ひたすら穴を掘って深さを競う
世の中には「変わり種」の競技大会が多いが、その中でも今注目の的は「全国穴掘り大会」だろう。
これは、読んで字のごとく、まさに穴を掘るだけという競技。制限時間30分で、どれだけ深い穴を掘れるかをチーム単位で競い合う。1チームは6人までで、穴掘りに使用できるのは市販のスコップ、バケツ、ロープ、ハシゴだけ、という分かりやすいレギュレーションだ。
競技のシンプルさと少しばかりのシュールさという黄金の組み合わせがウケて、2020年2月で開催第20回を数えた。しかも、節目となる今回は、「単一の穴掘りチャンピオンシップに参加した最多人数」という内容でギネス世界記録に挑戦。1452人の参加記録を打ち立てて、同世界記録に認定される快挙を成し遂げた。
「単一の穴掘りチャンピオンシップに参加した最多人数」でギネス世界記録に
「そんなの初めて知った」という人が大半と思われるこの競技。今回は、この謎多き世界を紹介したい。
千葉県の観光牧場が主催
「全国穴掘り大会」を主催するのは、千葉県成田市の「成田ゆめ牧場」。もともと明治時代からの酪農家であったが、1987年に観光牧場へ転身するとともに、乳製品メーカーとしての事業も開始。
東京ドームの約7倍、約30万㎡の敷地面積を生かし、ゲストには動物とのふれあい体験、家族向けのアウトドアスポーツ、バター作り教室といったワークショップなどを提供する。
「全国穴掘り大会」が始まったのは2001年。「冬場の集客が課題である観光施設において、インパクトがあり、わかりやすく、大人からこどもまで誰でも参加できる熱く、深いイベントとしてスタートした」という。
第1回の参加チーム数は66チームであったが、以降毎年開催されるとともに増加。第20回(2020年2月2日)の総エントリー数は289チームというボリュームに達している。
参加人数が増えるのに対応して、部門数も増えている。メインは、純粋に穴の深さを競う「一般競技部門」だが、穴の造形のユニークさを競う「ユーモア部門」、女性のみのチームの「レディース部門」、小学生以下のみのチームの「ちびっこ部門」、穴掘りの巧拙は問わないコスチュームのみで勝負する「コスプレ賞」があり、第20回では2人だけのチーム編成で挑む「ペア部門」が新設。自身の得意分野に応じて、勝負をかけられるチャンスが増している。
一般競技部門にて優勝すると、賞金10万円と優勝トロフィーにとして「ゴールデンスコップ」(黄金色に輝くスコップ)が授与される。もちろん、他部門についても賞品が与えられる。
強豪チームは30分で3メートル近く掘る
競技会場は、「成田ゆめ牧場」内の平坦な草地となる。どこを掘るかで揉めないよう、くじ引きで掘る場所が各チームに割り当てられる。
スタートの合図とともに、「穴掘リスト」と呼ばれるチームメンバーが、一斉に手に持ったスコップで穴を掘り始める。
過去大会の幾つかの記録動画を見たが、多くのチームは6人全員で掘るのは最初のうちだけで、途中からは1~2人が交替で掘るようになる。これは、競われるのは穴の広さでなく深さであること、そして、全員が疲れてしまわないようローテーションを組んで掘る必要があるため。
また、区画によって土質が異なるようで、粘土質の土層にあたってしまうとスコップに土が粘りついたりして不利になる。過去7度の優勝に輝いた、暁工業の社員からなるチーム名「でんきのお姫様」 は、この粘土質の区画に当たって苦戦。第20回も優勝の本命と目されていたが、20位に終わった。掘った深さは244cmである。
第20回の総合優勝者は、愛管連青年部協議会のチーム。配管技能士の集団の精鋭だけあって穴掘りも手慣れたもので、285cm堀っている。2位は福島県管工事協同組合連合会青年部のチーム。やはり、上位者は配管関連のプロが独占しているのかと思いきや、3位に自動車修理会社の榎本自動車がランクイン(277cm)。ただ、同社の「穴掘競技部」のメンバーが参加者となっており、このために定期的にトレーニングをしているようだ。
穴掘りにもコツがある
本大会で250cm以上堀ったのは全17チーム。制限時間が30分であることを考えると、10分につき1メートル近くも掘っている計算になり、これは相当な技能(あるいは腕力)の賜物であるに違いない。もしかすると、穴掘り大会に特化したようなスキルはあるのだろうか? そのあたりを、「成田ゆめ牧場」の広報・鈴木卓さんにうかがうと、「穴掘りのコツですが、段を作っていく方法が良いかと思われます。最初は全員で広く掘り、ある程度まで掘ったら人数を減らして掘る面積を狭め、足場を作る。その後一人ずつ交代で掘り、体力がある人が掘れるよう維持というような流れです」とのこと。
そして、ユーモア部門で選ばれたのは、チーム名「チームGV・モ~’S発掘調査隊」による作品名「前方モ~円墳」。前方後円墳に見立ててよくできた造形が、審査員の心をつかんだ。また、ホリンピック競技大会組織委員会が、コスプレ賞を受賞した。
基本、「穴を掘るだけ」という競技。何がそれほど多くの人の心を捉えるのだろうか?
前出の鈴木さんはその点について、「膨大な情報やデジタルデバイスに振り回される日常。広々とした自然の大地を舞台に、誰もが使えるスコップだけを握りしめ、同じ目標に向けて心を一つにチームで挑む。そんな非日常性が人気の秘密ではないでしょうか」と語る。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)