証券口座は、顧客の希望により、特定口座と一般口座を選択することができます。ほとんどの方が「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでいると思いますが、どうしてそれを選ぶのか、本当に適しているのか、気になる方に詳しく口座の種類について解説したいと思います。
証券口座
証券会社で開設できる口座には大きく分けて、「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」の3種類あります。
なぜ、このように分かれるかというと、証券会社で取り扱う金融商品の利益をどのように申告して、税金を納めるかによって、口座を分ける仕組みがあるからです。
株式・投資信託等に投資すると、保有期間中に受け取れる分配金・配当金、売却時に購入価格より高いと譲渡利益という利益が受け取れます。その利益には、20.315%の税金が他の所得と分離されて課税されます。
例えば、100万円投資して普通分配金を1万円受け取り、売却時に120万円で売却した場合、21万円×20.315%=42,661円の税金がかかります。
その税金をどのように申告して、どのように支払いたいかで、証券口座を開設する際に選ぶ必要があります。
特定口座とは?
特定口座は、証券会社が取引にかかる売買価格や損益を計算してくれる口座です。特定口座の中でも、税金自動的に証券会社が徴収する「源泉徴収あり」と自分で証券会社から発行される報告書を使って確定申告して自分で税金を納める「源泉徴収なし」で分かれます。
<特定口座源泉徴収あり>
利益から自動的に20.315%の支払うべき税金分を差し引き、税金を証券会社が代わりに支払い、その残りの利益を受取ります。その結果、確定申告は不要となり、税金を改めて支払う必要もありません。また、課税関係がこの源泉徴収で終了し、確定申告が不要になることで、「合計所得金額」から株式等で得られた利益が除かれます。
合計所得金額とは、配偶者控除など扶養控除を受ける際に参考とされる所得金額のことをいいます。配偶者控除を受けるためには、配偶者自身の合計所得金額が48万円以下である必要があります。この合計所得金額は、パートなどの給与所得なら給与所得控除後の金額であったり、他の不動産所得などがあればそれを合わせた金額となります。例えば、株式利益が50万円あり確定申告すると、扶養から外れてしまいますが、上記で述べたように、特定口座源泉徴収ありで確定申告不要としてあると、この参考とされる合計所得金額に含まれせん。
なお、源泉徴収ありを選んでも、特定口座取引報告書を用いて確定申告することもできます。
<特定口座源泉徴収なし>
特定口座により、取引による利益金額が計算された取引報告書が交付され、その報告書をもとに翌年の2月15日~3月15日の期間中に確定申告して税金を納めます。源泉徴収ありのように、取引ごとに税金は引かれません。
ただし、給与の年間収入金額が2,000万円以下かつ給与の支払いを1カ所から受けている方で、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合、確定申告は不要となります。(利益が出れば20万円以下でも住民税のみ申告が必要です。)
一般口座とは?選ぶときは事情があるとき
一般口座は、特定口座のように年間取引報告書は交付されません。自分自身で売買損益を計算し、確定申告をする必要があります。ただ、証券会社の口座管理等で売買取引記録や損益は見ることはできます。
なお、給与の年間収入金額が2,000万円以下かつ給与の支払いを1カ所から受けている方で、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合、確定申告は不要となります。(利益が出れば20万円以下でも住民税のみ申告が必要です。)
特定口座なら年間取引報告書を受け取れますが、一般口座は受け取れず、自分で売買価格を調べなければなりません。事務負担を考えると一般口座を開くメリットはないといえます。
したがって、一般口座を開くのは、特定口座に入れることができないときといえるでしょう。
例えば、海外転勤等で海外に居住するときが当てはまります。
海外に出国すると、非居住者となります。特定口座の制度が、日本居住者を対象とする所得税法上に規定されるものであることから、非居住者となると特定口座制度を利用できなくなり、廃止手続きが必要となります。保有株式は出国する前に、連絡して特定口座を廃止し、一般口座に振替られます。帰国後、特定口座に再振替して特定口座で売却することも可能です。特定口座のまま出国すると、特定口座に制限がかかり、売買できなくなります。
このように、一般口座は、株式や口座名義人の事情により、開設されることがほとんどです。
一般口座にある株式を売却したときは、自分で買付単価と売却単価を調べて計算し、確定申告をする必要があります。
特定口座の源泉徴収なしはどんなときに選ぶ?
