ここで疑問が湧いた。『まぼろしの世界』と『太陽を待ちながら』は他の曲を聴いても、『ハートに火をつけて』と違ってステレオ感が自然だ。例えば『太陽を待ちながら』のA6「名もなき兵士」の中盤、兵士が左から右に行進し、右から銃声音が轟き左に抜ける。ステレオ感たっぷりの録音だ。モノラル録音のステレオ化で、こんなことができるのだろうか? この2作品は、ステレオ録音をモノラル化したのではと思ってしまうが……。
ドアーズの聴き比べ中、レッド・ツェッペリンの代表曲「ロックンロール」のアメリカ盤プロモシングル、片面ステレオ/片面モノラルを持っていることを思い出した。発表は71年、ステレオ録音の時代だ。こちらのモノラル面は、ステレオ録音をモノラル化したに違いない。ステレオ感を押し出した曲ではないからか、モノラルは豪速球のような迫力で、5対4でモノラルが上だ。しかし理屈上は、腑に落ちない。ステレオ面は再生回数が多く、盤がへたっているのか?
ジェフ・ベック/『トゥルース』。表ジャケットはステレオもモノも同じ。
裏ジャケット右上にAlso available on Stereo表記。
最後にジェフ・ベックの『トゥルース』(1968年11月)を試した。僕が初めて買ったモノラル盤だ。eBayであまりに安く落札できたので状態に不安を覚え、ステレオ針ながら試聴チェックした。盤にまったく問題無し、それどころかそのド迫力ぶりにぶっ飛んだ。これがドアーズのモノラル盤を買いたくなったきっかけだ。
今回の聴き比べにあたり、ステレオ盤も手に入れた。曲はA1の「シェイプス・オブ・シングス」。ステレオ盤はとってつけたような音。対してモノラル盤は、曲頭のドラム一発で圧倒され、ギターは破壊的だ。ステレオ感などはどうでもよく、ここまで音質が違うのかと驚く。5対3でモノラル盤の圧勝だ。
試聴を通して、ステレオ針で聴いても原則的にはモノラル盤の方が音はいいと確信した。しかしあくまでも僕の家での、常識的な音量でのことだ。ボリュームを上げたらどうなるか? そこで来る12月7日(土)、東京・大岡山のライブハウス「グッドストックトーキョー」で、この5曲を聴き比べるイベント「レコードの達人」を開催する。音が大きいのはもちろんのこと、プレーヤーシステムはLINNの300万円級ハイエンド機(ステレオ針)だ。“百読は一聴にしかず”!
ご興味を待たれた方は、是非ご来場を。
文/斎藤好一(元DIME編集長)