夏目漱石、太宰治、森鴎外、樋口一葉、林芙美子。教科書でも習った日本の文豪たちの文学館・記念館が東京都内にある。
静かな佇まいの中に整然と展示された、文豪たちの愛した品や原稿などゆかりの品々。彼らの生涯と作品に思いを馳せ、忙しい日常の中で麻痺している知的好奇心に刺激を与えたい。
文豪とその作品に馴染めば心にゆとりが生まれ、自分を見つめ直せる、かも。
※年末年始の休館日はあらかじめご確認ください
『吾輩は猫である』『それから』
新宿区立漱石山房記念館
夏目漱石が暮らし、数々の名作を世に送り出した「漱石山房」の書斎、客間、ベランダ式回廊が、記念館内部にできる限り忠実に再現されている。
「漱石山房」に多くの文学者たちが集ったように、訪れる人々を温かく迎え入れる、オープンな空間がコンセプト。
記念館に隣接して漱石公園もあり、それらを訪れる人々が気軽に寛げるエントランスホールや、ゆったり図書の閲覧ができるブックカフェも設置されている。
『舞姫』『ヰタ・セクスアリス』
文京区立森鴎外記念館
2008年から改築され休館していた「文京区立本郷図書館鴎外記念室」が、明治の文豪森鴎外が誕生150年目の2012年、「文京区立森鴎外記念館」として生まれ変わった。
鴎外は、千駄木団子坂上にあった「観潮楼」に、家族とともに30年間暮らし、1922(大正11)年に60歳で没した。ここはその跡地にあたる。
主に、原稿・書簡・図書・遺品などの資料と、鴎外や文京区にゆかりのある文学作品や文学者に関する資料を収集し、鴎外の遺品資料だけでも約3千点が収蔵されている。
『たけくらべ』『にごりえ』
台東区立一葉記念館
名作『たけくらべ』の舞台となった龍泉寺町(現・竜泉)。 ここに1949年、戦災で失われた「一葉記念碑」を再建されたのを始め、1961年には一葉記念館が開館に至った。
当時、女流作家の単独資料館としては日本で初めてのものだった。2006年には、館の老朽化が進んだことや樋口一葉が新五千円札の肖像に採用されたことを機にリニューアルオープンした。
名作『たけくらべ』の下書き原稿や、一葉の文机の複製、詠んだ歌を記した短冊などの収蔵品がある。
『人間失格』『斜陽』
太宰治文学サロン
近年も彼がテーマの映画が作られ、若い世代のファンも多い太宰治。38歳という短い生涯の中、1939年より三鷹の下連雀に家族とともに移り住み、疎開期間を除き約7年半を過ごした。
この創作活動の拠点となった三鷹に建つ太宰治文学サロンは、定期的に企画展示を開催し、直筆原稿の複製や初版本、初出雑誌など様々な貴重な資料を公開している。太宰治作品の朗読会やふれあいトークなどのイベントも開催している。
『放浪記』『浮雲』
新宿区立林芙美子記念館
林芙美子が、1941年から1951年に生涯を閉じるまで住んでいた家が、生活の様子もそのままに記念館として残されている。掘りごたつ、釣り戸棚、二段押し入れ、収納式神棚、多くの小引出しなどがある茶の間は一家団らんの様子がうかがえる。
執筆をした書斎は、部屋の中から、半障子を通して廊下越しに北の小庭が見える。庭は孟宗竹が残り、寒椿、ざくろなど、芙美子が愛した樹々が植えられている。女流作家の仕事ぶりと暮らしを、時を越えて垣間見ることができる。
文/堀田成敏