■連載/Londonトレンド通信
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脱ぎっぷりも会見もお見事!ケイト・ウィンスレット『愛を読むひと』
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スティーヴン・ダルドリー監督『愛を読むひと』は、ベルリン映画祭での会見時、返答に拍手が上がった映画だった。拍手を受けたのはケイト・ウィンスレットだ。
会見に現れたウィンスレットは、やや硬い表情だった。
無理もない。ウィンスレットはこの映画で脱いでいる。たった今、それを試写した人たちが、目の前に並んで自分を見つめている、それについて質問さえしようとしているのだ。それが仕事と言ってしまえばそれまでだが、気の毒でもある。
だが、この映画はそこを抜きにしては語れない。なにしろ、前半ほとんどの場面でウィンスレットは裸だ。
マイケル(レイフ・ファインズ)の回想で始まる映画は、まず、第二次世界大戦後のドイツで、15歳のマイケル(ダフィット・クロス)が秘密裏に通う、21歳年上の女性ハンナ(ウィンスレット)宅での愛の日々を描く。
会見早々「ラブシーンはどうでしたか?」という質問が飛んだ。
「デヴィッド(ダフィットの英語読み)とのラブシーンは、まったく難しいことではありませんでした。彼は18歳と若いけれど、とてもプロフェッショナルです」とウィンスレットはにこやかに答えた。相手役への称賛を交えつつポジティブに返す、模範解答だ。
だが、いくつかの質問の後、また蒸し返した記者がいた。
「裸のシーンが多いですが…」という直球な質問には、他の記者からさえ非難めいたどよめきが上がった。
それに対しウィンスレットは「正直に言うと、楽しいシーンではありません」と切り出した。
「でも、それは仕事の一部です。わたしは偶然にもこの本(原作となったベルンハルト・シュリンクの小説『朗読者』)を6年前に読んで、とても感動しました。この話は、わたしにとっては、ハンナとマイケルが強いインパクトを与えあい、その後一生影響を受けることになる、ラブストーリーです。もちろん、そのシーンは大事です。だから仕事の一部としてやりました。四の五の言わずにやりました」と決然と語った、そこで拍手が沸き起こったのだった。
蜜月の後、ハンナとマイケルがそれぞれにたどった数十年の中で、2人の運命は時に交差しつつ、ハンナの人生に落ちたホロコーストの影、ハンナが若き日のマイケルにさえ明かさず守り続けた秘密が浮かび上がってくる。
ラブシーンはいわばツカミだ。がっちりとつかまれ、大きな時代の流れに抗うことはできない人生、生きる尊厳、そのすべてを包む想いの深みにまで、引っ張られていく。
マイケルは、若き日をクロスが、それ以降をファインズが演じるのに対し、ハンナは老年期までをウィンスレットが1人で演じ、裸体だけでなく、老いもみせている。その貢献は、この後、大きく報われることになる。
2009年2月6日に行われたこの会見の翌々日、ウィンスレットはイギリスのアカデミー賞にあたるBAFTAで主演女優賞、そして、22日にはアメリカのアカデミー賞主演女優賞の栄冠に輝いた。
Netflix、Amazon Prime Video、U-NEXT、TSUTAYA TV 等で配信中 ※予告なく配信終了することがあります。
(テレビでも4月19日テレビ神奈川「映画の時間」で20:00より放送予定)
文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com