懇願と強制の二重奏
誰いない店内に声をかけてみると…。
「あ〜ハイハイ…」
と、どこからともなく寝ぼけたような声!!
この声は一体? と入口からは死角になっている左の方を見ると、テーブルの椅子を並べた上に店主らしき人が本気で寝ていた。
店主はおもむろに起き上がり、どうぞどうぞと店内のテーブルを勧めてくれる。
イイも悪いも全て超越した、この愛すべきムードに心奪われながら、卓上のメニューを見る。
そして愕然とする。メニューにアルコール類が載ってない!!
いやいや待てよ〜、あの朽ちかけた食品サンプルケースには、ホコリをかぶりにかぶった瓶ビールとお銚子みたいなのが飾ってあったはずだ。ビールくらいあるに違いないと、
「ビール、ありますか?」
と聞けば、ちゃんと大瓶があるとのこと。それを注文すると、
「ウチの人気のメニューは、チキンカツ定食とメンチカツ定食!」
と、訊いてもいないのに料理のサジェスチョン。
ウム〜店主の寝てた感じからして、これはオススメというより、もはや、
「この二つから選んで!」
といううっすらとした懇願および強制であろうということは即座にわかる。一瞬悩んでメンチカツ定食(850円)を頼む。
すると厨房があるであろうおくに引っ込む店主。
改めて店内を見回して見る。
なんともいえない雑然とした雰囲気である。
ホールにテーブルは8ツくらいあるんだけど、オレが座ったホール中央に位置するテーブルはともかく、端っこの方のテーブルには、いつのだかわからない新聞だのチラシだのが山積みになっている。
店主が寝てたテーデルの椅子には、店主が被ってた毛布みたいなのも置いてある。
ヘタな家よりも生活感があふれている。