なぜ高級食品店「ディーン&デルーカ」は失墜してしまったのか?
ディーン&デルーカ敗因の要因は、「世の中の流れに着いていかなかったこと」だと考える。
ディーン&デルーカがオープンした1977年は、オリーブオイルやキャビアといった食材がなかなか手に入らいない時代であったため、「珍しい食材、高級な食材を提供している」というだけで人々の心を捉えることができていた。
しかしそれから40年が経ち、かつて入手困難であった高級食材は、イータリーやアマゾンで簡単に購入することができるようになった。
ディーン&デルーカの看板商品であった「高級デリ」も、ホールフーズに行けば、もっとリーズナブルな価格でオーガニック野菜を用いたヘルシーで美味しいものを購入することができる。
また現在は、ミレニアル世代を中心に、「高級な商品」よりも「ローカル」「体験価値」「サスティナビリティ」という要素が重視されつつある。
お高くとまった画一的なブランドよりも、親しみのある「らしさ」のあるブランドに人々は魅かれるようになってきている。
今アメリカで勢いに乗っている食料品店と言えば「イータリー」。
キャビアや高級チーズなどの高級食材を取り揃えながらも、焼きたてピザが楽しめるベーカリーや、シーフードサラダなどイタリアのデリをカジュアルに楽しめる場も提供し、「イタリアの市場」のような雰囲気を創り出している。
また、店舗にはキッチンルームが併設されており、イタリア料理教室やワインとチーズのマリアージュを学ぶセミナーなど、イタリアの食文化を体感できるイベントを数多く開催しており、商品だけでなくユニークな食体験も提供し、ファンとの絆を深めることに注力している。
このように食を取り巻く環境は大きく変化し、ライバルが続々登場してきているにも関わらず、単なる「高級食品を扱うブランド」というポジションに胡坐をかいたままであったため、ディーン&デルーカは失墜してしまったのではないだろうか。
なぜ日本では人気が衰えないのか?
本家ニューヨークでは完全に下火のディーン&デルーカだが、日本での人気は衰えず、新業態レストランもオープンしている。
例えば2017年にオープンした「THE ARTISAN TABLE DEAN & DELUCA(アーティザンテーブル ディーン&デルーカ )」。
「ARTISAN(アーティザン)」と呼ばれる食の作り手と食べ手をつなぐ「フードラボラトリーレストラン」として話題になった。
なぜ日本では依然として人気なのか?それは日本人のニューヨークに対する憧れにあると考えられる。
私たち日本人にとってニューヨークは永遠の憧れ。ニューヨークのトレンド情報はいつだって話題になるし、「ニューヨーク発」というフレーズが付けば人々はすぐに飛びつく。
ディーン&デルーカの商品はどれも決して安くはないが、ニューヨークのライフスタイルを味わうために私たち日本人はお金を費やしている。
休日のブランチに、ロゴが入ったマグカップにコーヒーを淹れ、スモークチキンとバジルソースを合わせたキッシュロレーヌを食べ、ニューヨークの風を感じる。
このようなライフスタイルを望む日本人が多いため、日本でディーン&デルーカの人気は衰えないのではないだろうか。
ディーン&デルーカの今後の行く末は?
珍しい高級食材を提供することで、多くの人々を魅了してきた「ディーン&デルーカ」。
「食のスペシャリストが選んだ食材を主役に」というブランドコンセプトからもう一歩踏み込み、食材を通じて人々のライフスタイルをどうしていきたいのか?を突き詰めることで、復活への道が見えてくるかもしれない。
文/小松佐保(Foody Style代表)
一橋大学経済学部卒業。
日本&シンガポールのブランドコンサルに勤務した後、独立しアメリカ・ボストンへ。
会社員時代に生活習慣の乱れが原因で体調を崩したこと、ボストニアンの心身共にヘルシーなライフスタイルに感化されたことで、「食×健康」領域に関心を抱くように。
現在はボストンと東京を行き来しながら、食×健康領域に関わる企業のマーケティングコンサルや海外展開サポート、コラムの執筆等を行っている。