esports Festival Hong Kong 2019の様子
テクノロジーの進化と共に、前年比120%の成長を続ける
新型コロナウィルス感染の影響は世界経済に深刻な影響をもたらしている。しかし、コロナ禍の中でも伸びている市場は多々ある。その一つが、esports(または、eスポーツ)市場だ。
esportsとは、Electronic sports の略称で、コンピュータゲーム(ビデオゲーム)をスポーツ・競技として捉える際ときに用いられる。
かつて、ゲームというと、友達と自宅で隣り合って遊ぶことだった。しかし、90年代半ばから、ハードウエアの性能向上と、通信インフラが整ったことにより、世界中のプレイヤーと対戦することが可能になった。
以降、さまざまな大会が地域的に行われていたが、大きなターニングポイントは、1997年に、アメリカで『サイバーアスリート・プロフェッショナル・リーグ』(CPL)が設立されたことだろう。ここから賞金制の大会がスタートし、プロ化の流れが本格化。以降、アメリカ、韓国、ドイツ、フランスなどの国で、プロ大会が開催され、市場は急拡大し続けている。
調査会社『Newzoo』(オランダ/2007年設立)が発表したレポート『Global Esports Market Report 2019』によると、esportsの世界の市場規模が2019年に11億ドル(約12兆円)を突破すると予想されたことは大きなニュースとなった。
日本国内市場も拡大中で、『esports元年』とされた翌年、2019年の市場規模は、前年比127%の61.2億円(KADOKAWA Game Linkage調べ)。大会数も増えや5Gによる動画視聴機会の増加によって、さらなる拡大が見込まれる。
大会はオンライン観戦が主流……そもそも「無観客」なのだ
esportsの大会は、オンライン上で行うことができる。そもそも無観客で成立するのだ。今回のコロナ禍で、オリンピックをはじめ、プロ野球、プロバスケットボールなどが大打撃を受けた。esportsは対戦型ゲームという性質上、多くのイベントや大会がオンラインで参加するものとなっている。
この柔軟性により、前出の調査会社『Newzoo』の発表によるとesportsの競技人口は世界に1億人以上、観戦を楽しむ人は4億人以上も存在する。2022年には約6億人に達すると予測されているのだ。
esportsの競技人口は、世界規模で年々10%以上増加し続けている。(出典:『Newzoo』「Global Esports Market Report」)
esportsは野球やサッカーと同様「観戦するエンタメ」
なぜ、ここまでesports市場が拡大しているのか……それは、「観戦するエンターテインメント」になったことが大きい。
アメリカのトップYouTuberの一人にNinjaがいる。彼は、「ストリーマー」と呼ばれるゲーム実況者なのだが、彼のチャンネル登録者数は2020年4月時点でなんと約2,300万人。これは、国民的YouTuberであるヒカキン氏のチャンネル登録者が818万人なので、その3倍近くのフォロワーがいるということになる。
esports 大会で扱われるゲームは6つのジャンル
大会で扱われているゲームは、大きく6つのジャンルがある。代表的なゲームを紹介しながら、内容を解説していく。
〇シューターゲーム
FPS(一人称視点)もしくはTPS(三人称視点)で撃ち合うシューティングゲーム。競技としてはゲーム『Quake』が1997年のCyberathlete Professional League(CPL)で使用された。『レインボーシックス シージ』シリーズ、『コール オブ デューティ』シリーズなどの多くの競技種目がある。
〇MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)
MOBAは、多人数のチーム同士が争うゲーム。その筆頭は全世界で7000万人がプレイしている『League of Legends』リーグ・オブ・レジェンド』。有名タイトルに『#コンパス 【戦闘摂理解析システム】』などがある。
〇RTS(リアルタイムストラテジー)
5~10人のプレイヤーが、リアルタイムに進行する時間に対応しつつ、プランを立てながら敵と戦うゲーム。『StarCraft』や『WarCraft』、『Age of Empires』が有名。
〇スポーツ
サッカーやアメフト、バスケットボールなど、現実のスポーツをリアルに再現したゲーム。『FIFA』や『ウイニングイレブン』シリーズなどが人気。
