死後、墓に入るのが当たり前の時代はもう終わり。今は墓から自然、そして宇宙へと飛び立つことも可能な時代になっている。では、そのお値段は?
自然に還す散骨への注目
これまで多くの日本人は仏式の葬儀を行い、霊園や寺院の墓地に墓石を建て、そこに埋葬する方式を選んできた。
一方、日頃の生活で自分が仏教徒との認識を持っている人は少なく、時代の流れと共に、墓地や墓石の価格、戒名やお布施に疑問を持ち、自分にはもっとほかの方法がふさわしいのでは? と考える人も増えている。そこで近年注目されているのが海や山などの自然に還す「散骨」だ。
ただし散骨を行うには、それが骨とわからないようパウダー状(遺灰)にした後、節度を持って行うことが求められる。海なら陸から相当離れた場所。陸(山)なら地権者問題と周辺住民への影響が及ばない場所を選ぶなど、細心の注意が必要だ。
自治体として条例を設け散骨を規制しているところもあるので、事前調査は必須。個人として散骨するよりも専門業者に依頼する形を取る人も少なくない。
海や山から宇宙へ
そんな中、新たな散骨の舞台として注目されているのが宇宙である。ここ数年毎年開催されている葬儀産業の見本市「エンディング産業展」においても、宇宙への散骨に興味を示す人も増えている。
では、宇宙とはどの範囲を指すのかというと、国際航空連盟は高度100㎞以上。アメリカ空軍は80㎞以上と定義している。
これだとかなり(打上げの)ハードルが高くなるが、葬儀業界でいうところの宇宙は、私達の考える「空」よりちょっと高いところ。もう少し詳しく言うなら、対流圏より上の成層圏以上と考えればいいだろう。
ちなみに大気圏の分類は、対流圏(~10㎞)、成層圏(10~50㎞)、中間圏(50~80㎞)、熱圏(80~500㎞超)、外気圏(500㎞~)に分けられる。
打上げ方法はロケットやバルーンなどがあり、散骨する量や高度などで、費用も大きく変わる。参考までに日本で申込みできる代表的な2社のプランを紹介しよう。
宇宙といえばロケット利用
宇宙に行く乗り物といえば、まず思い浮かぶのがロケットだ。さすがに日本から直接打ち上げるのは難しいため、日本の代理店を通して申込み、アメリカの民間ロケット会社を利用することになる。
そのうちの1社、銀河ステージが扱う宇宙葬の種類と費用は以下の4つ。いずれも遺灰は専用カプセルに入れることは共通。
・宇宙飛行プラン 45万円~
遺灰を収めたカプセルをロケットに搭載し、大気圏を出たところで放出。
・人工衛星プラン 95万円~
カプセルを人工衛星に搭載し宇宙へ。衛星は200年以上地球を周回する。
・宇宙探検プラン 250万円~
カプセルを宇宙帆船に搭載。そのまま宇宙を旅し続ける。
・月旅行プラン 250万円~
月面までカプセルを運ぶ。
ちなみに上記費用で打ち上げることができる遺灰は1g。最大7gまで可能だが、当然費用は跳ね上がる。
手軽さがウリのバルーン葬
手軽さという点で注目したいのは、ヘリウムや水素ガスなどを入れたバルーンで空高く打上げるタイプ。
日本ではバルーン工房が有名だが、大がかりな装置もいらず、推力もいらない。それでいて、ひとり分の遺灰(2~2.5kg)なら上空40~50㎞ほどの成層圏まで運ぶことができ、自然に破裂することで散骨が実現する。
もちろん、打上げ場所には制限があり、
・最低5m四方以上の空地(あくまで推定値)
・上空に向かい45度の角度内に高層ビルや電線などがないこと
・管制塔から最低9㎞以上離れていること
などをクリアする必要があり、バルーン工房では葬送方法を次の3つに分けている。
(1)遺灰を預け全ての葬送を一任。*打上げ場所は栃木県宇都宮市。
(2)指定の打ち上げ場所に遺族らに集まってもらい葬送。
(3)遺族指定の場所を使う。
気になる費用は、(1)の基本葬送費用一式で24万円(税別)。プラス遺骨をパウダー状にする粉末料が2万円(税別)を加えても30万円以下で済む。
*地元からの打上げを希望する(3)のようなケースでは、スタッフの出張交通費などの経費もかかるという。
(取材協力)
銀河ステージ https://ginga-net.com/
バルーン工房 http://www.balloon-sou.com/
文・写真/西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員