車内の静かさも特筆ものだ。ルーフパネルとメンバーの接合に、軽自動車初という高減衰マスチックシーラーを採用することで、ルーフパネルの共振周波数をコントロール。こもり音、雨がルーフをたたく音を低減しているのである。さらにエンジン透過音、ロードノイズの低減についても徹底していて、10種類程度の技術が盛り込まれているのだ。新型ハスラーの巡航時の静粛性は、コンパクトカー以上のレベルと言っていいほどだ。
走行性能も期待値をはるかに上回る。パワーステアリングは軽く扱いやすく、フリクションを感じないスムーズさの持ち主。カーブでのロールはごく自然で、うっかり勢いよくカーブに飛び込んでしまっても、車体が倒れ込むような不安定な姿勢とは無縁。安定感はクロスオーバーモデルとして、軽自動車トップレベルであると断言したい。
もっとも、前席のサイドサポート性は今ひとつ。カーブを勢いよく曲がったりすると背中が大きく左右に振られてしまう場面もある。が、開発陣に聞けば、それはある意味、狙い。ハスラーのユーザーでカーブや山道をカッ飛ぶユーザーはまずいないはずで、加えて、前席を含めたフルフラットアレンジを優先したからだという。
新型ハスラーはアウトドアに適した使い勝手も大きく進化している。後席は160mmスライドし、後席足回りスペースとラゲッジルームの奥行を可変できるのだが、後席スライドをバックドア側からも新設のストラップで簡単スムーズに行えるようになり、床下収納もしっかりとした樹脂製の取り外し可能なボックスタイプに進化。
さらに、後席、前席をフラット化したシートアレンジによって、実測、約204cmものベッドスペースが出現。純正アクセサリーのリラックスクッションを敷くことで、大人2人が真っすぐに横になることが可能。つまり、リラックスクッション以外の様々なアウトドア向けの純正アクセサリーによって、軽自動車にして、車中泊も可能となるわけだ。
もちろん、スズキセーフティサポートと呼ばれる先進安全運転支援機能も充実。軽自動車最先端の機能を満載する。ターボモデルにあるACC(全車速域対応のアダプティブクルーズコントロール)は、このNAエンジンモデルには装備されないが、街乗りメインの用途なら、大きな不満材料にはならないと思える(あれば便利で快適なのだが)。
また、夏場のアイドリングストップ時に効果絶大なエコクールも完備。これは、蓄冷式エアコンとも呼ばれ、エアコンのコンプレッサーが止まっても、一定時間、エアコン内部に蓄えた冷気をエアコン吹き出し口から供給できるアイデア。一般的なエアコンは、アイドリングストップしてしまうと送風になってしまうのだが、エコクール機能があれば、車内の涼しさが継続する。日本の夏にはぴったりのおもてなしである。
そんな新型ハスラーのNAとターボモデルの価格差は9万4600円。その差は決して小さくないが、ターボモデルには、さらなる動力性能のゆとりだけでなく、上記のACCや、スピードコントロールのしやすさから乗員にもよりスムーズなドライブを堪能させられるパドルシフト、LEDヘッドランプなどの装備が追加されるのだから、むしろお買い得と考えても良さそうだ。個人的にはターボ×4WDの2トーンカラーの仕様が、アウトドア派にもぴったりな、ベスト・オブ・新型ハスラーだと思っている。
スズキ・ハスラー
https://www.suzuki.co.jp/car/hustler/
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。