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実在した人物を演じたらナンバーワン!ロザムンド・パイクが女性戦場記者の激しくも華麗な生き様を演じた傑作「プライベート・ウォー」

2019.09.13

■連載/Londonトレンド通信

 9月13日公開の『プライベート・ウォー』は、戦場記者メリー・コルヴィンの実話を元にした映画だ。被弾して片目の視力を失い、黒アイパッチ姿で有名になったコルヴィンは、とうとう戦場で命までも失う。

Paul Conroy APW Film II, Limited

 そんなコルヴィンの深く刻まれた人生の軌跡は後述するとして、まずは演じたロザムンド・パイクから書きたい。何しろ、近年、活躍が目覚ましいのだ。

 1979年ロンドン生まれ、オックスフォード大生だった頃から舞台女優、舞台監督を務め、テレビドラマにも出演、フランス語、ドイツ語も話せる才媛だ。映画デビューとなった『007 ダイ・アナザー・デイ』(2002)のボンドガールが、世界デビューともなった。ボンドガールの例にもれず、スタイルのいい正統派美人だ。

LONDON, ENGLAND – OCTOBER 20: (L-R) Stanley Tucci, Tom Hollander, Rosamund Pike, Jamie Dornan director Matthew Heineman attend the European Premiere of “A Private War” & Mayor of London gala during the 62nd BFI London Film Festival on October 20, 2018 in London, England. (Photo by John Phillips/Getty Images for BFI)

 だが、『ダイ・アナザー・デイ』のボンドガールなら、ハル・ベリーの方を記憶している方が多いのでは。それ以降も、キーラ・ナイトレイの姉役(『プライドと偏見』2005)や、キャリー・マリガンの友人役(『17歳の肖像』2009)など、大きな作品ではキャラの立っている主演女優の脇でいることが多かった。

 その経歴がうまく働いたのが『ゴーン・ガール』(2014)だった。失踪した妻(パイク)の行方を追う夫(ベン・アフレック)から展開するスリリングな物語で、特に前半は予断を許さない。完璧なカップルのように見えた2人、美しい妻は何か事件に巻き込まれたのか、あるいは夫が?

 この配役の妙は、妻を他の女優で思い浮かべるとわかりやすい。例えば、スカーレット・ヨハンソンあたりなら、失踪の原因は妻側にも何かありそうだ。グウィネス・パルトローあたりなら、アフレックが悪者に決まってる。と、予断しそうだが、パイクだとできない。どちらに転ぶか、ほんとうに予断を許さなかった。その分、後半の驚きが大きい。

 はっきりしたイメージがついていなかったのが功を奏した当たり役だ。後半を支える演技力も十分だった。この役でパイクは、ロンドン映画批評家協会賞など多くの女優賞を受賞、アカデミー賞にもノミネートされた。

 『ゴーン・ガール』のロンドンでの上映会に登場した際、パイクは役を選ぶ基準を「人に好かれるかどうか、ますます気にならなくなってきたわ。好感度は重要ではないの」と語っている。

 そういう役選びは、このところの主演作からも見て取れる。1940年代にアフリカの王子に嫁いだイギリス女性を演じた『A United Kingdom』(2016)で、偏見に打ち負かされることのない、優しくも強い女性像を見せたかと思えば、『エンテベ空港の7日間』(10月4日公開予定)では、1976年にドイツで起きたハイジャック事件の犯人をリアリティーを持って演じて見せた。

 両作とも実話を元に実在の人物を演じているわけだが、これからの注目作『Radioactive』でもキュリー夫人を演じている。

LONDON, ENGLAND – OCTOBER 20: Rosamund Pike attends the European Premiere of “A Private War” & Mayor of London gala during the 62nd BFI London Film Festival on October 20, 2018 in London, England. (Photo by Gareth Cattermole/Getty Images for BFI)

 こうしてみると、強い個性を感じさせないパイク自身のキャラクターが、実在の人物を演じる時にも強みになっているようだ。今回の『プライベート・ウォー』も、演じるパイクのキャラクターが邪魔することなく、コルヴィンとして観られる。

 コルヴィンは1956年生まれのアメリカ人だ。ロングアイランドで生まれ、エール大を出て、UPI通信で働いた後、イギリスのサンデー・タイムズ紙に移り、ロンドンを拠点に活動するようになる。

 激しい戦闘の場から数々の貴重な報道をし、最後も戦場で亡くなったので殉職ということになろうが、コルヴィンには仕事一辺倒の硬さはない。戦地でも化粧をかかさず、高価な下着を着け、映画中では「死んだ時のために」と冗談めかすシーンもある。女性としても魅力的なコルヴィンの恋愛模様や、悲惨な現場に日常的に身を置いたことからのPTSDも描かれる。聖女でも無敵のヒロインでもないのだ。

 幼子を抱えた女性たちが爆撃にさらされる場を、ギリギリまで撤退することなく報じようとするのも、仕事への忠誠心というより、強いヒューマニズムを感じさせる。それが最前線での報道を続けることができた理由でもあろう。全人的に仕事をし、生き、死んでいった稀有な56年の生涯だ。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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