える場」や、「同じ商品を愛用している人達が一緒に頑張れる場」といったコミュニティを構築することで、ブランドへの愛着、そして商品継続率を高めることに成功しているのではないだろうか。
D2Cブランドのお手本となるベースフード
食業界におけるD2Cブランドの先駆者である「ベースフード」
日本の小さなベンチャー企業が、Food Tech最先端の国アメリカ開催されたフードテックイベントでファイナリストにノミネートされるまでの軌跡は、D2C参入を検討している多くの企業にとって参考になるだろう。
文/小松佐保(Foody Style代表)