2020年1月30日、Google 合同会社は渋谷ストリーム内の新社屋において「買い物行動を刺激する情報探索とは」と題し、昨年行った調査の結果を発表した。
インターネット・SNSが私たちの生活に身近な存在となっている今、人々が従来とは異なる購買行動を取っていることは容易に想像がつく。しかし、実際に人はどのような行動を取り、情報に触れ、購買に至っているのだろうか。本記事では、その調査結果について紹介する。
パルス消費の時代
まずは、「パルス消費」という言葉について理解しておく必要がある。”パルス”とは、瞬間的に流れる電波や電流のこと。現代人は、時間や場所の制限なくいつでも購買行動を取ることから、Googleはその行動を「パルス消費」と名付けた。
人は”一瞬にして”買いたいと思う商品を発見し、そのまま購入に至るケースも多いという。言い換えれば”24時間365日、買いたいタイミング”ということだ。これは、従来までの「じっくりと情報を集め比較して購入に至る」というセオリーが、現代においては通用しないことを示唆している。
Googleが行った調査 もうカスタマージャーニーは通用しない!?
Google 合同会社 マーケットインサイト統括部長 小林伸一郎氏
同社は、広告主やビジネスメディアからの「人は購入に至るまでどのようなタイミングで情報を得ているのか、もう少し詳しく知りたい」との声から同調査を実施した。現代人は、「情報探索行動を経て購買に至るのか」「パルス消費とどうつながっているのか」を明らかにすることが目的だ。
【調査概要】
今回の調査では、Google社の検索ログは一切使用せず、第三者(調査会社)のビッグデータが用いられた。
【具体的な調査手法】
消費者行動パネル ログ分析(web行動/検索行動):最大2年分 7221人
消費者行動パネル対象者:全国の18〜65歳の男女、5業種における購入者17人(ログ分析ではわからない購入にいたるまでの情報探索行動の詳細と動機を理解)
定量調査:全国の18〜69歳の男女、5業種における購入者、検索DAU、SCR調査N=60,000人 本調査N=6,000人 ログ分析とデプス調査 ファインディングスの検証
分析対象カテゴリー:車、不動産、生命保険、旅行、スキンケア
Web・SNS・動画サイト・口コミサイト・テレビ・新聞など、オンライン・オフラインを問わずさまざまな情報源が存在する現代において、それらすべてを調査対象とし、それぞれの影響を割り出すのは不可能に近い。
そこで、同社は情報収集手段の6割を占める「検索」に焦点を当て、コンバージョン(購入、契約など何かしたらの消費行動)を起こした人たちを対象に、最大2年分のデータを読み解いた。
さらに、検索ログデータだけでは見えてこない「その前にSNSを見たか、それを参考にしたか」といった部分は、実際にインタビュー調査を行うことで補ったという。
これまで、人が何かを買う(サービスを購入する)際には、”直線的に購買に向かう”という前提があった。中でも、「認知→興味→検討→購入」で知られるフロー型の「カスタマージャーニー」は有名だ。
しかし、調査の過程でその仮定が大きく覆り、”ちゃぶ台返し”が多発したと同社マーケットインサイト統括部長 小林伸一郎氏は話す。
調査の結果は、消費者の探索行動はカテゴリに関わらず”一直線”ではなく「現れては消え、を繰り返す不規則なもの」であった。同氏は「これをデータとして可視化できたことはマーケティング的に大きな意味がある」と強調する。
潜在的な8つの動機
この調査を行ったことで、消費者には情報探索を行う「8つの潜在的な動機」があることが明らかになった。さらに8つの動機は、選択肢を探るための「さぐるモード」、選択肢を固めようとする「かためるモード」の2つに分かれている。
【さぐるモード】
・気晴らしさせて(へー):関心があるものに対して、情報を集める行動自体を楽しみたい。
・学ばせて(ふむふむ):知らなかったことに対して網羅的に知識を得たい、蓄積したい。
・みんなの教えて(そんな感じか):世間や周りの人が選んでいる商品、サービスを把握したい。
・にんまりさせて(うしし):一般的ではない情報を他の人より先に知りたい。
【かためるモード】
