健康には「座る」よりも「しゃがむ」方がよい?
「座りがちな生活は、喫煙するのと同じくらい健康に悪い」。最近、こんなフレーズを耳にする機会が増えている。
そうした中、米南カリフォルニア大学生物科学教授のDavid Raichlen氏らの研究から、アフリカのタンザニアで狩猟採集生活を送るハッザ族でも、1日のうちで身体を動かさずに過ごす時間の長さは、先進国の人々と大差ないことが明らかになった。
ただ、彼らは、椅子に座って過ごしているわけではなく、しゃがんだり、ひざまずいたりする姿勢をとる時間が長かったという。研究結果の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」3月9日オンライン版に発表された。
最近、座位時間の長さは2型糖尿病の発症や死亡といった健康リスクと関連するという研究結果が相次いで報告されている。
そこで、Raichlen氏らは今回、座りがちな生活を続けると健康状態が悪くなる原因が、身体活動量の少なさに起因するのか、あるいは別の原因によるのかを明らかにするため、狩猟採集民族のハッザ族を対象とした研究を行った。
研究では、参加に同意した18~61歳のハッザ族の男性16人、女性12人の計28人に、太ももに活動量計を8日間装着してもらい、1日の活動量を調べた。また、血糖値と脂質値も測定した。
なお、研究期間中、ハッザ族の人々の食料の97%は、自分たちで採取した植物や捕獲した野生動物が占めていた。
その結果、ハッザ族は、先進国の人々と比べて1日の身体活動量がかなり多いものの、身体を動かしていない時間も1日当たり平均9~10時間あり、先進国の人々と変わらないことが分かった。
一方、心疾患などの慢性疾患のリスクは、先進国の人々と比べると低かった。また、ハッザ族は、身体を動かしていない時間のうちの約18%はしゃがみ、12.5%はひざまずいており、椅子にはほとんど座っていないことも明らかにされた。
Raichlen氏によれば、しゃがんだり、ひざまずいたりする姿勢は、椅子に座っているよりも高いレベルの下肢の筋肉活動を要するという。
「下肢の筋肉を活動させることで、血管や心臓への血流量を保てるだけでなく、血液中のブドウ糖が過剰となる高血糖を抑止し、糖尿病の発症につながるインスリン抵抗性を改善する可能性がある」と同氏は説明する。
さらに、筋肉を動かし続けることで悪玉コレステロール値の低下につながる可能性もあるとしている。
また、Raichlen氏は「われわれの身体はもともと、長時間、椅子に座るような生活にはうまく適応できないようにできている」と述べている。
今回の研究では、椅子に座るよりも、しゃがんだり、ひざまずいたりして過ごす方が健康には好ましい可能性が示されたが、「これまで生活の中でしゃがんで過ごす時間がそれほど多くなかった人が、今からそれを始めるのは得策ではない。それよりも立ち上がるなど別の方法で筋肉を動かした方がよい」と同氏は助言している。
今回の報告について、米国心臓協会(AHA)のスポークスパーソンであるJohn Osborne氏は「しゃがんでいると筋肉は収縮し、心臓から筋肉へ、筋肉から心臓への血流も保たれるうえ、エネルギー消費も進むため、この研究結果には納得できる」と評価している。
一方で、同氏もRaichlen氏と同じく、「子どもの頃から習慣化されていなければ、しゃがんだり、ひざまずいたりする姿勢を生活に取り入れるのは難しい」と指摘。
ただし、「それでも椅子に座る時間を減らし、身体を動かすよう心掛けるべきだ」と強調している。(HealthDay News 2020年3月9日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.pnas.org/content/early/2020/03/03/1911868117