■連載/文具ソムリエール菅 未里の「誘惑文具」
カンファレンスの二日目は、ロイヒトトゥルム1917(以下ロイヒト)の工場巡りです。1日目と同じ建物に集合し、敷地内にある工場を案内してもらいます。
小学校の遠足のようにいくつかの班に分けて出発した私たちは、まずはフォークリフトが作業している巨大な倉庫に入りました。天井まで数十メートルある広大な空間に、ロイヒトが詰められた段ボールが所狭しと並んでいます。ロイヒトは、ここから世界中に送られていくのです。
箔押し、しおり付けを体験!
倉庫を出た我々は生産ラインに入りました。そこで感じたのは、日本の文房具メーカーも同じなのですが、ここではロイヒトが「手作り」されているということ。
いえ、もちろん職人がすべて手作業で……というわけではありません。さまざまな工作機械が活躍しているのですが、一工程ごとに担当の方がいて、自らが担当する作業を説明してくれます。その説明には、なんというのでしょう、自分の仕事への誇りのようなものが感じられました。彼ら彼女らは自らの手で責任をもって、ご自分の責務を果たしているのですね。
そんなことを考えながら箔押しの工程を興味深く見ていると、なんと担当の女性が「やってみませんか?」と言ってくれるではありませんか。まずないチャンスですから、挑戦してみることにしました。
作りかけのロイヒトを機械にセットし、両手で同時にボタンを押します。すると「がしゃん」という音と共に箔が押されたロイヒトが出てきました。
言葉にするとこれだけなのですが、担当の彼女は毎日、膨大な数のロイヒトに箔を押し続けているに違いありません。頭が下がります。
しおりを付ける工程も体験させてもらえました。ロイヒトを台にセットし、接着剤を塗ったしおりを背に差し込み、専用のヘラで押し付けます。こちらはほぼ手作業なので、ちょっと難しいですね……。ちなみに、この作業の担当者さんも女性でした。
1冊のノートの裏には多くの人々がいる。当然のことではありますが、実際に目の当たりにすると、ノートが重く感じられる気がします。
校舎で什器について考えた
次に私たちが案内されたのは、まるで学校のような建物でした。と思っていると、もともと学校だった建物をロイヒトが買い取ったとのこと。
こちらには什器を並べたコーナーがありました。店頭でどう並べればユーザーに訴求するのか、実際にディスプレイして検討しているようです。ここでも女性の担当者さんが解説をしてくれます。詳しく書くことは控えますが、もともと売り場にいた私にとっては非常に興味深い内容でした。
ライダー・キャロル氏に再会!
昼食を挟んだ午後には、ノート術「バレットジャーナル」を考案したアメリカ人ライダー・キャロルさんの講演がありました。彼がロイヒトを愛用していることから、ロイヒトはバレットジャーナルの公式ノートにもなっているのです。日本でもバレットジャーナルが流行っているため、ご存知の方も多そうですね。
実は私がライダーさんに会うのは二回目です。というのも、今年の4月にライダーさんが来日したときに銀座伊東屋で開かれたトークショーでお相手役を務めたからです。およそ半年ぶりの再会でしたが、ライダーさんはもちろん覚えてくださっていました。
ハンブルクの夜景を眺めながらダンス
講演を終えると本社でのプログラムは終了。あとはお待ちかねのパーティーです。
バスでハンブルク中心街に戻った我々は、エルベ川を望むホテルの会場に集まりました。まだ夕日が差している時間帯ですが早くもシャンパンが配られ、会場は浮かれています。DJもいますね。
午後7時くらいになり日が傾くと、ライダーさんを含む3名の著名人によるノートの重要性を訴える講演が行われました。そしてCEOであるPhilip Doeblerさんが来場者に感謝を述べると、いよいよパーティー開始。紫にライトアップされた会場には、「Sashimi」(という名のカルパッチョ?)にはじまり、大量のご馳走が並びます。もちろん、ビールとドイツワインも。
真面目で硬いイメージがあるドイツの人々ですが、実際は全然違います。彼らは美味しいものとお酒、音楽を愛する明るい人たちです。そんな、人生の楽しみ方を知っている人たちが作っているノートがロイヒトトゥルムなのです。
夜が深まるにつれDJの音楽がアップテンポのものに変わっていくと、皆が輪になって踊りだします。中にはご馳走とワイン、音楽。外にはライトアップされたハンブルクの夜景。なんと贅沢な夜でしょう。
翌日も仕事がある私は少し早めに失礼しましたが、エルベ川を望む会場からは、いつまでも笑い声と音楽が響いていました。
文/菅未里
構成/佐藤喬