・納得させて(なるほどね):自分が今持っている考えが本当に正しいものなのか知りたい。
・解決させて(はいはい):具体的な方法手段、今すぐ役立つ情報・答えを知りたい。
・心づもりさせて(やっぱりそうか):購入後にガッカリしないようにあらかじめ期待値を下げておきたい。期待値コントロール。それを見ても購入はやめない。
・答え合わせさせて(ですよね):すでに選択をしているが確かめたい。同じ答えを探す。
現代人の消費行動は「バタフライサーキット」
この調査では、8つの動機が「さぐる→かためる」と直線的ではなく、 “蝶が舞うように行ったりきたりする”ということがわかった。これを同社は「バタフライサーキット」と名付け、消費者の70〜80%が「バタフライサーキット的な探索行動」を取っているという。
これは同時に、「一定数、無関係に購入されるものもあること=バタフライサーキットに当てはまらない人がいる」を証明したことにもなると小林氏は語る。バタフライサーキットに当てはまらない人の特徴として、「高齢の方」「PC利用者」が多い点も特徴的だ。しかし、それらの方は決して”情報弱者”ではなく、「目的が明確な時だけ情報探索をしている」だけという点には注意したい。
さて、このバタフライサーキットには大きな3つの特徴がある。それぞれ見ていこう。
買物における情報探索には、段階もファネルもない
探索を始める「思い立ち」、検討を始める「検討時期」、購入行動を取る前の「購買前」で、8つの動機による探索に、あまり差がないことが判明。各段階でカテゴリーがレインボー状になっていることから、バタフライサーキットは段階に関係なく起こっていることがわかる。これは、パルス消費の特徴である「どんな時にも起こり得る」を裏付ける結果となった。
買物における情報探索の過程には、義務と快楽が共存
人は、義務的な検索の合間に「全く関係のない検索を始めている」ことも判明。「ご褒美バタフライサーキット」と呼ばれるこの行動は、「気分を上げるための情報探索」であり、気持ちのバランスを取ろうとするものだという。写真の例で言えば、「どんだけ自己中(パン屋)」「あすなろツアー(旅行)」がそれに該当する。
買物における情報探索は、関連商材に波及
1つのバタフライサーキットが完了しようする段階で、別の関連したバタフライサーキットが発生する点も面白い。例えば、新婚旅行のために「ハワイ」について調べていた人は、帰国後に「シミ対策」などについて調べ始めており、「その時にその人にとって関連していること」を調べ始める。
具体的な対策よりもまずは理解と観察から
8つの動機により人は「常に探し続けている状態」にあり、パルスするタイミングを待っている。この「待っている状態」において人は、”思いがけない共感”によって購入してしまうことがあり、パルス消費しやすい状態にあると言えるそうだ。加えて、小林氏は「今後はこの人はどれくらいパルス消費をしやすい状態にあるかを予想できるようになるのでは」と話す。
また、買う商品を決めている場合の「指名検索」を行う際には一直線的な購買行動になるとした上で、「その前の段階が重要。そのタイミングにいかにその人にフィットする情報を提供できるかが鍵」とも語った。例えば、「花粉症 薬」と検索する人は、多くの場合「花粉症の薬を(もしくは比較する)買うこと」を前提にしている。その前の段階で「春 こわい」のように課題をキーワード化し、必要な情報を提供していくことが重要だという。
今回の調査結果から筆者は、具体策より先に、この購買行動についてしっかりと理解を深め、消費者の行動を観察することが重要だと感じた。従来型のマーケティング手法の型に当てはめるのではなく、「旧来の枠から離れてみること」「8つの動機とバタフライサークルで消費者行動を考えてみること」で、新しい対策が生まれてくるのではないだろうか。
8つの動機、バタフライサークルの詳細については「Think with Google」でも確認ができる。マーケター・経営者の方は、同サイト内に連載されている記事にも注目してほしい。
Think with Google(https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/)
取材・文/久我裕紀