確定申告の不要の給与所得者にとって、わざわざ確定申告が必要な「特定口座源泉徴収なしを選ぶ必要があるときとは、どんなときでしょうか。
他の証券口座と損益通算したいとき
例えば、A証券では売買利益が100万円で、B証券では売買損失が50万円出ているとします。
源泉徴収ありなら、A証券で税金203,150円引かれ、B証券では税金は0円となります。
しかし、実質はB証券の損失と相殺すると利益は50万円で101,575円となります。確定申告をすると、A証券の利益とB証券の損失を相殺して、税金を減らすことができます。
ただ、特定口座源泉徴収ありでも、先にA証券で税金203,150円引かれてしまいますが、確定申告することで払い過ぎた101,575円を還付してもらえます。
譲渡損失の繰越控除
例えば、2020年に1年間の株式売買で、100万円の損失が出たとします。翌年2021年に50万円の利益、2022年に20万円の利益、2023年に30万円の利益が出ると、特定口座源泉徴収ありなら2021年に約10万円、2022年に約4万円、2023年に約6万円の税金が引かれます。
ここで、2020年の100万円の損失に対して、「上場株式などの譲渡損失の3年間繰越控除」として確定申告すると、翌年以降3年間損失を繰り越して、利益と相殺することができます。
したがって、例でいうと、2021年の50万円の利益、2022年の20万円の利益、2023年の30万円の利益は、2020年の100万円の損失と相殺され、税金はかかりません。相殺するには、確定申告が絶対条件となっているため、確定申告をするのに、特定口座源泉徴収ありで先に税金を取られてしまうよりは、特定口座源泉徴収なしで税金は引かれずに確定申告をした方が良いのです。
特定口座源泉徴収なしのデメリット
給与所得者が確定申告すると、6月に会社から交付される住民税決定通知書に株式等の譲渡の欄に住民税金額の記載がされてしまいます。確定申告時に会社を通して支払う「特別徴収」ではな「普通徴収」を選べば別で支払うことはできますが、普通徴収を選んでも、ときには特別徴収になってしまうことがあります。特に、副業を禁止としている会社に勤めている方や株式売買について会社に知られたくないと思われる方は、特定口座源泉徴収ありがおすすめです。
また、扶養に入っている主婦(夫)の方で、確定申告することで扶養から外れる場合があります。
扶養とは、税法上の扶養と社会保険上の扶養があります。
税法上の扶養は、合計所得金額が48万円以下の方は、会社員・公務員の扶養に入ることができる制度をいいます。
会社員・公務員の配偶者は、配偶者控除が適用され、所得税が軽減されます。(合計所得が1,000万超の場合配偶者控除の適用を受けることはできません)
一方、社会保険上の扶養とは、年間収入130万円以下の方で会社 員・ 公務員の配偶者の国民年金保険と健康保険の扶養に入っていること です。社会保険上の扶養に入っている場合、主婦(夫) の方は自分で国民年金保険料と健康保険料を支払う必要がありませ ん。
もし、扶養から外れて自分で支払う場合、国民年金保険料は月16 ,410円(年間196,920円)、健康保険料は報酬月額11 万円の場合10,296円(東京都、年間123,552円) となり(住んでいる場所と収入によって異なる)、32万円~の負 担増となります。
特定口座源泉徴収ありを選択すると、 どんなに株式で利益を上げても、 扶養で算定される合計所得金額から除かれるため、 株式利益を理由に扶養から外れることはありません。
なお、地方自治体によっては、 特定口座源泉徴収ありを選んだ上で株式譲渡損の繰越控除や損益通 算の確定申告を所得税と住民税で異なる課税方式で申告することも できます。
通常特定口座源泉徴収ありで確定申告をすると、 扶養されている方は扶養から外れたり、 自営業者や所得のない方は国民健康保険料が大幅に値上がりしてし まいます。所得税は確定申告し、 住民税はそのまま確定申告不要にすることで、 住民税分の繰越控除による税金還付はあきらめることとなりますが 、 所得税の還付を受けても扶養から外れたり国健康保険料の値上がりを防げます。
特定口座源泉徴収なしを選ぶ際はデメリットを確認しておこう
特定口座源泉徴収なしを選ぶ際は、住民税通知書と扶養でデメリットを受けることはないか確認の上選択しましょう。また、特定口座源泉徴収ありでも確定申告することはできるため、損失があり確定申告する場合もデメリットを確認の上、還付を受けましょう。
文/大堀貴子
フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。