〇対戦型格闘ゲーム
日本のゲームメーカーが製作したタイトルが多く、esportsのゲームジャンルの中でも多くの人が盛り上がる。『鉄拳』『ストリートファイター』『グランブルファンタジー ヴァーサス』などが知られている。
〇CCG(Collectible Card Game)
CCGは、いわゆるトレーディングカードゲームのオンライン版。『マジック:ザ・ギャザリング』『ハースストーン』などがある。
上記以外のジャンルとして、パズルゲームやスマホゲームのタイトルによる大会も開催されている。
これらのゲームは団体戦でプレイするものが多く、世界には「FaZe Clan』(アメリカ)や「Fnatic』(オーストラリア)などのプロゲーミングチームが存在する。
日本にも「父ノ背中」(2015年設立、12人、YouTubeチャンネル登録者数157万人)や「CRAZY RACCOON」(2018年設立、19人、YouTubeチャンネル登録者数214万人)などが存在する。
彼らが東京ゲームショーなどのリアルイベントにゲストとして出演すると、大歓声が沸き、彼らが発売・プロデュースする公式グッズは即日完売する。
余談だが、『2020年小学生が選んだ好きなYouTuberランキングTOP 25」(フルマ株式会社調べ)では前出の「CRAZY RACCOON」所属プロゲーマーが2名(同率22位)にランクイン。彼らが世界大会に出場すると選手名がTwitterのトレンドになるなど、その影響力は大きい。
東大卒プロゲーマーも活躍し、多くの企業がスポンサーとして参戦
現在、日本でも、プロゲーマーやチームをバックアップする体制ができつつある。2000年代に多くの団体が作られたが、2018年に一般社団法人『日本eスポーツ連合(JeSU)』として統合される。この団体は、世界大会への選手派遣や、プロライセンスの発行などを行っている。
業界の体制が整うと、大会やプロチーム、プロ選手のスポンサーに大手企業がつくようになる。現在、マイクロソフト、レッドブル、日清食品、ロート製薬などが名を連ねている。
中でも有名なのは、東大卒プロゲーマーとして知られる、ときど氏だろう。彼には、ロート製薬ほか多くの企業がスポンサーとなり、CMにも登場。プロゲーマーは若年層への訴求効果が高い。小・中学生、高校生、大学生へのアピール力は絶大だ。
esportsを知るには、外出自粛中にプレイをしてみよう
esportsの世界を知るなら、そのムーブメントを肌で感じるのが一番早い。とくに初心者に強く勧めたいのは、登録プレイヤー数が世界2億人人いるという、シューターゲーム『Fortnite』や世界7,000万人のプレイヤーがいるという、シューター(ジャンル)ゲーム『Apex Legends』だ。いずれもサインアップするだけでゲームに参加でき、料金も基本的には無料だ。
いずれのゲームも、広大なマップ(島)を舞台に、約100人がリアルタイムで対戦するシューターゲーム。銃撃戦だがグロテスクな演出はなく、独特のキャラデザインと設定ができる。基本的に100人以上が、同時にこのゲームに接続していることが多い。これは世界各国のゲーマーとつながり、同じゲームに没入できることを意味する。外出自粛の今だからこそ、その世界観にハマるはずだ。
この世界に、プレイヤーとして参入し、進化したゲームの魅力を肌で感じ、コロナショック後の世界のビジネスのヒントが見つかるだろう。なぜなら、esportsではプレイヤーがバーチャルな世界の主人公になることが基本だからだ。
リアルな世界がウイルスに侵食される今、VRやMR、XRといったハード面のテクノロジーの開発は進んでいる。最新のビジネスは、ゲームの中に「原石」があるかもしれないのだ。
(監修)
中野 壮一郎
1994年福岡生まれ。中央大学商学部卒業。在学中よりesportsの概念を取り入れたマーケティングに注目し、衣服、食品開発などのコンサルティングに携わる。自身もゲーマーとして活動しており、『鉄拳7』ではランキング上位にランクイン。ほかにも『鉄拳』や、『フォートナイト』を得意とする。現在esports事業を行う株式会社ブランクエストのCOO。
プロゲーマー/ノビ
格闘ゲーム「鉄拳」の史上初の世界大会三連覇を成し遂げ世界的に注目を集める。アーケード版「鉄拳7FR」で「鉄拳王」の段位まで上り詰めたプロゲーマー。常に観客を意識した華やかで攻撃的なスタイルに、ファンが多数いる。Twitterフォロワー数は1.9万人、YOUTUBEチャンネル登録者数は8,260人。山佐株式会社所属。
取材・文/前川亜紀