ゲノム編集食品
生物の設計図である遺伝子を人の手で改変した〝ゲノム編集食品〟が昨年10月に国内解禁された。これは既存の遺伝子に他生物の遺伝子を組み込む〝遺伝子組み換え〟とは違い、遺伝子に切れ目を入れることで性質を変えたもの。遺伝子組み換え食品は人体に害がないか、国の安全審査が必要だが、ゲノム編集食品は届け出だけで表示については任意。安全性は確保できるのだろうか。
「新たに何かを組み込むのではなく、切るだけで品種改良の速度を上げる技術で、現状の食品とリスクは変わらないので、特別な安全審査は必要ないと考えられます」と明治大学の中島春紫教授。
現に、近畿大学と京都大学は、共同で通常よりも肉の厚いマダイの養殖研究を始めている。
「通常15〜20年かかる品種改良が、4年ほどで成果が出ています。検証段階ですが今年は可食部が2割程度増えた個体を確認しています」と近畿大学の家戸敬太郎教授。
ほかにも、収穫量が多い稲や毒成分を作らないジャガイモ、アレルギー物質が少ない卵などが開発されている。近い将来、これらの食品によって、我々の食卓に並ぶ料理の様相は大きく変わっていくかもしれない。
自然界でもまれに遺伝子の一部が欠損して突然変異種が生まれる。それを人工的に施すのがゲノム編集。応用して植物などの収穫量を増やせば、将来の食料危機に対応できるかも。
あくまでも元来の機能の一部を人工的になくすのがゲノム編集。実はこれまでも天然の放射線などでゲノムが切れることで行なわれていた品種改良の速度を速めたものだ。
通常マダイの可食部は体重の4割程度だが、肉厚マダイは6割まで増やせた個体も出現している。
取材・文/松尾直俊 イラスト/山口絵美(asterisk-agency) 写真提供/近畿大学、京都大学