常陸野ブルーイングといえば、フクロウラベルの「常陸野ネストビール」で知られる。製造元は木内酒造。1996年に誕生し、数々のビールアワードで金賞に輝いてきた名門ブルワリーだ。その常陸野ブルーイングの東京蒸溜所が秋葉原のJR高架下にオープンした。
フクロウラベルで知られる常陸野ブルーイングの蒸溜所併設ダイニングバー。
すでに秋葉原の神田万世橋にオリジナルの麦汁が醸造できる常陸野ブルーイング・ラボがオープンしているが、ここは「蒸溜所」だ。クラフトビールの会社なのに、なぜ蒸溜所?
希少なビール麦「金子ゴールデン」から生まれたスピリッツ
始まりは2016年に遡る。木内酒造は常陸野ネストビールの原料として、地元の農家に「金子ゴールデン」というビール麦の生産を依頼。金子ゴールデンとは今から約120年前の1900年に、現在の東京・練馬区で金子丑五郎という人が育成したビール麦である。久しく栽培されていなかった金子ゴールデンを、常陸野ネストビールの原料として復活させたのだ。
希少なビール麦であるが、農産物ゆえ、ビール原料としては規格外のものがどうしても一定量出てしまう。捨てるのはもったいない。しかし蒸溜酒の原料としてはオーケイ。ということで、2016年から木内酒造では金子ゴールデンを使ったスピリッツを造ってきた。そして12月12日、アキバ高架下に蒸溜施設を併設したダイニングバーがオープンしたというわけだ。
ここでしか飲めないクラフトスピリッツ
店には、真新しいピッカピカのポットスチルが1基。1度に300リットルが仕込める。
取材時にはジンを蒸溜していた。地元常陸野で採れるフルーツやハーブ、たとえばブドウ、梨、柿、柚子、大葉、タデなどなどを香りづけに使用。素材のさまざまなら、香りづけの方法もさまざまだ。
「ポットスチルに直接入れたり、ジンバスケットを使ったり、蒸溜前の原液に漬け込んだり、蒸溜後のジンに漬け込んだり。タイミングもいろいろ試しています」(蒸溜担当のサム氏)。
こうして生まれたスピリッツは、まだボトリングされていない。飲めるのは、ここ東京蒸溜所だけだ。
ドリンクメニューには、東京蒸溜所のオリジナルスピリッツのほか、常陸野の蒸溜所で造られたモルトウイスキーとスピリッツがラインナップされている。木内酒造の梅酒、米焼酎、「ジン+焼き柚子+砂糖」「ジン+昆布+砂糖」など、ユニークなリキュールも楽しい。地元の素材を使って1樽1樽、1本1本、試行錯誤しながら造るクラフト感にあふれている。
小ロットで造られる木内酒造のウイスキー。樽の種類によって異なる色合いがグラデーションをなしている。
写真は「KIUCHI GIN LIQUEUR ROSEMARY」。アルコールは21度。ソーダ割にすると香りが引き立つ。
カウンターでは「常陸野ネストビール」の定番(アンバーエール、ペールエール、ホワイトエールなど)のドラフトも完備。
おすすめは、常陸野の蒸溜所でつくられたウイスキーのテイスティングセットだ。
2016年産のモルトウイスキーのテイスティングセット(1280円)。左からバーボン樽、オロロソシェリー樽、クリームシェリー樽で貯蔵。原料には金子ゴールデンと輸入大麦が使用されている。
フードメニューは「常陸牛」や銘柄豚の「常陸の輝き」、「つくば鶏」など、地元自慢の素材を使った料理が並ぶ。生ハム、ソーセージ、スペアリブ、スモークチキンなど、料理も充実している。
アキバの高架下で、おいしいつまみとクラフト感あふれるスピリッツやビール。他ではお目にかかれないモルトが並んでいるからだろうか、ちょっと遠くへ来たような旅気分も味わえる。スピリッツファン、ビールファン、だれもが楽しめるのが東京蒸溜所のいいところだ。近いうちに、店内のポットスチルで、お客さんが好みのベースと香りづけの素材を選んで仕込むオリジナルスピリッツを始める予定だという。
常陸野ブルーイング東京蒸溜所は、JR山手線の高架下の商業施設「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」の一角にある。フィギュアショップ、中古CD・レコード店、鉄道模型・スケール模型店など、マニア心を刺激するショップもずらり。
●常陸野ブルーイング東京蒸溜所
http://hitachino.cc/tokyodistillery/index.html
取材・文/佐藤恵菜